2025年04月29日(火)公開
漬物企業が『パン』あぶらとり紙のよーじやが『10割そば』!?京都みやげの定番企業が新展開 背景に"観光客頼み"への危機感「ファンに支えられるブランドではなかった」
編集部セレクト
あぶらとり紙で有名な「よーじや」、京つけものの「西利」、千寿せんべいで知られる「鼓月」…。京都みやげの定番の店が今、こぞって観光客向けではない商品に力を入れ始めています。「脱・観光依存」を掲げる各社の戦略を取材しました。
おみやげの定番菓子『千寿せんべい』をコンビ二で販売!
春の観光シーズン真っただ中の京都。1年で5000万人以上が訪れます。
(インドから)「竹林を見にきたよ。日本はとてもよくて美しい国だね」
(日本人観光客)「(Q人は多い?)増えていますね。お祭りのようにこうやってじゃないと歩けないくらいですね」
京都の経済は観光で潤っているように見えます。ただ逆に、「観光客に依存しすぎる」という経営に危機感を抱き、さまざまな理由から新たな動きを模索する企業が出始めているんです。
「千寿せんべい」で知られる和菓子店「鼓月」。直営店や百貨店での販売に限っていましたが、4年前から新たな販路を開拓しています。それは…
関西各地のコンビニでの「千寿せんべい」の販売。おみやげ用の箱売りではなくバラ売りにしているのが特徴です。
(地元客)「専門店は入りづらい印象がある。身近に置いてくれると手が出やすい」
コンビニでは普段づかいのお菓子として手に取ってもらうことを目指しています。今後、スーパーなどにも販路を広げようと計画していますが、こうした変化の理由を聞いてみるとー。
(鼓月・広報担当 鳥飼優介さん)「コロナ禍でインバウンド需要が激減して打撃を受けたことを考えると、日常生活に溶け込んだ商品という意識をもつのはひとつの大事なポイントだと思います」
漬物作りで使う「甘麹」を生かして「食パン」を開発!?
パンデミックや景気に左右されないよう、「観光」と「普段づかい」の二刀流を目指す企業はほかにも。
続々とお客さんが入っていく先は、「京つけもの西利」。新潟から来たツアー客です。次から次へと漬物をかごの中へ。
(ツアー客)「(千枚漬け)7~8枚は買いましたよ。友達に。(Qおいくら?)2万4000~5000円」
ただ、賑わっていた店舗もツアー客が去った後は客はまばら。漬物の購入客は観光客や高齢者が中心で、より幅広い地元客らに親しまれる商品を開発しようとたどり着いたのが、なんと「食パン」です。
漬物を作る際に使う甘麹を生地に混ぜて「西利」ならではのパンを作りました。
(記者リポート)「非常に甘い香りがします。めちゃくちゃやわらかくてしっとりしてます。はちみつとかが入っていないそうなんですけど、それがうそだと思うくらいとても甘いです」
2020年の販売以降徐々に人気が集まり、1日約120本が売れているといいます。
(地元客)「(食パンは)ここで買います。私は好きです」
(西利・製造本部パン工房 北村賢工房長)「スーパーでもイベントとして食パンを取り扱っていただくことがある。大々的に漬物も扱っていただけるので、相乗効果があると思います」
“あぶらとり紙のよーじや”が抱いた危機感とは?
あぶらとり紙で有名な「よーじや」。こちらも「おみやげ」メインだった経営体質から大きく脱却しようとしています。
(西村麻子アナウンサー)「京都らしい雰囲気が広がるかなと思いきや、ハンドクリームや香水も並んでいましてコスメショップといった雰囲気で、思っていた印象ととちょっと違います」
京都の繁華街に2月にオープンしたばかりの『よーじや四条河原町店』。目立つ場所にあるのは化粧品です。おみやげで人気のあぶらとり紙は前面に出していません。それには理由が…。
(よーじや5代目 國枝昴社長)「『脱・観光依存』という言葉をかかげて、商品ラインナップを日常に寄り添う形で増やしていこうと」
創業120年を迎えたよーじや。当初は化粧品や日用品の店で楊枝と呼ばれていた歯ブラシの販売にも力を入れていたことから「楊枝屋さん」と地元の人たちに親しまれ、この愛称を店の名前にしました。
大正時代にあぶらとり紙を商品化。時間をかけて京都の観光需要を取り込み、平成に入るころには「よーじやといえばあぶらとり紙」と言われるほどのブランドになりました。しかし國枝さんは、当時の状況について強い危機感を覚えたといいます。
(國枝昴社長)「(Q飛ぶように売れた当時をどう思っていた?)あぶらとり紙ブーム以降のよーじやは、何をやっても売れていた。天狗になっていた部分はあると思うんですね。リピーターが少ない、ファンが少ない。ファンの方に支えられているブランドではない」
2000年ごろ、あぶらとり紙はよーじや全体の売り上げの約8割を占めていました。ピーク時は40億円の売り上げ(※よーじやグループ全体)を誇りましたが、競合他社の参入やあぶらとり紙ブームの陰りもあり、観光客頼みの「リピーターがいない」よーじやの売り上げはどんどん低下していきました。
さらにコロナ禍が加わり、2020年の売り上げは前年に比べ97%落ち込みました。
(國枝昴社長)「(通販で)買おうと思えば商品を買える環境にはあったんですけど、京都に行けないんだったら買わなくてもいいや、とみなさんに思われているのを痛感して、観光客以外の方々に魅力を感じてもらうブランドになる努力をしなきゃいけないと」
化粧品の新ブランド、蕎麦店…目指すのは「普段づかい」
2019年、社長に就任した國枝さんは次々と改革を進めます。その1つがスキンケア用品の見直しです。創業当時の原点に立ち返り、2年前、新しい化粧品ブランドを立ち上げました。観光客以外のリピーターが増え、いまでは売り上げトップはあぶらとり紙ではなく和の香りにこだわったハンドクリームになったといいます。
さらに、よーじやの脱・観光依存はこれだけではありません。3年前から新たな客層を取り込もうと意外な事業も始めています。
(國枝昴社長)「こちら『十割蕎麦専門店 10そば』っていうんですけど、実はよーじやがやっているお店です」
ビジネス街近くにある「十割蕎麦専門店 10そば」。メニューはざるそば一杯500円(税込み)で大盛無料。
(西村アナ)「おいしいです。お蕎麦の香りしますね。つるっと食べやすいですし。これだけ入って500円って」
職人を雇わず機械化することで低価格を実現し、普段づかいできる店を目指しました。
(利用客)「非常にリーズナブルで。このへんはだいたい1000円超えが多いんですけど、サラリーマンの味方です」
ターゲットは観光客ではなく地元の人たち。主力の化粧品や雑貨とはまったく違う分野ですが、地元の客層を取り込もうと異業種にあえてチャレンジしたといいます。
(國枝昴社長)「こういったお店をやっているのがよーじやなんだというところで、ちょっとでもイメージを変えていただけると非常にありがたいと思っています」
模索を続ける京都の企業。「普段づかい」が新たな道となるのでしょうか。
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