2024年10月17日(木)公開
「私が倒れたら誰も見る人がいない」強度行動障害の27歳息子...母は『老障介護』に不安 施設を40か所以上見学も「パニックがあると断られてしまう」
特命取材班 スクープ
重度の知的障害がある涼太さん(27)。普段は穏やかな生活を送っているが、それが一変する時がある。突然、「パニック」を起こすのだ。そんな息子に付きっきりで世話をする母親の和美さん(51)は、老いていく自分と、涼太さんの将来を不安に思い、受け入れ施設を探している。しかし、取材を進めると『施設も限界』の現状が見えてきた。
突然起こるパニック…「強度行動障害」とは
長野県に住む蒲和美さん(51)と27歳の息子・涼太さん。涼太さんには重度の知的障害がある。普段は自宅で穏やかな生活を送っているが、それが一変する時がある。涼太さんが突然、「パニック」を起こすのだ。
壁や床に何度も自分の頭を叩き付ける。こうしたパニックを起こすのは涼太さんが知的障害に加え、「強度行動障害」もあるからだ。
強度行動障害とは自分や他人を傷つけたり物を壊したりするなどの行動が高い頻度で起こる状態を指す。生まれつきの障害ではなく、周りの環境などへのストレスや不安によって生じる。
(母・和美さん)「1分弱、何十秒で収まるときもあれば、1時間半とかひたすらやっているときもありますね。抑えても抑えてももう止まらない、また始まるみたいな。私は抱きかかえるように止めるんですけど、そうするとこの辺に頭がくるのでゴンゴンして、あざになったり」
涼太さんの引き金は「時間へのこだわり」
パニックが起こるきっかけは、涼太さんの場合「時間への強いこだわり」が関係している。
(涼太さん)「お風呂」
(母・和美さん)「はい、お風呂どうぞ」
(母・和美さん)「お風呂入るのが午後5時までには、最近は午後5時までに上がらないとダメみたいな感じで」
リビングには涼太さんの一日の予定が書かれたホワイトボードがある。こうした予定が少しでも狂うと、その後の行動の見通しが立たなくなる不安からパニックを起こすのだという。一日中、目を配らなければならず、家族の生活は常に涼太さん中心だ。
「老障介護」の不安…
和美さんはいま、夫の竜也さん(46)と将来について頭を悩ませている。高齢になった親が障害のある子を介護する、いわゆる「老障介護」になる不安だ。
(母・和美さん)「私ももう50歳を過ぎているので、この先あと何年くらい面倒をみられるんだろうという不安もあるし、私も体調が悪いことが今現在でもあるので、例えば私が今倒れたら誰も見る人がいないんですよ。涼太のこと」
そのため、涼太さんが新しい環境に慣れることができる若いうちに、家を出て暮らせる「施設」を探している。
施設探し、5年で40か所以上見学したが…
しかし、探し始めて5年、40か所以上見学に行ったというが、涼太さんが入所できる施設は見つかっていない。一体、なぜなのか?障がい者の入所施設を取材すると、強度行動障害のある人の受け入れが難しい「現実」が見えてきた。
大阪府岸和田市にある障がい者の入所施設・山直ホーム。40人いる入所者のほとんどに最重度の知的障害と強度行動障害があるが、48人の職員がシフト制で24時間、寄り添った支援を続け、みな、穏やかに生活を送っている。
しかし、この施設への入所待ちは現在130人にのぼり、受け入れてもらうのはかなり難しい。
「強度行動障害」のあるTさん(48)の場合
48歳のTさん。もともとは自宅で73歳の母親が1人で世話をする老障介護状態だった。ところが2年前、母親が突然、救急搬送された。診断は「肺がんの疑い」。息苦しさで声も出せない中、身寄りが一切いない母親は相談支援事業所の職員に「娘の今後を託したい」と懇願した。
(せんなん生活支援相談室 嵯峨山徹子さん)「これがその時のメモなんですけど 筆談で部屋のここに銀行のカードが入ってますとか。(娘の)行き先が見つからない中で本当に無理されてここまで生活されたんだろうなと思います」
搬送の5日後、母親は亡くなった。Tさんが1人取り残されることになると職員から話を聞いた山直ホーム。待機者の中から優先してTさんの入所を受け入れた。
Tさんは施設で暮らす中でも時折、パニックを起こすことがある。取材した日、散歩していると突然、道端で横になってしまった。
(Tさんに話す職員)「くつ履いて帰るで、はだしでは帰られへん。足痛いで、くつ履いて帰ろうか、ほんなら。痛いのせんといて、見てこれ血が出た、痛いなー。帰ろ、帰ろ」
職員2人がかりの声かけで、次第にTさんは落ち着きを取り戻した。
入所施設側の受け入れ『限界』
強度行動障害のある人のパニックに対応するためには、障害への知識を持った職員が数多く必要だが、現状、多くの施設では人が足りていない。山直ホームもすでに「限界」だという。
(施設長・叶原生人さん)「一施設だけの頑張りでは限界がありますので、待機者については国が施策として(入所施設の数を)充実させていくことが根本原因の解決につながると考えます」
一方、国は障がい者を施設に入所させるのではなく、地域で受け入れる政策を進めている。
入所施設の代わりに推奨するのが、地域にある一般住宅で少人数で暮らすグループホームなどだ。ただ、強度行動障害のある人の受け入れは広がっていない。
涼太さんの母が新たな施設を見学 果たして受け入れは…
強度行動障害のある息子・涼太さんが入所できる障がい者施設を探す長野県の蒲和美さん(51)。この日はグループホームの見学をしようとしていた。向かったのは、車で3時間かかる岐阜市。住宅街の中にひっそりとあった。
このグループホームには、強度行動障害のある人も暮らしていて定員に空きがあるという。和美さんは、涼太さんの受け入れについて話を切り出した。
(母・和美さん)「動画を見ていただいたと思うんですけど、涼太のようなパニックがあると、やっぱり受け入れを断られてしまうことが多くて」
(グループホーム担当者)「パニックになる前の兆候とか、そこで止められたら一番いいですよね」
(母・和美さん)「突然やってくるんですよ」
(グループホーム担当者)「こちらの世話人(職員)の特に女性の人からすれば、何かこういうふうにすればいいよっていう方策が確立されているとありがたい。たぶん私でも抑えるのはかなわないと思います」
グループホームに常駐する職員は1人。女性や高齢の人もいるため、涼太さんがパニックを起こさない対応策があれば受け入れられるとの回答だった。和美さんは電話で夫に結果を報告し、ここでの受け入れを諦めることにした。
(母・和美さん)「やっぱり難しいよねって言っていた。パニック対応の策を考えるのが。そこができていればどこでも入れるよねって話になって、そうだよなーって」
自分が老いる前に息子が落ち着いて暮らせる場所見つけてあげたい。だが、先行きは全く見えていない。
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