「世界中にスシローの看板を」 電通、JALを渡り歩いた水留浩一社長の挑戦

3分で読める!『ザ・リーダー』たちの泣き笑い

2019/10/29 12:10

 1950年代に登場し、国内の市場規模が6000億円を超えるまでに成長した回転ずし。中でも8年連続で業界売上げトップのスシローは、35年前に大阪で産声を上げた。2015年から社長を務める水留浩一社長に回転ずし業界で勝ち続ける理由を聞いた。

■少年のころの夢は「天文学者」
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―――少年の頃は、天文学者になりたかったそうですね。
 小学生の時、親に無理を言って望遠鏡を買ってもらいました。とにかく、星を見るのが好きでした。月のクレーターを見たり、土星の輪を見たり。大学も頑張って天文学科のある東京大学に入りました。でもね、頭のいいやつは他に沢山いるんですよね...。周囲のみんな頭がいい。どう考えても、この中で勝てないなと悟りました。

■就職先は電通、その後は経営コンサルタント...異色の経歴

―――そこから急きょ方向転換して、大手の広告代理店に就職した?
 電通で営業をやっていました。5年間...。広告代理店は、出来上がってきた商品をどうやって売るかが仕事です。いつしか、もうちょっと上流にさかのぼった仕事がしたいなと思うようになりました。マーケティング全般、会社経営の全般を手掛けたい、と。

―――5年で電通を辞め、次は外資系コンサルティング会社に。そして、社長までなったのに企業再生支援機構に移られます。なぜ?
 収入はコンサルタント時代の10分の1になりました。うちの家内は、その辺の理解はあって反対されませんでした。「好きなことをしたら」って感じの人です。経営コンサルタントはあくまでもアドバイザー、"こうする"という決定権はありません。自分でリスクをとって物事を決めることは、あまりない世界です。新しいことをやりたい、国の役にも立ちたいという思いもあって、当時、日本経済が厳しい局面だったので、企業再生機構の話をいただいた時はご縁だと思いました。

■日本航空の再建で稲盛和夫会長と出会う
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―――でも、どの企業の経営に携わるかは、わからなかったですよね?
 私の思いとしては、地方の中堅企業の支援をしたいという思いがありました。だけど、ちょっと大きい案件が来てしまって...。国家も大きく関係している日本航空の再建です。最初は管財人代理として入りましたが、会社の役員構成を変えるときに出資サイドの責任者として副社長をやらせていただきました。

―――京セラ創業者の稲盛和夫さんが会長で当時78歳、水留さんは40歳すぎでした。
 稲盛さんは私の親父と同い年。まさに親子です。「ビジネスがわかってない!」とよく怒鳴られました。経営コンサルタントをやってきて、セオリーはそれなりにもっていたつもりですが、現場で働くのは人です。人にどうやって頑張ってやってもらうか、環境をどう作るのか、稲盛さんの考え方は非常に参考になりました。理念的な価値観と数字的な厳しさを組み合わせて人を動かしていくことの大切さを学びました。

■トップとして「常に変化をしたい」と心がけている
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―――JALのあと経営コンサルタントに戻る道もありましたが?
 稲盛さんの横にいて学ばせてもらって、事業会社の経営もやらせてもらって、コンサルタントより事業会社を経営したい、という思いが強くなりました。
 企業トップとして心がけているのは「常に変化をしたい」ということ。会社は停滞すると非常によくない。先が見えずに社員が辞めていく。常に新しいテーマを投げかけています。どんどん宿題を出して、みんながヒイヒイ言っているのを見て「頑張ろうね」と声を掛ける。

―――穏やかな笑顔で、時には檄を飛ばしつつ? それが活気につながるのですかね。
 お客様からみて、前回来たときの体験と何か違うと感じていただけると、また来ようかなという気持ちになるので、変化を作り続けることがトップとしての仕事かなと。

■回転ずしを"世界食"に!
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―――飲食業界の厳しい競争の中で、成績を上げていますが、スシローの強みは?
 「おいしいものをお財布に優しい形で提供する」ことを目指しているので、その思いとか軸がぶれない、一本筋を通しているのが結果として出ているのかなと思っています。

―――いろんな会社がある中で、スシローを選んだのは?
 「日本のサービス業で、世界で勝てるブランドをつくれないか」という思いがありました。その中で、スシローは日本食のすしがテーマで、私が来る前からいいビジネスモデルを作りつつありました。会社として可能性があると思って入りました。
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―――世界に打って出るのを前提にスシローを選ばれた?
 当時から日本では最も大きな回転ずしチェーンでしたが、単に大きくするのではなく「世界中、どの町に行ってもスシローの看板を見られるようにしたい」と。もうすこし大きい意味で言えば、日本の産業でそういうものが生まれると元気になって良いな、と思ってやっています。日本ではどこに行ってもスシローの看板を見る。だけど、日本のサービス業ブランドは、なかなか海外で見ることはありません。日本のサービス業の会社で初めて、世界中のどこの町に行ってもスシローの看板を見られるようになったらいいなと思っています。

■リーダーとは"夢想家"
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―――お話を伺っていると、水留さんの人生には挫折がない感じがします。
 大学時代に天文学をあきらめたところから挫折の道は始まっています。だけど、あまりくよくよしません。「人間万事塞翁が馬」です。その時がよくないと思っても、結果はどう転がっていくかはわかりませんから。

―――リタイヤされてからやりたいことは?
 リタイヤという概念がないですね。定年がないというか、仕事を奪われる方が恐怖心があります。ボランティアかNPOかもしれないですが、何か社会的な活動していないとムズムズする質です。

―――水留社長が考える"リーダー"とは?
 リーダーとは"夢想家"ではないでしょうか。「現実では無理かな」という夢をみんなが夢中になるように語れるかどうか。それがリーダーだと思います。


■スシローグローバルホールディングス
 1984年、大阪・豊中市で開業。現在、国内や海外にグループ566店舗、連結売上高1748億円。2011年から売上げは業界トップ。

■水留浩一社長(51)
 1968年、神奈川県生まれ。東京大学卒業後、大手広告代理店・電通に入社。36歳で外資系コンサルティング会社の社長、日本航空の副社長などを歴任し、2015年、社長に就任。

『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:15放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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