4年前に大阪府立大学と大阪市立大学が統合し、国内最大となった「大阪公立大学」。「総合知で、超えていく大学」をキャッチコピーに、多様な分野を学ぶ選択肢の提供や授業料の無償化など、学生の獲得に向け様々な手を尽くしてきた。その甲斐もあり、志願者数は国公立大学でトップに。2025年9月には、大阪に新しい「森之宮キャンパス」もオープンした。
グローバルで活躍できる人材育成を目指し、新たな教育モデルを模索する2代目・櫻木学長を追った。
自然豊かな土地で生まれた櫻木さん
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―――――櫻木さんはご出身が長崎。どんな場所でしたか?
本当に田舎で、長崎県の佐世保市で生まれましたが、周りは海と山で、「ウサギ追いし、かの山」というような。本当にそういう田舎で、自然に囲まれたところでした。
研究の道に進むきっかけは
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―――――理科がお好きということですが、得意でしたか?
特にということではないんですけれども、いろんなものに興味がありました。本を読んだりとか、小学生の時は、学研の「科学」と「学習」のような雑誌があって、例えばキュリー夫人や、原子核を発見したラザフォードなどの偉人伝。そういうものを見た時に、夢でしたが、そういったことをやってみたいなと漠然と思っていたことがありました。
――――櫻木さんが研究の道に進もうと思われたきっかけは?
大学では物理学科にいたんですけれども、3年生の時にいろんな先生のゼミを取るようになり、たまたまこの先生のゼミが面白いかなと思って入ったところが、原子核物理の研究室でした。その研究室には海外の優秀な研究者がいて、ここから世界に窓が開かれているような感じがしました。最先端のことをしていて、まだ3年生の学生ですが、こういうことが面白いんだと熱く語ってくださって。そうすると、自分も世界の最先端のことができるかもしれないなという気になり、そこから、じゃあここで勉強してみようという気になりました。
転機となった「イギリス留学」
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――――イギリス留学の経験は、大きな転機になりましたか?
実は初めての外国で、いきなり1年間イギリスに行きました。中国やインド、ナイジェリアやベルギーなどいろんな国から留学生が来ていて、世界各国の人と一緒にやっていくという雰囲気がすごく自然にあるところだったので「これがグローバルスタンダードなんだな」というのは感じました。
――――イギリス留学での気づきは?
外国人の方と話をする時に一番感じたのは、自分は日本のことあんまり知らないなということでした。海外の人だと、自分の国の歴史や文化をよく知っていて、それを堂々と話すんです。改めて本当の国際化というのは、別に英語が喋れるとか、お友達がいるということではなくて、ちゃんと自分の国のことも知っていて、相手の国の歴史や文化も尊重して、ちゃんとお互いに尊敬し合いながらコミュニケーションをしていく。それが本当の国際化の入り口なのかな、とその時感じました。
研究はうまくいかないのが当たり前
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――――研究時代の思い出の品をお持ちいただいたと...
これは製図ペンでドイツ製の「ロットリング」といいます。当時の人はみんな使っていて、四六時中机に向かってこのペンで図をかいていました。無心でしたね。自分が出した結果を図にするというのは、自分の子どもみたいなものじゃないですけど、これが自分のやった結果なんだと。それが論文になって国際ジャーナルに載るわけですから。
――――研究を振り返るといかがですか?スムーズにいくものですか?
ほとんどが失敗ですね。うまくいかないのが当たり前で、99%ぐらいはうまくいかない。その中でうまくいくのが本当にわずかということですよね。だから地道な失敗や作業を積み重ねながら、いくつかでも成果が出たら、その時はやはり嬉しいですね。
伝統や特徴のある大学同士の統合...その強みは
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――――研究の道も大変だったと思いますが、その後、大学の統合という大きなお話が来ました。初めて聞いた時はどんな風に思われました?
それぞれが伝統や特徴のある大学で人気もありました。統合する必要はあるのかと正直思いました。強みもそれぞれ違いますし、文化も歴史もかなり違いますので、それぞれの大学の皆さんのプライドもありますし。でも、一緒になることで、より統合効果や強みがでてくるものもありますので。例えば、市立大学は医学部があって、府立大学は獣医の分野がある。今回、獣医学部として独立しましたが、医学、獣医学、農学が一つにある大学ってそんなにない。獣医学部は、おそらく近畿では本学だけですね。
――――そしてその後、学長にというお話が...
学長は、なってみて、その責任の重さというか、最終的に自分が責任を持って決断しなければいけない、判断しなければいけないことが多く、責任はひしひしと感じます。
「大学が社会に学ぶことを最先端の研究を通してフィードバックしたい」
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――――少子化が進むなか、大学経営は難しくなっていきますよね。
そうですね。今、18歳人口が減っていますが、こういう時代なので、AIがどんどん進んでいくし、学び直しが必要な時代です。生涯にわたっての学びというのが必要な時代で、そういう意味では社会人大学院というのも、これからより充実していきたいなと思っています。リスキリングとか、リカレントと言われていますが、生涯にかけて学ぶものが、どんどん新しくなっていく。それは逆に、大学が社会に学ぶものもあるでしょうし、大学が最先端の研究を通して、社会にフィードバックできるものもあると思うので、そういう開かれた場を作りたい。
――――今年度(2026年度)から、大阪府民対象に所得制限なしの授業料無償化に。そんなことできるんですね。
これは大阪府・市がそういう方針で、大学の学士課程と大学院の博士前期課程・修士課程までの学生は、大阪府民であれば、所得制限なしで授業料が無償化になる。経済的になかなか困窮している方が、この授業料無償化で、学びを諦めないで進めるというのは非常にありがたいなと思います。また、授業料を払う余裕がある人も、無償化を利用して海外に留学に行きましたとか、そういうプラスに使ってもらっているという声も聞こえてきたので、それもありがたいかなと思います。
「国際化」を最重要視 英語のみで学位取得可能なコース立ち上げに意欲
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―――学長になられてから、いろいろな提案をされていますね。例えば英語だけを使うようなコースを作りたいとか・・・
私の方針の一番はやはり「国際化」。特に、大学院レベルになると、当たり前のように国際的な活動を学生がしているので。海外から留学生が来た時に、日本語が話せないと学位が取れないというのは、やはりもったいないと思うので、少なくとも、全ての大学院の研究科で、英語だけでちゃんと修了して学位が取れるようなコースを作りましょうと。
――――若いうちにそういう環境に身を置けるのはすごくすばらしいことですよね。
特に若い人には早い時期に、「観光」ではなくて、「中長期」で海外に行ってほしいと思っていて、大学でも、そういう戦略予算で、若手の研究者や大学院生を海外に数ヶ月から半年派遣するような、そうした枠をもっともっと広げていきたい。そこから世界が広がってきますし、研究のレベルもぐっと上がってくると思いますので。また日本の良い研究や文化も海外に発信できますから。国際化は大事ですね。
学長としての夢は「ノーベル賞受賞者を輩出すること」
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――――学長としての夢はどんなものを描いていらっしゃいますか?
例えば、この大阪公立大学からノーベル賞受賞者を出したいなと。5人くらい出るとすばらしいなと思います。夢ですけれども、でも夢は実現しようと思って努力すれば...最初から諦めてしまったら何もできませんから。10年後、30年後、50年後に、この未来社会をどういう風に成熟したサステナブルな社会にしていくかという、それを考えていける大学でありたいなと。
――――櫻木さんにとって、リーダーとは?
信頼は大学にとって非常に大事なものです。信頼の重要性を大学の構成員に繰り返し説き続け、信頼という最高のブランドを確立することに力を尽くすこと、それがリーダーの姿です。
■大阪公立大学
2022年に大阪府立大学と大阪市立大学が統合し、12学部・学域 1万6000人の学生を有する大学に。2025年9月には、新たな拠点となる大阪・城東区の森之宮キャンパスを開設。ほかに杉本や中百舌鳥など複数のキャンパスがある。
■櫻木弘之(さくらぎ・ひろゆき)
1957年11月19日生まれ 長崎県佐世保市出身
1980年 九州大学理学部物理学科 卒業
1985年 九州大学大学院理学研究科物理学専攻 博士後期課程修了 理学博士
1985年 東京大学原子核研究所 研究員
1987年 大阪市立大学理学部 助手
1988年 英国ダレスベリー研究所 上級研究員(〜1989年)
1993年 英国サレー大学 客員研究員(〜1994年)
1999年 大阪市立大学大学院理学研究科 教授
2019年 大阪市立大学 副学長
2025年 大阪公立大学 学長
※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している『ザ・リーダー』をもとに再構成しました。『ザ・リーダー』は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組です。
過去の放送はこちらからご覧ください。