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【解説】梨泰院ハロウィーン過熱の3つの背景『怪しい街から自由と解放の象徴に』『日本ハロウィーンの影響』『韓国若者が直面するヘル朝鮮』

2022年11月03日(木)放送

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事故が起きた韓国・梨泰院のハロウィーンに若者が集まる背景について、韓国文化に詳しい一橋大学大学院のクォン・ヨンソク准教授に話を聞きました。かつては米軍基地があり外国人向けのナイトクラブが多い歓楽街で、偽物の闇取引も行われる『怪しい街』だったという梨泰院がどのように変わっていったのか。そして日本のハロウィーンが韓国に与えた影響。さらにはMZ世代と呼ばれる若者たちが『ヘル(=地獄)朝鮮』と呼ぶ社会。梨泰院ハロウィーンの過熱につながった3つの要素を詳しく解説します。(2022年11月3日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――群集事故が起きた「梨泰院」街の歴史を見ていきます。かつて米軍基地があって、外国人向けのナイトクラブが多く、また偽ブランド品の闇取引があるなど「怪しい街」といった印象を持つ人もいるようです。

昔は、米軍を中心とした外国人向けのナイトクラブなどの歓楽街ですよね。例えば若い女性たちが「梨泰院に遊びに行こう、飲みに行こう」という場所ではなくて、少し怖いというか、近づきがたいという雰囲気がありつつ、でも外国人と何か触れ合いたい人はあえて行く、ちょっと勇気を持って行くような街の雰囲気でした。ちょっとそこだけはソウルじゃないような感じの、ものものしいようなところも多少ありました。坂の上でもあったり路地も多いですから。

―――2001年に地下鉄の駅が開業して以降、街の様子が変わってきました。国際的な解放区の雰囲気、エスニック店ですとかLGBTQのお店なんかも多くて開放的な雰囲気があります。やはりドラマ「梨泰院クラス」の影響もあって、梨泰院のハロウィーンは特別といった印象が浸透してきました。主人公のパク・セロイが働いていたお店だ、とか至る所に見覚えのある景色ばかりで、日本に上陸する前の最新のスイーツ店もたくさんあって、本当にホットな場所という印象でした。異国の雰囲気を感じられて新しいお店があるっていう意味では強いて大阪で例えるなら、「アメ村と堀江を足して2で割ったような」。本当に若者の人気が集まるのわかるなという感じです。

―――大勢の若者がこの街には惹きつけられてるようですね?

2000年代半ばぐらいから外国人だけじゃなくて、韓国で有名な芸能人がそこに住むとか、そこに店を出すとか、になって非常におしゃれなトレンディスポットになっていったというところありますよね。LGBTQは、韓国ではタブー視されていましたが、そういった店もあったり、イスラム寺院もあって、文化的、宗教的にも開かれた、韓国で非常に国際色ある、新たな文化を生むトレンディな場所だったのに非常に残念です。

―――韓国におけるハロウィーン文化は、2014年ごろから盛り上がり始めたようです。SNSの流行や英語教育に力を入れるということで英語幼稚園が増加し、アメリカの文化ということで、ハロウィーンが浸透し始めたということです。日本の影響も大きく、渋谷など繁華街の盛り上がりの様子や、アニメやコスプレなどのカルチャーが、韓国でも人気ということです。

2000年代から英語幼稚園やインターナショナルスクールが増えてきて、ちょうどそのとき子どもだった世代が今10代後半~20歳でちょうど若者になったという世代的な部分もあると思いますし、その世代は、日本文化に親しみを持ってる人たちが多いんですよね。コスプレもその一つで、上の世代などはコスプレなど『何やってんだ?』と白い目で見られた時期がありましたけど、今の若者は逆に積極的にそういう文化を取り入れて徹底的に楽しむという文化、そしてそれをお隣の同じアジア人である日本の若者が先にやったというところで非常に影響を受けて、私達もやりたいなということです。わざわざ渋谷のハロウィンに出かける人たちもいましたよね。それが国内でできるようになったということです。

わたしはそれを韓流にかけて「日流」と表現しています。実は2000年代半ばから、日本文学や日本の音楽やグルメ、アニメ文化を相当受け入れていた時代というか時期があって、韓流と同じ時期に起きていたっていうのは日流という現象があったことをぜひ日本の方にもわかってほしいと思います。

―――事故で亡くなった人の多くが『MZ世代』と呼ばれています。主に30~40代のミレニアル(M)世代、主に20代のZ世代ということで、中高年の中には、梨泰院やハロウィンに否定的な人も多い中、否定されればされるほど、梨泰院ハロウィーンはMZ世代にとってより重要な場所になってきているという事ですね。この点どう思われますか?

今回の事故が起きた直後には、インターネット上で中高年の方とみられる人たちが、『アメリカのイベントになぜ韓国で若者が集まってこんなことになったんだ?』とちょっと若者たちを非難するような書き込みとかが見受けられたんですよね。それに対してやはりそうではないと。

『自由』、『多文化』、『寛容さ』を打ち出す若者にとって、解放区であり、もう1人の自分になれるそういう特別な場でもあるんですね。単に遊ぶ場だけではありません。もう少し社会的な意義もある場所であるし、行った若者が悪いわけではないわけで、警備が出来なかった警備や行政の問題でもあるので、いま追悼のメッセージの中で『君達は何も悪くない』その一言がやっぱり多いですよね」

―――若者世代は自分たちの社会を指す言葉としてヘル(地獄)朝鮮」と言う言葉が出てきているようです。彼らが置かれてる状況は学歴重視で就職難、安定しない雇用、そして世界一の自殺率、ですからこの状況は地獄ということで、自虐的にこういう言葉があります。彼らにとってハロウィーンは、肩書き・出身地に関わらずみんなが対等に楽しめる場、そういう方がたくさんいたということですね。

韓国は本当に学歴社会で幼稚園の頃から受験戦争にさらされる形で、受験に勝ち上がって大学を出ても今度は就職もできない。就職した後も雇用が安定しないということで、本当にいつになれば自分たちは解放されるのかというそういう非常に厳しい絶望感もあると思うんですよね。もう就職だけじゃなく結婚や子育て、恋愛すらも放棄する、というような形の自嘲的な若者が多いんです。

その中で、年に一度ぐらいですね。もう1人の自分になったり、あるいは肩書き・学歴に関係なく地方からもどんどん来てソウルの中心で何か謳歌するというような、発散の舞台でもあったというところで、今までそれが世界中から集まるイベントだったのに、もう少し本当に国や行政、そして警察、もっとこの社会的な意味も含めて考えていれば、警備態勢も違ったものになっていたんじゃないかと思う。一つだけ言うと、以前はできていたんですよね。今年だけできなかったことはやはり問題だろうと思います。

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