2025年11月08日(土)公開
「寝ても覚めてもそのことばかり」前例なき"コロナワクチン後遺症" 治療法確立に奔走する医師に密着 往診は宝塚から愛知や広島まで..."ビタミンD補充療法"で患者を救えるか
特集
新型コロナワクチンの接種開始から4年以上。感染拡大防止や重症化予防に一定の効果を発揮したとされるワクチンですが、接種後に体調を崩し、健康被害=いわゆる“後遺症”を訴えている人がいます。なかには、確立された治療法がないなか医療機関を渡り歩き続けている患者も。そんな患者一人一人と向き合い、「どこでも誰でも治療を受けられるように」と治療法の確立に奔走する医師がいます。「医師としての立場で、接種前の体に戻したい」と話す兵庫・宝塚市の児玉慎一郎医師の取り組みに密着しました。
新型コロナワクチン接種後の体調不良 「薬害根絶デー」で被害の現状を訴え

今年8月、年に一度の「薬害根絶デー」。薬害の防止と被害者救済のため、厚生労働省の前に全国の薬害被害者や家族らが集まりました。
その中には、新型コロナワクチン接種後の慢性的な体調不良=いわゆる“ワクチン後遺症”を訴える人たちもいました。
奈良県に住む倉田麻比子さんもその一人です。
(倉田麻比子さん)「私は2年半前、5回目の新型コロナワクチンを接種しました。副反応の発熱、下痢、じんましんと続く症状があり、1週間後からまともに歩くことができなくなりました」
5回目の接種で車いす生活に…困難に直面してきた当事者の声

倉田さんはもともと看護師として働いていましたが、おととし1月、職場で受けた5回目のワクチン接種後、高熱に倒れ、目が覚めると手足に力が入らなくなっていました。以後、四肢の脱力や倦怠感、頭痛やめまいなど様々な症状が続いています。いまも車いす生活で、仕事は無期限で休職中です。
厚生労働省の発表によると、新型コロナワクチンの接種後の体調不良について「コロナワクチンとの因果関係が否定されない」として治療費などを給付する「予防接種健康被害救済制度」の対象と認められた事例は、倉田さんを含め10月時点で9330件にのぼっています。しかし、倉田さんは患者の一人として、国はこの問題に十分に向き合っていないと感じています。
接種直後、体調不良に見舞われた倉田さん。その当初は奈良県内の医療機関を受診しても「原因不明」「治療法なし」などとしてたらい回しにされました。さらに、救済制度に申請するにあたっては体調不良のなか病院の診察記録など膨大な資料を取り寄せる必要に迫られ、心身に大きな負担がかかったといいます。
同様の困難に直面している患者の声を多く聞いていた倉田さんは、実態を知ってもらおうと厚労省の前でマイクを握りました。
(倉田麻比子さん)「私はずっと疑問に思っています。国は、医療は、制度は、立場の弱い人のために寄り添うものではなかったのでしょうか?」
“後遺症”患者を約200人診察 一人一人と向き合う医師

こうした複雑な思いを抱える倉田さんを支える人がいます。
兵庫県宝塚市の病院で働く児玉慎一郎医師です。
いまは救急や検査の業務とともに、
▼コロナ感染症の症状が長引く患者(いわゆる”コロナ後遺症”患者)
▼コロナワクチン接種後の体調不良が続く患者(いわゆる"コロナワクチン後遺症”患者)
を合わせて200人ほど診ています。
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中には体調の問題で宝塚への通院が難しい遠方の患者もいることから、週末を使って17人の患者のもとへ往診しています。車いすに乗らないと外出できない倉田さんも、児玉医師の往診を受けている患者の一人です。
奈良県内の医療機関では十分な治療を受けられなかったという倉田さん。関西の医療機関を渡り歩き、去年の秋にたどり着いたのが宝塚の児玉医師でした。
「特効薬は無い」それでも…

児玉医師は血液検査で、倉田さんは神経や免疫の働きなどに関係する「ビタミンD」が欠乏していると診断しました。
▼健康な人 30ng/mL以上
▼当時の倉田さん 15.4ng/mL
その後、投薬や食事などでビタミンDを補う治療を行ったところ、ビタミンDの数値とともに倦怠感などの症状が少しずつ改善してきたといいます。
(児玉慎一郎医師)「特効薬ばーんって、そんなものは無いから。解毒とかそういう概念も無いので。自分を強くするということでこつこつと続けていって、即効性はないけど、半年前と比べたらええわ、1年前と比べたらええわというのを積み重ねていくことが最短距離です」
十分な治療を受けられず心身ともに追い詰められていた倉田さんにとって、児玉医師は貴重な存在です。
(倉田麻比子さん)「何かあったらすぐに連絡してきてねといつも言ってくださるし、本当に親身になってくれる先生にはなかなか巡り合えないのでよかったなと思います。他にもしんどい方はたくさんいらっしゃるので申し訳ない気持ちにもなりますが、先生が来てくださるのはありがたいです」
確立を目指し研究 児玉医師らの「ビタミンD補充療法」

この「ビタミンD補充療法」は既存の治療法ではなく、児玉医師らが確立を目指して研究中の手法です。
児玉医師らが去年発表した論文によると…
・80人がコロナワクチン後遺症をうったえて児玉医師のクリニックを受診
・そのうち28人は体の痛みや病的な倦怠感など「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と診断
・さらにその中の27人はビタミンDの血中濃度が不足
・27人にサプリメントなどでビタミンDを補充したところ、22人がME/CFSの診断基準から脱するほど回復
児玉医師らはさらに複数の医療機関でこの治療法の「ランダム化比較試験」を行い、ビタミンD補充の有効性の裏付けを進めています。また、コロナ感染後の症状が長引いている患者の治療にも効果が期待されるということです。
もともと、「ビタミンD」と「倉田さんのような患者の病態」の関係は、海外の論文などでも指摘されていました。
一方、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」は、以前から明確な診断基準があるものの、治療法が確立されていない病気です。
こうした中で、従来は「原因がわからない蒙昧としたもの」として扱われがちな病態だった“コロナワクチン後遺症”ですが
(1)「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」と診断名をつけること
(2)「ビタミンD」を補充すること
の2つを掛け合わせることで、患者によっては対処療法ではなく根本治療の突破口がひらかれたといいます。
※ビタミンD=不足すると筋力の低下や免疫機能の不具合につながるとされている
※筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群=コロナ感染やワクチン接種の"後遺症”を訴える患者の病態との共通点がある
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(児玉慎一郎医師)「病気に対して、治療法があれば患者さんを受け入れやすくなる。まずは向き合うことから。そこを有耶無耶にしたり、避けたりすると何の前進も進歩もなく、いまの困っているリアルタイムで毎日泣いている人を置き去りにしますよ」
「寝ても覚めてもそのことばかり」 有志の医師として"後遺症”治療に懸ける熱

児玉医師が往診するエリアは近畿だけに留まりません。東は愛知県、西は広島県まで出向いています。ある日には岡山県の患者宅3軒を回りました。
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(児玉慎一郎医師)「いままで何年も医療機関を渡り歩いて断られて、家の近くではなかなか対応してもらえないからという患者さんがいることも事実」
「永遠に遠方の患者さんを診るべきかというのは状況が変われば違うと思うし、僕がいちばん良い治療をしているのかどうかもわからない。受け皿が広がれば的確な治療をしてもらえる患者さんは増えていくと思う」
宝塚市に戻るころにはすっかり日が暮れていました。
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(児玉慎一郎医師)「よくなっているから(頑張れる)。希望がある、という感じですね」
帰ってからもひとりひとりのカルテを丁寧に書きます。今後の治療法の研究に繋げるためです。
児玉医師はこれからも往診と研究を続け、どこでも、誰でも治療を受けられる体制を確立したいと話します。
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(児玉慎一郎医師)「治療法のヒントも含めて診させていただいている責任として、必ず答えを出したい。医師としての立場で、なんとかワクチンを接種する前の身体、コロナに感染する前の身体に戻せるものなら戻したい。寝ても覚めてもそのことを考えています」
国が推奨した新型コロナワクチンの接種開始から4年以上。
その後に発生した健康被害=いわゆる”後遺症”に対し、患者や有志の医師個人だけが向き合っているように見える現状が続いています。
■取材後記:苦難つづく患者に光明はあるか--未来のために今を置き去りにしてはならない

(根本拓海 / MBS記者 webニュース担当 入社3年目 2023年からこの問題を継続取材)
新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種が始まってから4年以上。救済制度の認定件数が9300件を超えている現状を、私たちはどのように受け止めるべきなのでしょうか。
私が取材してきた患者たちからは、「認定件数は氷山の一角ではないか」という声が上がっています。救済制度に申請するには書類集めなどのハードルが高く、申請までたどり着くことができない場合があるためです。実際、体調不良が続くなかで申請の準備が滞っているという人にも取材の過程で出会ってきました。
また、救済制度で医療費などの支援を受けられていたとしても、地元の医療機関で診てもらえなかったことや救済制度の申請や認定の過程で苦労した体験などを経て「国に裏切られた・見捨てられた」と感じている患者は少なくありません。体調不良が続くなかこうした実感がしこりのように残り続けている患者がいる、という現状を重く受け止める必要があるのではないでしょうか。
こうした状況で患者たちを救うために奔走しているのが、兵庫・宝塚市の児玉慎一郎医師です。児玉医師らが確立を目指して研究している「ビタミンD補充療法」は、これまで蒙昧としていた“後遺症”の病態に名前をつけ、具体的な手法でアプローチし、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群からの回復という客観的な指標で効果を測ることができる手法として期待されます。
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ただし、個人の判断でひたすらビタミンDサプリメントを摂取すれば良いというものではありません。
児玉医師は取材のなかで「コロナ感染やワクチン接種により体調に異変が生じている人のなかには体質が繊細になっている人も多い。サプリメント1つ取ってもどのような副反応が生じるかわからず、場合によっては“薬害に薬害を重ねる”ことにもなりかねないので慎重に向き合っていく必要がある」と繰り返し語っていました。この「ビタミンD補充療法」は、相性や効果について知見のある医師と丁寧に確認しながら進めていくものでなくてはならないということです。
これから先、人類が再び未知の感染症に直面し、新たなワクチンの接種に迫られることがあるかもしれません。そうであるとするならば、新型コロナワクチン接種の“後遺症”との向き合いがいかに難しいものであったかということは記憶に残していくべきではないでしょうか。また、いま現在こうした後遺症の原因究明・治療法開発といった課題に直面している人たちを置き去りにしていては、感染症対策や公衆衛生の未来を語ることはできないのではないでしょうか。
これは、コロナワクチンの効果の有無や接種の是非とは切り離して広く議論されるべき問題であると感じます。
2025年11月08日(土)現在の情報です
