MBS(毎日放送)

2022年02月15日 15時10分 公開

「厚底シューズ」開発競争!ナイキに挑むアシックス「目指すはランニングシューズ世界一」

 2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック。日本代表選手のオフィシャルスポーツウエアに刻まれた「アシックス」のロゴマークは記憶に新しい。いまや日本を代表するスポーツ用品メーカーとなったものの、ランニングシューズで革命を起こしたとされる「厚底シューズ」では、ナイキに大きく遅れをとってしまった。果たしてアシックスは再びランニングシューズの分野で輝きを放つことはできるのか?大手商社から転身し、会社のかじ取りを任された廣田康人社長に話を聞いた。

メジャーリーガー大谷選手の活躍を支えたグローブと「二刀流シューズ」
20220215143349-cd3e567a68ea1598d845a54fd21a86d72566d8fb.jpg―――2021年のスポーツ界の話題といえば、なんといってもメジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手の活躍が素晴らしかったですね。
 まさに「ショータイム」ということで、日本のみならずアメリカ、全世界のベースボールファンを興奮させましたよね。想像を超えるすごい活躍だったと思います。
20220215143451-083180de2a10d0d801ff7055b92e8dbcd0cd521e.jpg―――その大谷選手の野球用具をアシックスが提供しているそうですが、大谷選手の用具の特徴は?
 例えば、大谷選手のグローブは通常のグローブと比べて少し大きく作られています。これは、ボールの握り方で相手に球種がわからないようにしたいという大谷選手独自の注文です。そして大谷選手のグローブには、自ら書いたイラストが描かれています。投打の二刀流を描いたイラストで、なかなか上手く書かれているんですよ。このマークは、シューズのタン部分にもあります。私どもはいま、大谷選手にスパイクやバットなど8種類の用具を提供しています。
20220215143550-c0ddb2928c2e11a3ccf6f80f523fec06f2ce7f3c.jpg―――二刀流ならではのこだわりはありますか?
 一般的には、ピッチャーのシューズとバッターのシューズは全く別物なんですね。ところが、大谷選手は1つのシューズでピッチャーもやりバッターもやるのが一番大きな特徴ですね。以前はシューズを履き替えていたんですが、履き替えるときの手間だとか、履いた時のフィーリングの違いが嫌だそうで、投打ともにシューズは一緒がいいそうで大谷選手用の「二刀流シューズ」を作りました。

―――「二刀流シューズ」の特徴は?
 一番大きい特徴は、ほかのシューズと比べると靴底が真平らだという点です。普通は土踏まずを作るんですけど、大谷選手はしっかりグランドに立ちたいという希望がありまして。足で土を感じたいということでしょうかね。つまり安定性ですね、グランドに立った時の安定性をより高めたいと。そういった希望があって、靴底は平らになっています。まさに大谷選手とともに開発したシューズです。大谷選手を見ていて「人間の可能性って本当にすごいものがあるのだな」と思いますし、さらに可能性はどんどん広がっています。未知なる可能性に挑む選手の足元を我々が支えているという誇りがあります。

「三菱商事」関西支社長から「アシックス」社長へ転身
20220215143719-78cc23d159662465a3467eb0d908690a87597354.jpg―――廣田さんは愛知出身ですが、どんなお子さんでしたか?
 地味人間だったと思いますね、本当に。私はもともとスポーツは得意じゃないんです。でも、50歳の時に始めたマラソンだけはいまも夢中です。ちょうど私が50歳になった年に東京マラソンが始まりましてね。東京マラソンを見ていると、結構多くの人が楽しそうに走っているんだなと思いまして。特に、走るのが遅い人たちでも走っているので、私も走れるんじゃないかと思ったのがきっかけで走り始めてハマりました。

―――そうなんですね。ところで、三菱商事の関西支社長に赴任されたのが2017年で、翌年にはアシックスに移られました。転身されたきっかけは?
 関西支社長になって、関西財界の人たちとのお付き合いができて、その中でいまのアシックス会長の尾山さんにお会いしました。尾山さんとのご縁ができて色々と話しているうちに「アシックスに来ないか」と声をかけていただきました。そもそも三菱商事の関西支社に赴任していなければ、いまのアシックスの社長もなかったと思います。

―――まさに運命の出会いですね。
 本当に運命の出会いだと思います。アシックスに来ないか?というより、社長をやらないか?ということでしたから。さすがに最初は冗談だろうと思っていました。でも、尾山さんの誘いが本気だとわかってからは、結構短い間に決まっていきましたね。私はもともとアシックスのヘビーユーザーでしたから、「経営を任されるのも面白そうだな」と思いまして。人生で最大の幸運は、いまの会社に入ったことでしょうね。

就任1年目で取り組んだ「組織改革」
20220215143844-d85756db6130bd83581b6961c5c032b6c43290fb.jpg―――就任されて1年目に早速、組織改革に取り組まれましたよね?
 神戸の本社は、基本的にはシューズやアパレルの企画・開発・製造を担っていました。作った商品を売る人たちは販売会社にいるのですが、こことの距離がちょっとあるのかなと感じていました。「私は作る人、あなたは売る人」みたいな距離感ですね。それをより「一気通貫」で対応ができるようなシステムに切り替えたということです。

―――切り替えたことによるメリットは大きかったですか?
 現場の要望を十分理解して商品を作り、できた商品の思いとか哲学をわかって商品を売るのが基本ですが、これが全くできていなかった。販売担当は商品が売れないと「商品が悪いからだ」と言い、企画・開発の担当は売れないと「売り方が悪いからだ」と言う。そんな感じの雰囲気が社内にあったと思います。それぞれがそれぞれ、自分はきちんとやっているのにと不満を抱えていたという訳です。そういうことじゃなくて、一緒に議論して、製造と販売が一体となってやろうと。それが組織改革の一番の狙いでしたね。

ナイキに先を越された屈辱「長距離界でトップを取り戻す!」
20220215143958-929cbeb2f2c2f242ba68334777e69576c61f3565.jpg―――アシックスといえば、最近は厚底シューズの「メタスピード」が話題ですね。
 メタスピードは、見た目は割とゴツイ感じがするのですが、とにかく軽いです。重さは200gを切っています。いわゆる厚底シューズですが、長距離を走る人たちにとって軽さは絶対なんですよね。この軽さを実現できたのは、新しい素材の開発によってより軽いものができたということと、もう1つは靴底にカーボンが入っているんです。だからとても硬くなっています。このカーボンが入った硬い靴底をしならせて走るんです。トップアスリートたちには硬い靴底をしならせることによっての反発力がいいんですね。

―――厚底シューズではナイキが最初に厚底の靴を開発して話題になりました。
 2021年の箱根駅伝では、残念ながらアシックスの靴を履いて走る選手はいませんでした。靴のメーカーとしては悔しくて悔しくてしようがありませんでした。もう一度、ランニングシューズの分野で、厚底シューズで勝負して「トップをとる」ことを目標にしました。我々アシックスは「頂上作戦」、つまりその分野で頂上をとった上で「消費者に裾野を広げて行く」というポリシーがあります。でも、長距離界でナイキにトップを譲ってしまった。我々にとって屈辱以外の何ものでもないわけです。「それをもう一度、取り返すぞ」っていうのは、我々の強い決意ですね。

―――ナイキに厚底シューズで先を越されてしまった理由は何だと?
 我々は「薄底シューズ」に拘り過ぎていました。マラソン=薄底・軽量だと。この概念に囚われ過ぎたのが敗因だったと思いますね。それからナイキさんが、厚底シューズを世に出した時の我々の感度ですよね。我々はまだ薄底シューズで戦えると信じてしまっていた。どこかに心の緩みがあっと思います。いままでが良かったので、過去の実績にしがみついてしまったところがあったと思います。

「誰よりも仕事に精通した人になれ!」
20220215144110-e3305abe4fe4ec621037826a6354a5b3a34e5278.jpg―――社員のみなさんには「仕事師であれ」とおっしゃっているそうですね?
 「その仕事に関しては、誰よりも精通している人になれ」と言っています。いわゆる「プロ」の仕事師ですよね。それができるようになって、ようやく次の段階にいけるのだと思っています。例えば「廣田に聞いたら必ず答えを出してくれるし、必ず結果を出してくる」。そういう仕事に対して信用・信頼される人間になってほしいとみなさんには言っています。

―――コロナ禍が続きますが、これから目指す経営戦略は?
 イーコマースの売り上げを2023年には全体の約20%にまで引き上げる目標を立てています。顧客データを活用し、ビジネスチャンスを広げるのが狙いです。お客様のデータを分析してより深く知ることによって、いまよりもっとお客さまごとにふさわしい商品であったり、サービスであったりを提供できるはずです。全世界でデジタルを使ったサービスを展開していきたいと考えております。

夢は「ランニングシューズで世界一!」
20220215144210-2151d1da8f1abc72a95764cc8e272954a8489a5a.jpg―――アシックスの社長になって4年目ですが、今後の社長としての夢は?
 世界にはナイキやアディダスという巨人がいますので、そこに肩を並べられるくらいの会社にしていきたい。そして、ランニングシューズの分野では世界でナンバーワンになるということをみんなと誓っていますので、これは実現させたいと願っています。そして創業哲学の「健全な身体に健全な精神があれかし」の実現ですね。つまり「全ての人が、スポーツを通じて健康でいられる社会を実現する」ということを常に言っています。これを達成することが私に課せられた大きなミッションだと肝に銘じています。

―――最後に、廣田さんにとってのリーダーとは?
 リーダーはやはり、みんなを引っ張っていく存在だと思っています。ですから、自分も健康でありたいと思いますし、何よりも考えがぶれないことが大切だと思っています。自分がぶれてしまうと社員たちもぶれてしまいますので。状況に応じて機敏に変えていくことは大事なんですけど、自分の考え・ポリシーがぶれないことが、リーダーにとって最も重要なことだと思っています。

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■アシックス 1949年に復員してきた鬼塚喜八郎が神戸市で運動用品を扱う会社を創業。当時の社員は4人。翌年、最初のスポーツシューズを販売。当時、最も製造が難しいとされたバスケットボールシューズだった。1953年には、足袋をベースにして靴底にラバーを張り付けた「マラソンタビ」を発売。1977年、「オニツカ」など3社が対等合併し、いまの会社に。国内外に62のグループ会社、約9000人の従業員。連結の売上高は3300億円。

■廣田康人 1956年、愛知県名古屋市生まれ。1980年、早稲田大学政経学部を卒業、三菱商事に入社。2010年、同社執行役員。2014年、同社常務執行役員。2018年、アシックス社長に就任、現在に至る。                                       

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時40分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。
『ザ・リーダー』は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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