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【声の治療】声の低さに悩む女性、声がかすれて出ないお笑い芸人...理解されにくい悩みに向き合うクリニックの『声の高さを変える手術』とは

2022年05月27日(金)放送

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 今、様々な理由から『声を変えたい』と手術を受ける人たちが増えています。今回、取材班は京都府にある声の治療を行うクリニックと、そこに訪れた「声がかすれて出なくなってしまった男性」と「声の低さに悩む女性」の2人を取材しました。

声に悩みを持つ人が増加『声の悩みは人に理解されにくい』

 京都府京田辺市にある「京都耳鼻咽喉音聲手術医院」。その名の通り、耳や鼻、声の治療を行うクリニックです。中でも最も多いのが「声」の悩みを訴える患者です。
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 この日、診察にやってきた山本大祐さん(34)。1か月前、すい臓の手術を受けた後、声がほとんど出なくなりました。
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 実は山本さんの職業はお笑い芸人。劇場で声を張り上げることが仕事です。ところが声がかすれてほとんど出なくなったのです。
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 声を出すための「声帯」は喉仏の内側にあります。周りを軟骨に囲まれていて、空気を吸い込むと左右に開き、声を出す時は閉じます。そして声帯が振動することで声が出るのです。
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 山本さんの場合、手術の全身麻酔で気管が圧迫されて「声帯麻痺」と呼ばれる状態でした。片方の声帯が動かず、隙間ができてしまい、十分な声を出せなくなっていました。
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 (京都耳鼻咽喉音聲手術医院 廣芝新也院長)
 「声が出にくいというのは人に理解されにくいので、ドクターですらわかりづらいので。我々はそういう病気を扱っていますから気持ちはよくわかるんですけれども、意外に『声くらいいいじゃない』って言われてしまうことが気の毒というか」
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 廣芝医師は、山本さんについては自然に回復する見込みが高いと判断して、ボイストレーニングを勧めました。自宅で練習を続けた結果、少しずつ声が出るようになってきました。

 (山本大祐さん)
 「今の現代社会で声を出さないことなんて無理やし。特に声を出す職業に特化している人なんてね、余計悩みが大きいと思いますね」

約50年前に『声帯に触れない手術法』を提唱した日本人医師

 (京都耳鼻咽喉音聲手術医院 廣芝新也院長)
 「耳も鼻も喉もそれぞれ病気があって、それぞれの患者さんが苦痛を抱えているとは思っていたんですけど、一番悩みが深いのが『音声』でお悩みの方なんですよね」
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 声は、声帯がギターの弦のように強く張ると高くなります。
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 逆に、声帯が緩んだ状態になると低くなります。
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 この仕組みを活用し、声帯の周りの軟骨の枠組みを調節して声の高さを変える手術を、約50年前に1人の日本人医師が考案しました。京都大学の耳鼻咽喉科にいた一色信彦医師(当時)です。

 (アメリカで講演をする一色信彦医師(当時))
 「ヒトの実物大の喉頭があります。外科手術で声帯に触れると粘膜を傷つけ、声を出すことを妨げることが避けられません」
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 一色医師が提唱した手術法は『傷つきやすい声帯に触れずに声の治療ができる』と注目を集め、今も世界中で行われています。廣芝医師は一色医師の後継者の1人です。

声の低さに悩む女性『男性だったんですねと言われたことも…』

 この日、1人の女性が廣芝医師のもとを訪れました。水谷ゆうこさん(33)は声を高くする手術を希望しています。
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 男性として生まれた水谷さんは2020年に性別適合手術を受けました。普段はコントロールして声を高く出すようにしていますが、疲れた時や、ふとした時に出る低い声が気になるといいます。

 (水谷さん)「えーーー」
 (廣芝院長)「これがまさに男性の平均周波数ですね。100Hz前半ですね」
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 水谷さんは、手術の評判を知り、東京から京都までやってきました。性別と名前を変えて静かに暮らしたいと考えていますが、最後まで変えられないのが「声」でした。

 (水谷ゆうこさん)
 「容姿の補正があるとけっこう人って容姿に引っ張られるんですよ。声を出すと『男性だったんですね』と店員さんに飲食店とかで言われたこともありますし。あと電話とかで『男性の方ですか?』みたいなこともありますね。あとは区役所で『ご本人さまですか?』みたいな。結局声が低いことは自覚しているので、仕方ないよなと思いますけど、逆にどれくらいの高さの声だったら女性として認識されるんだろうなと受け取っちゃうので。『悔しいな』みたいな感じです」

自分の望む声の高さまで“確認しながら”手術を行う

 手術は局所麻酔で行われ、実際に声を確認しながら高さを調節していきます。

   (医師)「痛み大丈夫ですか?」
 (水谷さん)「大丈夫です」
   (医師)「ちょっと練習で声を出してください」
 (水谷さん)「えーーーー」
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 この十数年で声の高さを変える手術を希望する患者は増えているといいます。「LGBT」という言葉の普及や、自分の望む性別で普通に暮らしたいと願う人が増えたことも背景にあると考えられます。

 (水谷さん)「えーーーー」
   (医師)「声が高くなったのがわかりますか?今ざっくりやっているんですが、これから調節していきますからね。高くなりそうやね」

 自分の望む高さまで声を調節していきます。

 (水谷さん)「えーーーー」
   (医師)「しっかり250~260Hzくらい出ているから大丈夫」
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 手術は約3時間で終了。声帯の周辺の腫れを抑えるため、声を出すのは3日後です。

『その人の生活や人生にとって本当に満足できるようなものが提供できれば』

 そして3日後。

 (水谷ゆうこさん)
 「おはようございます。火曜日に手術を受けて、今日は金曜日です。術後3日が経って初めて声を出しています。まだ全然うまく出せません。これから頑張っていきたいと思います」

 新しい声が身体に馴染むまで半年~1年かかります。日常生活で発する声で性別を問われたり違和感を抱かれたりせずに暮らすことを望んでいた水谷さんにとって「声」とは。

 (水谷ゆうこさん)
 「一番大事って言ってもいいくらいじゃないですかね。だんだん慣れてきて、『この声とやっていくのか』みたいな…」
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 (京都耳鼻咽喉音聲手術医院 廣芝新也院長)
 「ちょっと声を治して終わりという簡単な人ばっかりじゃなくて、満足した人生が送れてなんぼというところがあるので。我々の目標というのは、病気を治すことはもちろんなんですけど、その人の生活や人生にとって本当に満足できるようなものが医療を含めて提供できればと考えております」

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