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20~30センチの再現津波に数秒で流されたスタッフ 専門家が警鐘ならす「津波注意報レベルの津波」 180センチ80キロ超の記者は30~50センチの『ひざ上津波』に全く踏ん張れず【カムチャツカ半島 M8.7地震】

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30日朝、カムチャツカ半島付近を震源とする地震で、北海道から和歌山県まで、広い範囲に津波警報が出ました。これまでのところ岩手県久慈市で1.3mの津波が観測されたのを最大に、各地で数十センチの高さが観測されている。関西では、和歌山県白浜町堅田で16時30分に40センチ。那智勝浦町浦神で16時9分に30センチ。大阪市天保山で20センチなど、広い地域で数十センチの津波が観測されているが、このひざ上・ひざ下程度の高さだからといって侮るなかれ。専門的な実験施設で記者が体験した津波の強さ、専門家が警鐘を鳴らしている。(去年1月の特集記事を再構成)

地震発生後の津波想定…専門家が危険視する「1m以下の津波」

 南海トラフ地震では、最悪の場合、大阪駅周辺でも津波で2mの浸水が想定されている。南海トラフ地震を想定した大阪府のシミュレーションを基に、府内の各自治体は津波のハザードマップを作り、住民に啓発をしている。

 津波到達時間は、例えば、阪南市で70分、泉佐野市で81分、大阪市内で110分と書かれているが、実はこれは「1mの津波」が来る時間の想定だ。それより早く到達するとされる「1m以下の津波」も危険だと専門家は警鐘を鳴らす。

 (中央大学理工学部 有川太郎教授)「20~30cmであっても人を簡単に流してしまう可能性があるような力がある津波だというふうに考えてもらえればと思います」

180cm超の記者があっという間に…“津波注意報レベル”の危険性

取材班は中央大学にある実験施設で津波の危険性を体験した。まず、身長152cmのスタッフの足元に20~30cmの津波を再現した。

すると、スタッフは数秒で流されてしまった。

続いて、身長182cm・体重82kgの記者が体験した。水の勢いに左脚が後ろに流されそうになるが、わずか10秒のことだったので何とか体勢を立て直して持ちこたえることができた。

では、ひざ上までの高さとなる30~50cmではどうか?実験の結果、記者は全く踏ん張ることもできず流されてしまった。

(記者リポート)「気づいたら倒されていました。あっという間に鼻や口に水が入り溺れてしまう状態になりました」

これでも津波注意報レベルだ。

(中央大学理工学部 有川太郎教授)「海岸線に近いところにいる、もしくは海辺で遊んでいる、場合によっては川沿いで遊んでいる方々も20~30cmであっても危険なんだというようなことを理解していただければと思います」

今回、20~30センチの津波が観測された地域

観測点名 これまでの最大波 (時刻と高さ)

久慈港13時52分 1.3m
根室市花咲14時57分 0.8m
八丈島八重根16時19分 0.8m
石巻港14時23分 0.7m
仙台港17時11分 0.7m
種子島熊野17時13分 0.7m
浜中町霧多布港13時11分 0.6m
十勝港16時51分 0.6m
相馬15時07分 0.6m
大洗15時09分 0.6m
神栖市鹿島港16時43分 0.6m
奄美市小湊16時31分 0.6m
えりも町庶野13時32分 0.5m
八戸港13時47分 0.5m
宮古15時08分 0.5m
釜石14時13分 0.5m
石巻市鮎川17時16分 0.5m
館山市布良15時41分 0.5m
南大隅町大泊17時37分 0.5m
釧路15時59分 0.4m
苫小牧東港11時32分 0.4m
むつ小川原港14時54分 0.4m
大船渡16時23分 0.4m
いわき市小名浜14時45分 0.4m
神津島神津島港16時10分 0.4m
父島二見15時19分 0.4m
下田港16時17分 0.4m
尾鷲17時22分 0.4m
白浜町堅田16時30分 0.4m
御坊市祓井戸17時21分 0.4m
中土佐町久礼港17時35分 0.4m
日南市油津17時04分 0.4m
種子島西之表17時39分 0.4m
中之島17時23分 0.4m
奄美市名瀬16時33分 0.4m
函館15時51分 0.3m
稚内16時39分 0.3m
枝幸港17時09分 0.3m
紋別港11時15分 0.3m
網走15時50分 0.3m
むつ市関根浜15時39分 0.3m
銚子13時23分 0.3m
横浜13時40分 0.3m
三宅島坪田14時41分 0.3m
沼津市内浦17時23分 0.3m
御前崎16時53分 0.3m
田原市赤羽根14時43分 0.3m
鳥羽16時31分 0.3m
熊野市遊木14時12分 0.3m
那智勝浦町浦神16時09分 0.3m
徳島由岐17時09分 0.3m
室戸市室戸岬17時16分 0.3m
土佐清水16時14分 0.3m
宮崎港17時28分 0.3m
志布志港17時08分 0.3m
串本町袋港14時49分 0.3m
浦河16時06分 0.2m
留萌17時41分 0.2m
東京晴海14時15分 0.2m
千葉13時08分 0.2m
焼津16時28分 0.2m
名古屋14時19分 0.2m
半田市衣浦15時01分 0.2m
豊橋市三河港15時03分 0.2m
大阪天保山14時43分 0.2m
小松島17時37分 0.2m
高知17時05分 0.2m
日向市細島13時19分 0.2m
枕崎17時06分 0.2m
横須賀12時10分 0.1m
四日市14時59分 0.1m
岬町淡輪13時51分 0.1m
洲本13時43分 0.1m
宇和島14時01分 0.1m
別府港16時25分 0.1m
佐伯市松浦13時38分0.1m
阿久根16時47分 0.1m
沖縄市中城湾港14時03分 0.1m
南城市安座真16時41分 0.1m
那覇17時13分 0.1m
南大東漁港16時34分 0.1m
宮古島平良15時26分 0.1m

ハザードマップには載っていない「20cmの津波到達時間」

 実は、大阪府は2013年に、1mの津波が到達する時間とは別にもう1つの“ある想定時間”を示していた。それが「海面変動影響開始時間」だ。これは20cmの津波が来る時間で、1mの津波が来る「地震発生後最短到達時間」とは別のものとして公表されている。

 大阪府が20cmの津波の想定時間も公表した理由とは?担当者に聞いた。

 (大阪府危機管理室防災企画課 福本圭佑主査)「海の近くにいる方に危険が及ぶということがこの20cmの津波が襲ってくることですので、そういう方のためにこの20cmの水位(想定)というのは発表しております」

 だが、取材班が大阪府内の沿岸12自治体のハザードマップを調べると、20cmの津波の想定時間を載せている自治体は1つもなかった。大阪市住之江区は68分(1m津波:110分)、泉佐野市は31分(1m津波:81分)、阪南市は28分(1m津波:68分)など、1mの津波と比べると大幅に早いタイミングで到達する想定だ。

貝塚市の「2つの津波想定の時間差」はなんと57分

 2つの津波想定時間。取材班はその差が最も大きい場所に向かった。

(記者リポート)「貝塚市にある二色の浜海水浴場です。2つの津波想定の時間差、貝塚市は57分です」

 貝塚市のハザードマップでは、地震発生後「約90分で津波が到達」となっているが、20cmの津波は31分。つまり、その差は府内最大の57分だ。さらに誤解を招くとされるのが、90分想定の1mの津波を「第1波」としていることだ。

このことを市民は正確に理解しているのか?

「全然違うやん。30何分か、早すぎるな」
「えらいこっちゃなと思います。ということは(避難に)90分ゆとりがあるのに、それが半分以下になるわけでしょ?」
「びっくりしかないです。30分にしといてくれたらもっと意識が変わるかなと思います」

 57分もの差。貝塚市はこの現実をどう捉えているのか。

 【貝塚市からの回答書より】「ご指摘のとおり、住民に誤解を与える可能性もありますので、正しく情報を理解してもらうために、周知、啓発に努めていきたいと考えています」

『想定最大の地震の場合、大阪府には早ければ10分~20分後に津波が到達』

 いかにして自分の命を守るべきなのか。実際に南海トラフ地震が起きた場合、気象庁は「潮位の変化が始まった時」を津波の観測として情報を出すという。

 (大阪管区気象台 雛川博文地震情報官)「(ハザードマップに記載される)1mの到達の時間と気象庁が発表する時間には違いがあるというところを覚えておいてほしいと思います。(Q南海トラフ地震では津波は何分後と気象庁は予想している?)想定最大の地震が発生したと仮定しますと、大阪府の最も早いところでは10分~20分後には津波が到達するというような予測情報を出します。大阪市であれば、大阪天保山の到達予想時刻を発表しますので、それですと大阪市には大体50分程度で津波が到達するだろうと。ハザードマップなどで用いられているのは、高さ1mに到達する時刻という形で発表します。でもそれよりも低い津波であっても、海の中にいる人とか、海岸、堤防のより海側にいる方は危険が迫っていますので避難していただきたい」

 ハザードマップが示す津波到達時間。その意味を理解した上で改めて「大きな地震の後は津波に備えてすぐに避難する」という原点に立ち返りたい。(2024年1月15日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)

2025年07月30日(水)現在の情報です

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