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住宅ローンの返済ができない...増える「任意売却」という選択 コロナ禍で「施設運営が苦境」「失職」 専門業者『コロナ前に比べて相談件数は約1.5倍に』

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 住宅ローンの滞納による「競売」で家が処分される前に、家を売り払う「任意売却」。一般的に、競売に比べて、任意売却での売却価格は1.4倍ほど高いといわれています。今、コロナ禍で収入などが減り住宅ローンが返せなくった人たちが増え、任意売却の相談も増加しているといいます。

運営する施設の存続を優先 月7万5000円の住宅ローンが払えなくなる

 大阪市平野区にある就労支援施設「就労継続支援B型事務所りせす」。パンの成型作業や革細工といった作業などを通して、障がいのある人の就労に向けた訓練をしています。ひとりひとりに合わせた支援メニューを提供し、この2年で15人の自立を支援してきました。

 (利用者)
 「(スタッフは)悩みごととかあったら真剣に、自分のことのように話してくれるというか。絶対になくてはならない場所」
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 施設の代表を務めるAさんは社会福祉法人での勤務を経て、2年前に知人らとともに開業しました。しかし、施設の運営は決して楽なものではありませんでした。

 (Aさん)
 「コロナ禍でオープンしたので、元々。その辺の覚悟はあったんですけど、ちょうど僕らが立ち上げる頃ぐらいに同時に立ち上がった事業所が結構多くて。初めは事業資金として銀行からの融資とかでやっていけてはいたんですけど、やっぱり(利用者さんの)人数がなかなか思っているより上がらなかったというのがありましたので、そういう意味ではすごく苦しい時期が続きました」
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 施設を気に入って利用する人のためにも、Aさんは代表としての報酬をゼロにするなどして施設の存続を優先。生活を犠牲にした結果、去年の秋、月7万5000円の住宅ローンが払えなくなりました。

 (Aさん)
 「結局、お昼仕事して夜も仕事して、かといってそれが全部自分の収入につながっているかというとそうでもなくて。会社の支払いに充てたり。じゃあどうしたらいいかなと考えた時に、任意売却の話を進めていかなあかんなと」

競売前に売り払う「任意売却」 相談件数は『コロナ前に比べて約1.5倍に増えた』

 住宅ローンの滞納による競売で家が処分される前に売り払う「任意売却」。一般的に、競売に比べて、任意売却での売却価格は1.4倍ほど高いといわれています。
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 Aさんは任意売却を専門に扱う業者に相談。今年2月、業者側から「金融機関と折り合いがつき、家の販売価格が決まった」と連絡を受けました。

 【業者とAさんのやりとり】
 (近畿任意売却支援協会 佐野雅史代表理事)
 「販売価格なんですけれども…980万円です。早いうちに売却できるように私たちも頑張りますので」
 (Aさん)
 「わかりました」
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 あとは家の買い手が見つかるのを待つだけです。任意売却について専門業者の佐野さんの元に来る相談件数は「コロナ前に比べて約1.5倍に増えた」といいます。

 (近畿任意売却支援協会 佐野雅史代表理事)
 「会社を経営されている方からの相談というのは特に増えましたね。あとは飲食業界の方も増えましたし、コロナ禍でホテル業の方からの相談もやっぱり増えてきました」
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 また、コロナ前に戻りつつあるとはいえ、今なお生活が立て直せていない人には「任意売却のニーズが高まるのではないか」と分析します。

 (近畿任意売却支援協会 佐野雅史代表理事)
 「コロナ禍で住宅ローンの支払いが厳しい人に対して金融機関は柔軟に対応してきました。コロナが2類相当から5類に変わることによって、おそらく金融機関は今までのリスケジュール(返済計画の見直し)を閉めていく形になっていく。そうなると住宅ローンの返済ができない方というのはすごく増えていくのかなと考えています」

任意売却したBさん『ローンのことを考えないでよくなって前を向けた』

 去年4月に任意売却をして家を手放したBさん。夫が体調不良で働けなくなったうえに、自身も仕事をなくしたことなどが重なりました。

 (Bさん)
 「(Q住宅ローンの支払いは?)もうできないですね、生活ができないんで。借り入れ・借金とかもしてしまったし、そういうのからどんどん崩れていきますよね」
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 生活苦の中で住宅ローンの負担が重くのしかかります。Bさんは夜の工場アルバイトなどでしのいでいましたが、結局、滞納することになりました。たまたまインターネットで任意売却を知って相談。一般相場と同じくらいの価格で家を売却することができました。

 (Bさん)
 「本当にこれで良かったかなと思ったんですけど、でも売ると決まったとなったときは私は安心でした。もう(住宅ローンを)払わないといけないという毎日毎日頭の中で考えることがなくなるんですよ。そこが『前を向けるかな』『前を向けた』と思いました」

売却後も賃料を払いながら同じ家に住み続けることができる「リースバック」

 就労支援施設を維持するため住宅ローンが払えなくなったAさん。4月末、佐野さんの事務所を訪れていました。

 (Aさんに説明する近畿任意売却支援協会の佐野雅史代表理事)
 「売買代金が入っています。980万円の販売価格に対して30万円の値段交渉が入りまして、950万円という形になっております」
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 大阪市内の不動産業者が950万円で買い取ることで話がまとまりました。ただ、Aさんには気がかりな点が…。様々な思い出が詰まった自宅を手放すことを家族はどう受け止めるのか。

 (Aさん)
 「僕自身はここに住むこだわりはないんですよ。ただ、あとこの数年間は大事な時期やし、子どもの年齢を考えてもね。そういう時にここがあった方が良いやろうなと僕は思ったので」
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 そこで、佐野さんが提案したのが「リースバック」という仕組み。家の所有権は手放すものの、「賃貸物件」として賃料を払いながら同じ家に住み続けるというものです。これを利用することで、月7万5000円の住宅ローンに固定資産税などを払っていたのが、家賃の支払いだけとなり、月2万円ほど負担が少なくなりました。

 (Aさん)
 「身動きが取りやすくなったなという気持ちはありますね。今この状況なので、少しでも負担が減るというのはすごくありがたい話ですし」
 
 (近畿任意売却支援協会 佐野雅史代表理事)
 「任意売却で気持ちも楽になれたとおっしゃっていただいているのは、すごくうれしいことですね」
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 任意売却の相談から約半年、無事に契約の手続きを終えたAさん。佐野さんたちに施設で作ったパンを差し入れますが…。

 (佐野さん)「きょうめちゃくちゃ疲れてません?」
  (Aさん)「きのう寝無しで働いているんで。寝たと思っても1~2時間でパッと目が覚めたりとかがあって、そこが今一番しんどいかなと思いますね。(Qこれからゆっくり寝られそうですか?)寝られたらいいなという感じです」

 生活再建のため「任意売却」を決めた人たち。今後も1つの選択肢として注目されそうです。
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2023年05月22日(月)現在の情報です

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