虫ケア用品トップの「アース製薬」目指すのは "お悩み解決企業" 川端克宜社長が次の100年を見据え練る戦略とは!?

3分で読める!『ザ・リーダー』たちの泣き笑い

2025/08/29 11:25

 今年、設立100周年を迎えた「アース製薬」。言わずと知れた「虫ケア用品」 の国内シェアトップのメーカーだ。積極的なM&Aを展開し、入浴剤やオーラルケア用品など幅広い製品を扱う会社に成長を遂げた。

 それまでオーナー一族が社長を務めていたが、2014年に生え抜き社員として初めて社長になった川端克宜社長。攻めの経営で業績を拡大させてきた。最近では、大阪・関西万博で大量に発生した「ユスリカ」対策に一役買うことでも話題に。「外国製品に負けない国産品を世界に広める」という思いを社名に込め、「アース製薬は面白いことをする会社だと評価されたら一番嬉しい」と話す川端社長に、「殺虫剤」から「虫ケア用品」に呼び名を変えた理由や、次の100年を見据えた戦略を聞いた。

生まれた直後に命の危機 父親や親戚たちが尽力

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―――地球儀を集めるのが趣味だとか?

 50個以上は、あると思います 。社長室にもいくつか置いています。珍しい地球儀を見つけてはいろいろ買い、たくさんの数になったという感じなんですよ。「アース製薬だから地球儀を集めているのですか?」とよく聞かれるんですが、集め出したのは入社前からで、たまたま入った会社がアース製薬だったということです。

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―――どんな子ども時代を過ごされたのですか?

 生まれてすぐに黄疸が酷くて医者からは「もうだめですよ」と言われ、母も涙を流し、すぐに100%輸血が必要となり隔離されました。 父親や親戚で血液型が合う人を集めて、全部血を入れ替えるというのを生まれてすぐに経験しています。みなさんの協力で、助かる確率は低いと医者から言われたのに、いまお陰さまでこの歳までになったことにまず感謝です。感謝というより一度死んだと思えば「何事もたいしたことはない」と思えます。

―――入社して営業職が希望だったとか?

 自分らしく言わせてもらうと営業職しかやることがなかったということです。理系の学部を出ているわけではありませんし、資格を持っているわけでも手に職がある学生時代を過ごしたわけでもありませんので。自然な流れで営業職になった感じです。

20代で転職活動...お世話 になった元上司の「ある言葉」で踏みとどまる

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―――入社してからいままでで、転機になったことは?

 営業職で入社して、担当を持たせてもらう中で、そこそこ成績も残せるし、簡単に言うと「どこの会社でもやれるやろな」と思うようになりました。そこで、転職活動をしたんです。20代の後半くらいだったと思います。何社か試験を受けたんですが、受けたら幸いにも内定をいただいたので、辞表を書いて当時の上司に提出しました。

―――成績も良かったので引き止められたんじゃないですか?

 いろいろ言ってくれましたよ。「辞めるな」とか「何でや」とか。それはありがたいと思う中で、入社時に配属された部署の直属の上司にだけは、あとで誰かから聞くのではなくて自分の口から辞めると伝えないといけないと思って電話したわけですよ。そしたら話を聞いてくれて「そうか」と。そして電話を切りかけたときに「せやけどお前の話を聞いていると、ようはアース製薬でライバルがおらんということやろ?」と。「そういうことやったら、ライバルがおらんほうがええやんか」という話になったわけですよ。

 「お前やったら受かった会社に行ってもそれなりにやるのは分かるし、目に浮かぶけど 、ライバルは多いで」という話になり、「ライバルがいないということは、トップでいるのもいい部分がある」と。私はその発想が全くなくて「なるほど」と変に納得しまして。結局、辞めるのを止めたわけです。いろんな人との縁というか、アース製薬に残っているのもそういう元上司との縁で、下手したら会社を辞めていてもおかしくなかったんです。

まさかの社長指名に「何を言っているんですか?という感じ」

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―――初めての生え抜き社長ですよね?

 まずもって弊社の長い歴史のなかで、社長は「大塚さん」と名のついた人が務めていたわけですよ。私が入社した時も「大塚さん」でした。いまの会長が社長の時に、辞める5年くらい前から「あと5年で引退する」と言い出して、私も社員として聞いていたんですが、社長は「大塚さん」がすると思って会社に入っていましたので。「社長をやってください」と言われた時は「青天のへきれき」という言葉が正しいんですかね。「次の社長は俺と違うかな」とは全く思っていませんでした。

―――全く思っていなかったのですか?

 「え?何を言っているんですか?」みたいな感じです。本当にびっくりしました。「社長になるのか」と思ったんですけど、5分も悩むか悩まないかくらいで「もう考えるのをやめよう」と。もう考えてもしょうがないと思ったのは、本当のことです。いまから考えると、あまりくよくよ考えない性格も社長に指名された要素のひとつかなと。考えても仕方がないですよね。世の中には、自分の力ではどうしようもないこともありますし。

社長就任早々、大型M&Aの決断を迫られる

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―――いままでで大きな決断は?

 社長になった最初の役員会議で、どうやって 進行すればいいのかも分からない時に、現グループ会社の白元アースの買収案件が議題にありました。42歳の時です。案件が案件で、それこそ失敗したら会社が転ぶような案件ですから。新入社員に「失敗はどんどんしたらエエよ」というのとは違いますからね。それが社長としての大きな決断ですかね。「社長に就任したばかりの人に判断を任せるか?」という話ですが、いまとなってはありがたい経験となっています。

―――いまは、白元アースも収益を上げていますね?

 いまでは、こうして話をさせていただけるようになりましたが、当時は必死ですよね。必死を通り越していたかも分かりませんね。その後もいろいろな企業のM&Aをしていますが、企業の成長戦略の中でタイミングがあってまさに縁のたまものがM&Aなんですよ。「この会社が欲しい」と言っても買い物ではないので、簡単に買えるわけではありませんし、タイミングとか向こうの意向とか、いろんなことがあります。

―――M&Aも縁が大事だと?

 「あの時は欲しかったけどいまは要らない」とか「あの時は売る気はなかったけどいまは売りたい」とか、タイミングがずれると成立しないじゃないですか。だからタイミングが本当に合わないと。それが上手く合うとお互いにシナジーを生んでいくと考えています。そして、ひとつ良い成功事例ができると周りにも「アース製薬はM&Aに興味があるんだ」と思っていただけると思うんです。私が社長になってから数年間は、そういった縁が多くありました。

目指すのは「お客さまのお悩み解決企業」

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―――「アース製薬」の強みは?

 常々、社内で言っているのは、お客さまの悩みや「ああしたい、こうしたい」があって製品を手に取りますよね。だから、当社の製品を使って良かったと。それは、小さな悩みでもいいんです。なので、お客さまの悩みをひとつひとつ解決していくことを目指して商品開発をしています。製品 を売るというより「お客さまの悩みを解決する企業」でやっていければ、いいんじゃないかと思っています。

―――社員同士のコミュニケーションも大切にされているとか?

 社員同士でたくさん会話をしてほしいので、本社にカフェを作りました。カフェでは、社員が2人同時に社員証をかざせば、自動販売機で好きな飲み物を無料で提供しています。ひとりでは貰えないので、必ず誰かを誘わないといけない。それだけでコミュニケーションができるじゃないですか?アイデアは、どこで生まれるか分からないでしょ?カフェでくつろいでもらって、いろいろと話をして。そこで生まれたアイデアがたくさんあれば嬉しいですよね。

「そもそも殺すでしょ?」消費者の声を受けて「殺虫剤」→「虫ケア用品」に

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―――これまでは「殺虫剤」と呼んでいたのを「虫ケア用品」に変えましたよね?

 「虫ケア用品」のトップメーカーとして自社の売り上げや利益を上げることは考えないといけませんが、カテゴリートップメーカーは、カテゴリー全体をどう伸ばしていくかも責任を負っていると思うんです。その中で「殺虫剤」について調査した時に「殺虫剤は使いません」という人が一定数いたんですよ。「何故ですか?」と聞くと「そもそも殺すでしょう?」と。 「あまり体に良いわけないですよね?」とか。「そもそも殺すという字が入っているのが嫌です」という人が一定数いました。

―――名称で製品を敬遠するケースもあるんですね?

 マーケットを伸ばすには、使ってない人に使っていただくという大原則があります。そう考えたときに「殺虫剤という呼び名を変えたらどうか?」ということになりまして。ただ、私が言ったのは「虫を対象にする製品なので、呼称に虫はついたほうがいいよね」と。全く違う名前に変えて「なんのこっちゃ」となっても具合が悪い。それと定着する条件のひとつに「わかりやすさ」がありますので、虫がついて短い呼称が良いということで「虫ケア」になりました。

―――最近は、蚊やハエなどが随分、減ったように思うのですが?

 道路事情や家、いわゆるインフラが 格段によくなっているので当然、害虫は減ります。 でも、いなくなったからこそ一匹がとても気になりませんか?いまは、害虫を殺すのが先決という人の感覚から「一匹でも見たくない」に 変化しています。裏を返せば見る前に予防しておこうと。ですので、虫の数だけがマーケットに寄与するものではなくて、いまの変化に対応できればお客さまのニーズに応えられます。

次の100年の成長の土台「社会で必要とされる会社」であり続けたい

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―――今年は社長になって10年、会社も設立100周年 です。いま思い描いている夢は?

 過去のいろいろな方々の苦労、良いことも悪いことも乗り越えてきてこの100年があります。よく縁の話をさせてもらいますが、たまたまそのタイミングで社長をさせていただいている。その「たまたま」を繋いでいきながら「毎日の一生懸命」を繋ぎ、また気が付いたら設立から200年が経ったよねと。振り返ったら「ここまでよう来たもんだ」と。成長の土台となるのは、社会で必要とされる会社ということなので、形を変えながらでも社会に必要とされる会社であり続けるといいなと思いますね。

―――最後に、川端社長が考えるリーダーとは?

 リーダーということを意識しないことだと思います。意識し過ぎて自分らしくなくなることがよくないと思いますので。やはり、自然体の自分らしくということが大切だと思っています。


■アース製薬
1925年会社設立。1929年家庭用殺虫剤 「アース」を発売。1964年「アース製薬」に社名を変更 。1970年大塚グループが資本参加し、1973年「ごきぶりホイホイ」発売。グループ会社14社、従業員4878人、売り上げ1692億円。

■川端克宜
1971年3人兄妹の長男として兵庫県に生まれる。1994年いまの近畿大学経営学部を卒業し、アース製薬に入社。2013年取締役を経て2014年社長就任。

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している『ザ・リーダー』をもとに再構成しました。『ザ・リーダー』は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組です。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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