銭湯大好き28歳女性イラストレーターの「図解」がすごい!

情熱大陸を読む

2019/03/20 11:00

東京・高円寺で老舗銭湯の番頭をしながら、全国の銭湯を訪ねユニークなイラストにしている塩谷歩波(えんやほなみ)28歳。早稲田大学で建築を学び、都内の設計事務所で働いていたが体調を崩し休職。苦しい状況から救い出してくれたきっかけが友人が勧めてくれた銭湯だったという。その魅力を伝えようと建築の図法を用いて建物の俯瞰図を描き、素朴な色彩とコメントを添えて「銭湯図解」としてSNSで発信したところ評判を呼び、今や雑誌やWEB媒体から連載の依頼が絶えない。ドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、彼女の日常を通し、銭湯というどこか昭和の香りが残る独特なコミュニティの魅力を浮き彫りにする。

広い湯船と裸の会話で人生が激変

バレンタインデーの夜。都内の銭湯でささやかなパーティーが開かれていた。主役は駆け出しのイラストレーター塩谷歩波(えんやほなみ)。銭湯の魅力をユニークなスタイルで描いた作品が初めて本にまとめられ、晴れて出版にこぎつけた。

刷りたての本を手渡され「うれしいです」と涙が溢れる理由...。
それは処女作完成の喜びだけではなかった。早稲田大学で建築を学び、夢だった設計事務所での仕事に没頭するあまり「機能性低血糖症」を発症し休職。全てに絶望した自分が這い上がるきっかけをくれたのが銭湯だったという。

(塩谷)「もうホントに感謝しかないです...。だって銭湯のおかげで体調も治ったし前向きな性格にもなったし、友達もいっぱい増えたし、立ち直れたし」

各地の銭湯をめぐり、広さや浴槽の形。お湯の温度やタイルの色などを正確に写し取ったイラストを素朴なコメントと共にツイッターで発信しだすと徐々にファンが増え、その縁で東京・高円寺の「小杉湯」で働かないかと声をかけられた。

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世間体や境遇など気にせず、湯けむりの中で裸同士の気取らない会話ができるのが銭湯の魅力。番頭をしながら、入浴方法や注意書きなどを親しみやすいイラストで描いている。

(塩谷)「熱湯と水風呂を交互に入る「交互浴」が人気です。(入浴方法を解説する)チラシもわたしが担当しています」

今の自分があるのは全て銭湯のおかげと語り、一日の終わりには必ず小杉湯で入浴してその日を終える塩谷。小杉湯はもはや「家風呂」なのだ。

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「銭湯図解」はこうして作られる

各地の銭湯をくまなく取材して主人に話を聞き、独特の温かい絵柄で建物の俯瞰や自らが入浴した感想を表現したイラストは「銭湯図解」と名付けられ、やがて旅行雑誌から連載の声がかかるようになった。

この日訪ねたのは、以前からどうしても訪ねたかった千葉市検見川の「梅の湯」。
取材は営業前の1時間で迅速に行う。まずは測量からスタートし、浴槽それぞれのサイズからタイル1枚の大きさまでどこまでも正確に測っていく。

ここ梅の湯を訪ねたかった1番の理由は、男湯に描かれているペンキ絵にあった。岩手県陸前高田の、あの奇跡の一本松の絵。店主によると、当初は1年で別の絵にするつもりだったが、千葉に住む東北の人たちに「忘れないで欲しい」と懇願され4度も書き換えているという。そんな背景も温かなイラストに落とし込んでいく。

測量データから縮尺はから60分の1と決め、A4サイズの紙1枚に男湯と露天風呂を収めることにした。大学院まで建築を学んだ塩谷。下書きには製図用の定規を使い、建物を斜め上から覗き込む建築図法を応用していた。

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物差し使うと絵が硬くなるので、下書きで引いた定規の線を清書ではフリーハンドでなぞっていく。ペン画が完成すると水彩で色をのせる。色付けには彼女なりの愛情がこもっていた。

(塩谷)「浴槽の縁のシミがすごく好きで歴史の重みみたいなものを感じるのでなるべくきれいに書こうとしています」

『梅の湯』のイラスト図解は3日で仕上がった。

1日限定 父とコラボの「コーヒー風呂」

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小杉湯の入浴料は460円。この値段でどこまでサービスできるか。銭湯の楽しみ方をあらゆる角度で提案しようと塩谷が協力を仰いだのは父親の健一郎さんだった。数年前に脱サラし、現在はコーヒー焙煎の専門店を営んでいる。塩谷は父の選りすぐりのコーヒー豆を使って「1日限定のコーヒー風呂」を作ってみたいと考えたのだった。

コーヒー風呂当日。父から届いた豆は、カカオが匂い立つブラジルショコラとピーチやベリーを思い出すモカ・イルガチャフィー。いずれも豊かな香りが持ち味だった。
開店早々やってくる常連に加え、噂を聞きつけたファンで浴室はたちまち一杯になる。

(客)「うわ!すっげぇ」
(客)「めちゃくちゃいい匂いがする」
(客)「コーヒー好きなのでずっと入っていられる」

更に、風呂上がりに淹れたての一杯を楽しんでもらうため、母親の美苗さんも駆けつけて母娘でコーヒーのおもてなし。
最後の客が帰った後は、父が焙煎したとびきりのコーヒー風呂を母と二人で満喫した。そんなささやかな幸せで、心と体は十分満たされる。

(塩谷)
「早稲田を出て設計事務所にはいって、その先に銭湯ってドロップアウトなのかなって...。でも、そう思いながらも銭湯の仕事は魅力的だと思っていました。自分で世間体を気にしていたんだと思いますね」

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過去の自分を振り返りながら、風呂場を入念に磨く塩谷。自信を取り戻すことができた場所だからこそ、いつもピカピカにしておかなければ...。

塩谷歩波28歳。銭湯で働きながらイラストレーターとして再出発したばかり。この先どんな仕事が舞い込もうとも、心のよりどころはずっと銭湯にある。

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「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。MBS動画イズムで無料見逃し配信中!
「情熱大陸」では無料見逃し配信を実施しています!
過去の放送はこちらからご覧ください。

番組情報

毎週日曜 よる11:00~

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