MBS 毎日放送

2020年09月23日 11時40分 公開

LINEから300億円の出資 コロナ禍で急成長「出前館」の次の一手は?

 今年に入っての新型コロナウイルスの感染拡大。様々な形で私たちの生活に影響を及ぼしている。「食」をめぐる生活様式の変化もそのひとつ。感染を恐れて外食を控える人は多く、逆にフードデリバリーを活用する人が増えている。
 20年前に「出前」を事業化したその名も「出前館」。注文件数は飛躍的に伸びているが、それに対応する設備投資などで経営は赤字…。それならと無料通信アプリを運営するLINEから300億円の出資を受け、一気呵成に攻める。出前館を率いる中村利江会長にフードデリバリーの未来を聞いた。

コロナ禍で注文数も新規加盟店も急拡大20200918141854-6e09b45441110ebf5c3cbe68efae9683c0e7ea0b.jpg
―――新型コロナウイルスの影響はいかがですか?
 注文数では去年と比べて1.5倍以上です。けれど、飲食店さんがいないと私たちの商売は成り立ちません。いかに飲食店さんに儲けてもらうかを一生懸命に考えています。おかげさまで毎月500店舗ほどだった新規加盟店の数は、今年5月、月3000店舗以上に急増しました。

―――新型コロナウイルスの感染対策は?
 出前館は地域ごとに拠点があり、配達スタッフは必ず拠点に出社します。出社したときに検温・消毒・ユニフォームへの着替えをし、清潔な形で送り出します。この感染対策は同業者と全く違うところです。基本的に私たちは配達スタッフを直接雇用しています。不測の事態に保険も設定して、安心して働いてもらう。だから飲食店さんには「安心して私たちが出前します」と言える。
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―――加盟店への説明会も積極的ですね。
 新型コロナウイルスがきっかけで、飲食店さんはイートインからの業態転換を余儀なくされています。いまこそ「出前という新しい業態を取り入れるチャンスです。そういう機会ですよ」とアピールを強めています。

昨年、創業20年 でも人で例えると中学生くらい?
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 昨年、創業20周年を迎えさせていただいて、社員と家族に感謝したい、と記念パーティーを開きました。さすがに感極まりまして、あいさつの時に何を言っているか分からなくなってしまって...。「社長、珍しいですね」と社員に冷やかされました。

―――創業時、社員は何人でしたか?
 数人ですね...。随分大きく育ちましたが、まだ中学生くらいですね。まだまだ成長していく時だと思っています。

大学生の時に立ち上げた最初の事業は「女子大生モーニングコール」
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―――大学生の時に最初の事業を立ち上げますよね?
 友人と4人で何か会社を立ち上げようという話になり、資本金100万円で何かできないかと考えていた時、同級生の男の子がいつも遅刻してくることに気づきました。「なんで遅刻するの?」って聞いたら、「可愛い女の子が起こしてくれたら遅刻しないよ」という訳です。

―――可愛い子は「ここにいますよ」と?
 女の子が朝起こす仕事なら、電話1本あればあとは販促費に全部使える。これなら100万円の資金でできると思いました。電話をする女の子をストックしておいて、明日はこの子にお願いして「この人に電話をかけてね」という感じで。

リクルートに入社 いきなりトップセールスを記録
―――リクルートに入社し、1年目でトップセールスを記録したそうですね。
 でも、2年勤めて結婚し、その後、出産を機に会社を辞めました。それから数年は子育て中心の生活。実家が工務店をやっていましたので、手伝いでインテリアコーディネーターをしていました。

「デリバリーは必ず伸びる」月の売上2万円の出前館に入社
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―――当時、月の売り上げ2万円で、大きな負債を抱えた出前館に入社されます。周りからの反対は?
 大反対でした。誰ひとり賛成してくれませんでした。でも私は、これからイートインだけでなくてデリバリーやテイクアウトは必ず伸びるとみていました。さらにインターネットを使ってデリバリーやテイクアウトは飛躍的に伸びる、この掛け合わせは絶対に成功すると確信していました。

―――ネットとデリバリーの融合は化けると?
 出前館の月の売上げはいま2万円かもしれないけど、1年後には2000万円になるかもしれないし、10年後には2億円になって、2兆円とかになる可能性があると真剣に考えていました。

社長になって大改革!「辞めたいなら辞めてください」
―――社長になって社内の大改革に着手したとか?
 当時の社員は、割と"給料泥棒"と言ったら申し訳ありませんが、あまり働かない人が多かった。ですから仕事を真剣にやってくれないと会社はだめなままだと思い、どうしたら危機感を持って働いてくれるのかを考えました。出した答えは、「社長の給料を一番安くして、誰よりも働く」ということです。この方法が最も社員にプレッシャーを与えられると考えました。

―――そのようなことをしたら、ついて来られない人も大勢出たのでは?
 実際いましたが、その程度でついて来られない社員は辞めていただいた方がいいなと...。その頃は私自身も辛い時期でしたが、社長になったからには社員に絶対に辛いとかしんどいとかは言えません。すごく辛い時は、家族にも気づかれないようにして、お風呂で泣きました。

辛い時期を耐えて数年で黒字化
―――でも、数年で負債を抱えていた会社を黒字にしました。
 とにかく企業が存続するには、黒字にして、社員に給料を払って、税金を納めなくてはならないという思いです。長い期間、赤字というのは、私には絶対許されないことでした。

―――黒字化になった大きなポイントは?
 これ、というポイントはないです。全て細かな積み重ねです。加盟店さんにプラスになる、ユーザーさんにプラスになる、という細かいことの積み重ねですね。フードデリバリーはそんな簡単なビジネスじゃない、と思っています。

一旦会社を離れると再び赤字に...
―――負債が多くあった会社を黒字にし、上場させて会社を辞めましたよね。でも残念ながら中村さんが辞めて減益になりました。
 減益に転落したのは、『三方よし』ではなくなったからです。お客さまのことを忘れて、自分たちのことばかり考えるようになってしまったのが原因です。

―――会社が減益になったので、また呼び戻された?
 呼び戻されたのではなくて、私から戻った感じですね。もう1度「出前館イズム」を戻したいと。せっかくついてきてくださった加盟店さんから、何度も直接クレームをいただくようになっていました。絶対また「出前館らしいよね」って言ってもらえるように会社を変えれば、必ず増収増益になると確信しました。

役員たちは"血判状"で「出前館復帰」を絶対阻止!
―――さらなる改革というか、自ら作りあげた「出前館イズム」を取り戻そうと?
 そうですね。たとえ会社に残ったのが私ひとりになっても、社員が全員辞めたとしても、やりきろうと決めて戻りました。

―――ということは、反発もあると?
 反発はあると思いました。実は「血判状事件」というのがありました。当時の役員たちが社員に、「中村さんが戻ってくるなら『僕はやめます』とサインをしなさい」という血判状を集めまして。けれど、それは逆にすごく良かったと私は思っています。だって、そんなことを言われてサインする人は会社に残ってもらわなくていいと思うので...。いま会社に残っている人は、その時にサインしなかったメンバーです。

―――すごい世界...。中村さんは相当怖い?
 怖いと思いますよ。最近ちょっと丸くなりましたけど...。

提携先に目を付けたのが「新聞配達」
―――再び出前館に戻り、取り組んだことは?
 それまでは自分で配達している店だけに注文・受付の代行をしていました。でもデータを分析すると、出前をやっていない人気店があることに気づいた。けれど、いざ出前をやってもらうとなると人を雇って、バイクや自転車を用意しないといけなくなります。

―――そこで、出前館が代わりに配達しますと?
 1つの店舗だけの配達ではなくて、数十店舗の配達ができれば配達のシェアができる、事業になると考えました。配達の提携をするのは、いま業績が絶好調じゃなくて、将来の見通しが厳しい業種が良い。そういうことを考えて町を歩いている時に、「あっ、新聞販売店!」とピンときました。

―――新聞配達のスタッフに出前を?
 そうです。新聞販売店のスタッフが新聞を配った後、空いている時間に出前をしてもらって、第二の事業としてやっていただいたらいいなと。

LINEから300億円の出資 その使い道は?
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―――今年、LINEと資本業務提携し、会長になりました。LINEを選んだ理由は?
 当社に足りないのは、資金力とシステム力、そしてマーケティング力です。ここを一緒にやれるのはLINEさんしかないと判断しました。グローバル企業も次々と参入しています。競合他社に打ち勝つには、資金力が必要です。2~3年はバン!と赤字にしてもいいという投資の期間が必要だと思いました。もう1つは、人材です。50人くらいの塊でシステムをやり替える必要があると。まとまった資金とシステムを構築する軍団はどうしても必要でした。

―――300億円の使い道は?
 大きく3つあります。1つは、拠点がいま350ありますが、早く500以上にしたい。拠点が500になるとほぼ日本全国を網羅できます。2つ目はシステムの構築です。グローバル企業は非常にテクノロジーが優れています。それに負けない仕組みを作るシステム投資ですね。3つ目は、マーケティング力の強化。ある程度の先行投資合戦になる恐れはありますが、それに負けない認知度の向上にコストは必要だと腹を決めました。

―――LINEとの業務提携は攻めの戦略?
 完全に攻めですね。いうまでもなく、とてもLINEさんの人材は優秀で、社内のスピードが3倍~4倍になった感じがしています。いまは組織としての形で動き始めたので、私ひとりが組織を引っ張る時代は終わったのかなと。私が主導する経営ではなく、LINEさんを中心とした経営にすると決めましたから、子離れの時期という感じですね。

一度失敗しても諦めない...それが成功の秘訣
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―――男女雇用機会均等法1期生の中村さんの活躍をみて、「私も!」と考える女性にエールやアドバイスは?
 何かに取り組もうと決めても、絶対すぐに成功はしません。けれど、ほとんどの人は1度失敗すると辛くなってそれで諦めてしまいます。成功する人は、失敗しても失敗した理由を考えて、次に生かして実行する人だというのが持論です。

―――最後に、中村会長にとってリーダーとは?
 リーダーに必要なのは「ビジョン」です。ビジョンを持って、事業を絶対に成功させるという強い意思です。そのビジョンを成し遂げるには、常に社員の誰よりも新しいことにチャレンジし続けることが重要だと考えています。

■出前館
1999年、大阪市住之江区で創業。当時の社名は「夢の街創造委員会」。2015年、牛丼チェーン「吉野家」と提携。2016年、朝日新聞社と資本提携。2020年、無料通信アプリを運営する「LINE」と資本業務提携。

■中村利江 
1964年、富山県高岡市に生まれ、関西大学の学生時代に女子学生のモーニングコール事業を立ち上げる。1988年、リクルートに入社。2001年、出前館役員。2002年、社長就任。2009年、カルチャー・コンビニエンス・クラブ最高人材責任者。2012年4月、同社執行役員。同年9月、現・出前館会長。同年11月、社長に復帰。2020年6月、再び会長に。

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時40分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。

『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:40放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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