築地の頂点に立つマグロ仲卸人の"仕事論"「これから俺たちが豊洲ブランドを作る」

情熱大陸を読む

2018/10/19 16:30

今月、世界最大の水産マーケットである築地市場が83年の歴史に幕を閉じ豊洲へと移転した。築地市場にはマグロの仲卸だけで190を超える業者が存在したが、その中でもトップクラスの大商いをしている“マグロ仲卸人の雄”が山口幸隆だ。10月14日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、これまで殆ど撮影が許されなかった築地の「大物競り場」を特別に取材。山口の目利きの神髄や、半生をかけて築地ブランドを築いてきた仲卸人としての仕事論が熱く語られた。

1本数百万円のマグロが数秒で競り落とされる緊迫の「競り場」で頂点に立つ男

移転までひと月を切った築地。魚河岸の華は、やはり生のマグロだ。市場内の190を超えるマグロの仲卸業者の中でも、山口の会社はトップクラスの大商いをしており、寿司店だけでも100軒近い店から毎日注文が入る。名だたる高級寿司店が、山口のマグロを求めて築地に通い、国内だけでなくシンガポールやハワイの高級店もがそのマグロを心待ちにしているのだ。

(山口)
「基本的にはいいマグロは全部買う。俺は。余っても買う。人にはやらない」

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この日の競りでは、人気ブランドの「大間マグロ」を始め、近海で取れたもの海外から空輸されたものなど、100本以上の生マグロが並んだ。品定めは、目利きの見せ場だ。山口は競りが始まるギリギリまでマグロの腹に懐中電灯を当て、尾の切り口から身の状態を読んでいく。いいマグロは人の体温で脂がとろけ絡みついてくると言う。

(山口)
「1番は絶対買っとけよ。2番は、ばかみたいに高かったらやめとけ」

最も評価の高いマグロは部下に任せ、自らは駆け引きが難しい競りに臨んだ。競りは"騙しあい"だ。経験がものを言う。山口はこの日、1番2番のマグロを始め15本のマグロを競り落とし総額は2千万円を超えていた。1本のマグロが、わずか数秒で落札されていく「大物競り場」はエネルギーに満ちあふれていた。

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しかし、競りでどんなに見極めようとも、本当の良し悪しは包丁を入れてみないと分からないと言う。例えば、海外の漁師がモリの突きどころを誤り背や腹に傷が入れば、その部分は商品にならない。物によっては数十万円の損失になることも。実際に包丁を入れてマグロの脂の乗り具合や旨味、甘味を見極め、顧客の好みやその店のシャリの特徴に応じて届け先を決めていく。注文に応じての切り分けは、他の者にはやらせず山口本人が行っている。

1日に握りを50貫以上食べるほどのマグロ好き「俺はマグロの夢しか見ない」

関東大震災(1923年)で江戸時代から続いた日本橋の魚河岸が焼け、仮設として建てられた築地市場が正式に開場したのは1935年のことだった。いつも活気にあふれ、混雑は日常風景になった。中で働く人も代を重ね、職人気質を培ってきた。愛着を持つ人は多いが老朽化は否めない。紆余曲折あっての移転だった。

山口の半生もまた市場の中にあった。父は築地一と謳われたマグロの仲卸で、山口が大学2年の時に声をかけられ父の店「やま幸」の手伝いに入った。右も左もわからず競り場に立つのだから当初は誰にも相手にされず、欲しいマグロが買えたことなどなかった。
悔しい思いをバネに日本各地の産地を巡り、これまで誰よりもマグロに触れ、味わい、経験値を高めてきた自負がある。だから、就寝中も「俺はマグロの夢しか見ない」のだとか。35年間、マグロ一筋を貫き、半店舗程度の大きさだった店を31店舗まで拡大させた。

(山口)
「とにかく(築地の)思い出って真冬でも汗かいてたよ。白息出しながらも体から煙が出てたよね」

築地ブランドを引き継ぐのではなく、俺たちのプロ意識が新たに豊洲ブランドを作る

《10月6日、築地最後の夜明け前》

この日も一番マグロは山口が競り落とした。

(山口)
「すごい相場だった。死ぬ気で買っちゃったもん。いくら損するんだろうって相場だったね」

翌日からは移転準備で市場が閉まるとあって注文は殺到したが、夕方になると空気は一転、最後の仕事が終わらぬうちに、容赦なく引越し業者がやって来た。

(山口)
「36年間、ここに通い続けたんだな。一旦この形が終わるのかなって色んなことを思うね。言葉に表せない。若い時はマグロもわかんないで、それが一人前になって、築地で一番のマグロが買えるようになる。短時間の間にいろんなことを思ったね」

マグロは泳ぎ続けなければ死んでしまうと言う。山口もマグロのような生き様なのかもしれない。

《10月11日、豊洲市場開場日》
この日も1番マグロを競り落とした山口は、どこか吹っ切れたような顔をしていた。「もう豊洲に来たんだから」と微笑む山口には迷いがない。明るい未来しか見ていないようにも見えた。

(山口)
「世界の人が注目する市場にするかしないかは我々の努力だと思う。ブランドって引き継ぐものじゃなく作っていくものだと思う。我々が築地の時みたいにプロ意識をもって頑張ってやれば豊洲ブランドは自然にできる」

築地でも豊洲でもいい。山口のいるところでマグロは動いている。

番組終了後はネットを中心に、「ダイヤモンドはどこに置いてもダイヤモンド。山口幸隆氏の目利きは場所を選ばない」「仕事に対する姿勢がカッコいい。こんな人と仕事したい」など、山口の生き様を賞賛しエールを送る声が相次いだ。

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「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。

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番組情報

毎週日曜 よる11:00~

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