アメリカのトランプ大統領は7月、関税を武器に中国からの輸入を制限した。中国もすかさず反応し、アメリカからの輸入品に報復関税をかけた。アメリカは中国以外にも、友好国であるはずの日本やEU、カナダなどからの鉄鋼・アルミ製品の輸入も制限している。背景には11月に行われる中間選挙がある。世界の自由貿易の秩序を壊してでも中間選挙で勝利したいトランプ大統領の戦略だ。この関税の報復合戦はなぜ危険なのか? 7月20日放送の「生!池上彰×山里亮太」で池上彰が解説した。
そもそも「関税」とは?
"貿易戦争"を理解するために知っておきたいキーワードは「関税」。関税とは輸入品に課される税のことで、かつては税収源として重要だったが、今では国内産業を保護するために関税をかけるという側面が強い。例えば牛肉。日本は海外から入ってくる牛肉に38.5%の関税をかけている。一方多くの野菜は3%。つまり畜産農家は安い牛肉入ってきたら競争に負けるので高い関税をかけて保護するが、野菜は競争力があるのでそんなに高い関税をかけなくても大丈夫というわけだ。
ちなみに、日本は以前、お米に778%の関税をかけていたことも。意外なところではこんにゃくいもにも高い関税がかけられている。こんにゃくいもの産地は群馬県。群馬と言えば総理大臣が3人出ている土地で、こんにゃくいも農家には自民党支持者が多い。非常に政治的な理由で関税がかけられていた。
"トランプ・ファースト"の貿易戦略⇒アメリカ中間選挙のため!?
今、世界の注目を集めているのが、この「関税」を使ったアメリカの輸入制限だ。
アメリカは7月、中国から入ってくるハイテク製品など340億ドル分に25%の関税をかけ始めた。そうすると、関税をかけられた中国製品はアメリカ国内では値段が高くなって売れなくなる。このため、中国はアメリカから輸入されている自動車や大豆など340億ドル分に同規模の関税をかけて報復した。これはWTO(世界貿易機関)が決めた「報復関税」というルールに則っている。
アメリカ・中国両国は関税を上乗せする額をさらに160億ドルずつ増やすとしているが、トランプ大統領はこの報復合戦で、中国からの輸入品2000億ドルあるいは5000億ドル分を対象にすると言い出している。5000億ドルは中国からの輸入額のほぼ全額にあたる。
また、アメリカはこれに先立ち、アメリカに入ってくる鉄鋼・アルミ製品に高い関税をかけて輸入を制限している。アメリカの大統領選挙では、その時々で共和党が勝ったり民主党が勝ったりする「スウィングステイト」と呼ばれる州が6つある。前回の大統領選挙でトランプ氏はそのすべての州で勝って当選したが、それらの州には鉄鋼産業の労働者が多く、仕事を確保するというのが公約だった。つまりトランプ大統領の貿易戦略は今年11月の中間選挙、ひいては2年後の大統領選挙を念頭に、関税を使って国内産業を保護しているといえる。
EUがハーレーやバーボンに報復関税をかける訳は?
この鉄鋼・アルミの輸入制限に対し、EU(欧州連合)はハーレーダビッドソンのバイクやバーボンなどに報復関税をかけた。これらはアメリカの共和党有力者の選挙区の産業で、彼らに打撃を与えようという狙いがある。また、カナダはチョコレートやケチャップなどに報復。大統領選挙で接戦だった州に工場があるからだ。
では、こうした関税を掛け合う報復合戦がエスカレートしていくと、どんな結末が待っているのだろうか。
関税の報復合戦の行きつく先は? かつては世界大戦の一因にも
歴史を振り返ってみると、1929年にニューヨークで株価が暴落し大恐慌となった。この時、アメリカは国内産業を保護しようと「スムート・ホーリー法」という法律を成立させる。これは海外からの輸入品に高い関税をかけるもので、ヨーロッパなどは反発してこれに報復。この結果、世界貿易はほとんど止まってしまい、大恐慌をより悪化させたと言われている。そして、その頃、ドイツに現れたのがアドルフ・ヒットラーで、やがて第二次世界大戦へと進んでいった。
トランプ氏は自由貿易を促進するWTO(世界貿易機関)から脱退すべきだと言い出しているが、日本などはEUとの日欧EPA(経済連携協定)や、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)で、アメリカ抜きの自由貿易を進め、自由貿易のメリットを米国に再認識させることなどが必要だ。
「生!池上彰×山里亮太」はMBSにて月1回、金曜日深夜0時20分放送
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