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「息子が罪に問われると困るので証言拒否いたします」証言台で母親は繰り返した 精神疾患の父親殺害か 元医師の男「長年迷惑、早く死んでほしい」京都『ALS嘱託殺人』一連の裁判《詳報》

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 ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者に対する嘱託殺人罪で起訴された元医師・山本直樹被告(45)が、2011年に医師の大久保愉一被告(44)と母親の淳子被告(78)と共謀して、父親の靖さん(当時77)を殺害したとされる事件の裁判。検察側は3人の共謀を指摘。弁護側は「計画はしたが、犯行は大久保被告が1人で行った」と無罪を主張している。1月13日に開かれた第二回公判には、精神疾患で入院していた父・靖さんの主治医が検察側の証人として出廷した。

主治医「靖さんのことは強烈な記憶として残っている。退院の仕方が尋常ではなく安否を心配していた」

 検察側から「靖さんのことを覚えているか」と問われ、主治医は開口一番こう証言した。

 (主治医)
 「10年以上前のことだが、かなり強烈な記憶として残っている。退院の仕方が尋常ではなく安否を心配していた」

 主治医の証言によると、靖さんの胃に直接栄養を送る「胃ろう」を提案した際、靖さんが希望していたにもかかわらず、山本被告からは「あのような父をどうして治そうとするのか」と強く反対されたという。この時の山本被告の口調に「精神疾患の患者や、精神疾患がある高齢者全体に対して一般論としての発言という印象を持った」と話した。

 さらに主治医は、靖さんには心筋梗塞や脳梗塞の形跡もあったが、退院前日まで体調は安定しており再発の可能性は低かったと説明。山本被告らによって退院した当日に急死する可能性について明確に否定した。

「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 そして1月16日の第三回公判には、山本直樹被告の母親・淳子被告が検察側の証人として出廷した。薄紫色の長袖に、灰色のズボン、白髪混じりの髪を上の方で左右に結び眼鏡姿の淳子被告。裁判官や弁護士に深々と頭を下げ、質問には淡々と落ち着いた様子で、手元の紙を見ながら答えていく。その言葉は全て同じだった。

 【検察側との主なやり取り】
 ―――被告人のお母さんですね?
 「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 ―――山本靖さんは、あなたの元夫にあたる方ですね?
 「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 ―――平成23年(2011年)3月5日に靖さんが亡くなったことについて、あなたが知っていることを教えてください。
 「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 ―――なぜ証言を拒みますか?
 「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 ―――あなたの近親である直樹さんが有罪判決となる可能性がある。そう考えて証言を拒絶する権利を行使するということでしょうか?
 「直樹が罪に問われると困りますので、証言を拒否いたします」

 子どものため、と証言拒否を続ける母親の淳子被告。裁判官が確認する。

 ―――本日、一切の証言を拒否するということでよろしいでしょうか?
 「そういうことでよろしいです」

「直樹から、靖の遺体の前で『大久保が殺した』と言っていたので間違いない」

 しかし検察は、淳子被告が退廷したあと、数日間にわたる淳子被告の「供述調書」(一昨年)を読み上げた。

 【検察が読み上げた淳子被告の供述調書の内容】
 「けさ、京都府警が『靖のことで話を聞きたい』と自宅を訪れました。靖は10年前に死にましたが、病死ではなく殺されたのが事実です」

 冒頭、この文章から始まった調書は、検察と淳子被告のQ&A形式で読み進められていった。

 ―――誰に?
 「直樹から、靖の遺体の前で『大久保が殺した』と言っていたので間違いない」

 ―――誰が最初に殺すと言った?
 「直樹が大久保に『自分や母が靖のせいで苦しい』と言うと、大久保が『殺そう』と持ち掛けてきたと聞いている」

 ―――亡くなった日のことを教えてほしい
 「私と直樹は、靖を退院させるために長野県内の病院へ行った」

 ―――本当に退院させるためだった?
 「靖を連れ出す理屈だった。主治医に会うことなく連れ出し、新幹線に乗った。しかし、車内で靖の顔を見ると、『大久保に預けると殺されてしまう』と思うようになった。やめようと思い『病院に戻ろう』と直樹に言ったが、『大久保がそんなことできない』と引き下がれないと感じた。研修医の直樹は、厚労省の医系技官だった大久保には逆らえないのだと。駅につくと、大久保が大きな車で迎えに来ていた」

 ―――見送ったというが、どんなことが起きると思った?
 「殺されると思ったのは事実です」

 ―――止めようとは?
 「人を殺す大久保を怖いと思った一方で、これで楽になれるとも思った。殺してくれれば、介護せずにごくごく普通の生活に戻れると思った」

 ―――殺し方は?
 「直樹を通じて、殺し方を聞いた。大久保は、『点滴を通じて薬液を入れれば、苦しませずに楽に死ねる』と言っていたという」

 ―――靖を見送ったあとは?
 「直樹から携帯に連絡があり、現場のアパートへ行った。部屋には直樹だけがいた。座布団の上で、仰向けに動かず目を閉じる靖がいた。直樹が『もう死んでいる。大久保がやった』と言っていた。ただ部屋のどこにも点滴チューブが無かったので直樹に尋ねると、『大久保が持って帰った。さすが年数ある医者だけあって手早かった』と言っていて、なにかの薬液を入れたのは間違いない」

 ―――2010年にあなたが直樹に送ったメール《山頂のやつを早くあぼーんするのが今の願いや》。これはどういう意味なのか。
 「これは『死んでほしい』と言う意味。『自然死してほしい』という意味でメールをした。死んでほしいのは私と直樹の一貫した思いだった。靖が延命することは耐えがたいと思っていた」

 一問一答での検察と淳子被告との当時の取り調べ記録が明かされていく中、法廷内のモニター画面には、海外で撮影されたものだろうか、「小道と青々した葉が茂る木」の写真が映し出された。検察は、淳子被告の供述調書を変わらず淡々と読み上げていく。

 【検察が読み上げた淳子被告の供述調書の内容】
 「あと、遺骨がどこに埋まっているのか以前言わなかったが、本当のことを言う。遺骨は、直樹がアフリカのスワジランドに持って行って埋めた」

 淳子被告は検察に対してこう話したそうだ。

 【検察が読み上げた淳子被告の供述調書の内容】
 「スワジランドは『お母さんを困らせない場所に』と世界地図から直樹が選んだ。そんな親孝行な子どもはいない。スワジランドに埋まっていることを知られたら、直樹がかわいそう。言わないで」

「俺が主治医なら片付けてあげるのにな」…大久保被告が何度も殺害を持ち掛けてきたと語る山本被告

 16日午後に行われたのは、その山本直樹被告に対する被告人質問。直樹被告は靖さんに対する思いを打ち明けた。

 (山本直樹被告)
 「良い感情を持ってなかったのは事実。はやく寿命を迎えてほしいと毎日思っていた」

 被告によれば、靖さんの精神疾患が原因で大学側とトラブルになり、無償だった学費を払わなければならなくなるなど、経済的な事情で大学の退学を余儀なくされたという。こうした中で現れたのが大久保被告だったという。

 当時、厚生労働省の技官だった大久保被告は、大学を中退して医師の国家試験の受験資格を失っていた山本被告に対し、韓国の医大を卒業したとして偽装する方法を指南。結果として医師資格を得たものの、大久保被告とは「秘密を共有しなければならない関係」になったというのだ。

 そして、靖さんの転院先を探す際に大久保被告に靖さんの存在を伝えた。すると、大久保被告はこう告げたというのだ。(大久保愉一被告)「俺が主治医なら片付けてあげるのにな」

 山本被告はこの発言を冗談か本気かわからず断ったというが、その後も「俺がバイトしている病院に転院させれば片付けてあげる、どう?」「合法的に寿命を迎えさせてあげる」などと、靖さんの殺害を何度も持ち掛けてきた、と。このような話が山本被告の口から語られたのだった。

 1月17日も引き続き被告人質問が行われる。靖さんが亡くなった当日の状況に話が及ぶ見込みだ。山本被告は何を話すのだろうか。

2023年01月17日(火)現在の情報です

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