<センバツ名試合:加古川北ー金沢>柔よく剛を制す 大会ナンバーワンの剛腕に投げ勝つ

エンタメMBS

2019/01/26 12:00

今年で91回目を迎える春の選抜高校野球。昨日には出場校が発表され、話題となった。本連載では、「高校野球生き字引」MBS森本栄浩アナウンサーにセンバツの過去の名試合を振り返ってもらう。今回は、2011年1回戦・加古川北-金沢の試合をピックアップ。秋の近畿大会で大阪桐蔭に勝った加古川北は、初戦で好投手・釜田の金沢に挑んだ。球威では劣るが、強気の投球が光る加古川北の井上を、攻撃陣が得意の「足」で援護する。

大会ナンバーワン投手に挑む加古川北
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「春は投手力」とよく言われる。打撃技術がまだまだ未熟なチームが多いセンバツでは、これまで投手力に特長のあるチームが好成績を残してきた。特に実戦から遠ざかっているため、速球派の投手は簡単に打ち崩せるものではない。センバツ初陣の公立校が、大会を代表する好投手に対し、果敢に投手戦を挑んだ。
加古川北(兵庫)は、前年秋の近畿大会初戦で大阪桐蔭に完封勝ちし、周囲を驚かせた。その立役者が右腕の井上真伊人(3年)。驚くような球があるわけではないが、強気に内角を攻めたかと思えば、超スローカーブで相手を幻惑する実戦派の投手だ。秋の近畿大会では、大阪桐蔭の先頭打者に超スローカーブを投げて緩急を駆使し、強打線を手玉に取っていた。初戦の相手は北信越王者の金沢(石川)。同年秋にドラフト2位で楽天入りするエースの釜田佳直(3年)は、最速152キロを投げる大会ナンバーワンの注目投手だった。試合は、その釜田の前に加古川北打線が沈黙。ある程度予想されたとはいえ、秋の公式戦で1試合平均3個の盗塁を記録した自慢の足も、走者が出なければ使えない。井上も制球に苦しんだが序盤を1安打に抑え、完全な投手戦となった。

持ち味発揮し、大敵倒す
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均衡が破れたのは5回。加古川北は2死から長打に相手のミスが絡んで初めての走者を三塁まで進める。これで釜田のリズムが乱れ、次打者が四球で続くと、ここで得意の足技を仕掛けた。そのあと適時打も飛び出した加古川北が流れをつかむと、井上の投球がますます冴えわたり、相手の内角をどんどん攻めた。そして終わってみれば2安打完封勝利。打線も終盤に相手を突き放す理想的な展開だった。ちなみに井上はこの試合、スローカーブをほとんど使っていない。
加古川北は2回戦でも剛腕・松田遼馬(3年=阪神~ソフトバンク)擁する波佐見(長崎)と当たる。松田も速球を武器に横浜(神奈川)を圧倒した公立の星で、同じようなタイプのチーム同士だった。この試合は井上がもう一つの武器である緩急を自在に使った投球で波佐見打線を翻弄し、またも完封勝利。大会屈指の速球派投手に対し、「柔」の井上が2試合続けて持ち味を発揮し、投げ勝った。それを支えた攻撃陣も、少ない好機に機動力を使って得点する本来の野球を見せ、秋に大阪桐蔭を破った実力を遺憾なく発揮した。
余談になるが、大都市圏にあって兵庫は公立校が格段に強い。首都圏、大阪、愛知、福岡など、夏の記念大会で複数校を送り出している地区と比較すれば一目瞭然だ。近年も市尼崎や明石商、西脇工などが強豪私学を破って夏の代表になっている。面積が広くても、好投手が地元校に通いやすい環境がその一因であると分析している。ただし加古川北は普通科の県立校で、遠方から通う生徒はほとんどいない。そして、強かった時期も限られる。その意味では、この大会での活躍は特筆もので意義深い。このチームは夏の兵庫大会決勝で、原樹理(ヤクルト)擁する東洋大姫路と延長15回引き分け再試合の死闘を演じ、惜しくも春夏連続出場を逃した。公立校がどうすれば大敵を倒せるかを体現した好チームで、もう一度、甲子園で見たかった。指導に当たっていた福村順一監督は、現在、母校の東播磨で、夢を追い続けている。
【文・森本栄浩(MBSアナウンサー)】

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