MBS 毎日放送

2020年03月19日 14時06分 公開

USJをV字回復させた男の「洞察力」と「アドレナリン」

 当時、来客数の低迷に頭を痛めていた大阪のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に転身し、V字回復させた森岡毅さん(47)。しかし、当初は森岡さんが打ち出す改革案に抵抗する人もいて、その過程は困難を極めた。なぜV字回復は成しえたのか? そしてなぜ、絶頂期にUSJを辞め、2017年にマーケティング会社「刀」を立ち上げたのか。一躍「時の人」となった森岡さんの「頭脳」に迫った。

切れ味鋭いメンバーが集まった「刀」
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―――なぜ、「刀」という社名にしたのですか?
 「刀」というと怖い系の会社かなと誤解されることもあるのですが、私は結構この社名に思いがあります。マーケティングという非常に重要な技術が、日本はまだ遅れていると思っていて、これを武器にしてほしいと。古くから日本の武器は「刀」でした。だから、ビジネスの現場で戦うために「刀」を備えてください、という意味がひとつ。もうひとつは「刀」のメンバーは切れ味するどい能力を持っていて、今30名を超える「名刀」が集まっている、という思いを込めています。

―――「刀」の強みは?
 ひとりひとりには、得意なことも苦手なこともあります。けれど、それが組み合わさって「刀」という組織となった時、完全な形に近づいていく。共依存関係の仲間だということを本当に大事にしたいと思っています。「集団知」は「個人知」に勝るというのが「刀」の一番いいところです。

「無理」「やめた方がいい」→どんどんやる気に
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―――大学を卒業して入ったP&Gを14年ほどで辞め、なぜUSJに転身したのですか?
 不遜な言い方に映るかもしれませんが、現状に満足できなくなるのです。常に刺激が欲しいと...。「ヤバい、これは自分にできるか」という不安が欲しくなる。何とかやっていけそうな予測が立ったら、何となく自分が成長できなくなって駄目になってしまうのではないかと思ってしまう。

―――そういうのは、しんどくないですか?
 しんどいですよ。しんどいですが、しんどいことを続けることが、私にとって中長期でみた時には幸せな感じがします。USJの社長から「転身」のお声掛けをいただいた時、皆からは「無理だ、無理だ」と。「絶対やめた方がいい」と散々反対されました。投資する資金があるかどうかすらわからない、とまで言う人もいました。けれど、言われたら言われるだけハードルが高いということじゃないですか。どんどんやる気になっちゃって...。

USJ復活の勝ち筋 「映画専門店をやめる」決断
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―――反対されて闘志が湧いてきた?
 世の中には、誰かがやらないといけない仕事というものがあります。私が生まれ育った関西でUSJが倒れてしまって、訳の分からない場所になるのは嫌です。だったら、と自分なりに分析すると、USJの「勝ち筋」が見えたんです。

―――元々は映画のテーマパークですよね。見えた「勝ち筋」に沿って、大きく方向転換をしました。社内での抵抗や反発は無かったですか?
 いっぱいありました。映画のテーマパークには「映画好き」が集まります。これはテーマパークだけでなく他の業種でも「あるある」の話です。その商品が好きな人たちが集まって来る。すると、消費者の心理と離れてしまうことがよくあります。「映画だ、映画だ」と言っても、そんなの誰が喜ぶの?という話です。映画だけの専門店はやめて、大好きなブランド、素晴らしいコンテンツが集まったセレクトショップになりましょうと。すると周りは宇宙人に襲われた地球市民のような顔で私を見て...。

数学は「冷徹のメス」「情緒に負けたらダメ」

―――訳の分からないことを言い出した、という感じですか?
 「何を言っているんだ、お前は!」みたいな...。普通それだけ反対されると、自分が間違っているのでは?と思ってしまう。反対されると辛いので、普通は日和ってしまいます。

―――あきらめるとか、違うプランに変えるとか。
 妥協するとかですね。でも私は違う。数学が僕にとっては「冷徹のメス」なんです。数学でファクトを掴むとそこだけは譲らない。これ宇宙言語なので100年後も正しい。「目的を達成するために最も確率の高い道筋を決断できるか」というのがリーダーシップの一番重要なポイントだと思っています。情緒に負けたら駄目です。ここは鬼にならないと。

―――「鬼になる」と時として孤独じゃないですか?
 孤独ですよ。常に孤独です。でも私は皆を勝たせたいんです。

ハリーポッターをやって「成功した」のではない
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―――結局、結果がついてきましたよね。700万人の年間来場者数が6年半で1500万人くらいまでになりました。
 「この人の言っていることは正しい」とわかり始めると結構早いです。最初の1~3個の実績を積むまでは、しんどいですけどね。結局、ハリーポッターをやって成功したのではないんです。ハリーポッターを建てるためにお金を使わずに様々なことを連続で当てていった。逆に言うと、ハリーポッターを建てるまでに会社を倒産させなかった、キャッシュフローを生み出し続けたというのが、成功の理由です。

最大のピンチは東日本大震災の時
―――USJ時代で一番辛かったのはいつですか?
 一番やばい時...、この会社を倒産させてしまったかもしれないと思ったのは2011年ですね。USJの10周年だったんです。3月3日だったかな、10周年イベント告知をしたら、3月11日に東日本大震災が起きました。日本中が悲しみましたよね。我々クルーも意気消沈しますし、何よりもテーマパークに行って笑ったらいけないような空気になってしまって...。私がUSJに入った2010年の低い集客数から比べても3割以上、減りました。

―――すごい落ち込みだったんですね。
 「USJはやばい、キャッシュフローがもたない」と危機感が高まりました。なぜならハリーポッターの交渉が大詰めでしたし、そのほかのプランは、お金だけ出ていくことはコミットしているので、お金が入ってこないと会社はキャッシュがショートします。倒産します。そこで「お子さんはパークに来て、いっぱい笑いに来てください」と。来てくださったお子様は無料にします、というキャンペーンをして空気を変えました。

一番やりたいのは「日本をマーケティングで元気にする」
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―――3年前に独立されましたよね。P&GでやりきりUSJに困難を探しに行ったように、次なる困難を探すためですか?
 その通りです。私はプロのマーケターなので、自分の力を生きている間により多くの会社で生かさせてもらいたい、という思いがあります。

―――それが「マーケティングで日本を元気にする」という意味ですか?
 そうです。一番やりたいのは「日本をマーケティングで元気にする」ということです。そのために一番重要なのは、間違いなく人を育てるということです。マーケティングの前歴はないとか、大学を卒業して初めて社会人になる人を「刀」に入れて、非常に強力なマーケターを輩出する会社にしたいんです。これほどノウハウがあって実戦経験が積める会社はなかなかないと思います。

関西に危機感「何もしないとすぐに廃れる」 
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―――関西経済の先行きは、どのように見ていますか?
 ポテンシャルはあります。ただ実に様々な人が関東に比べてバラバラに動いている。関西は広域で戦略を立てて、関西にある有形無形の資源をどう活用するか、という視点を持つべきです。IR(カジノを含む統合型リゾート)は大賛成ですし、新しいことにチャレンジしないと関西はすぐに廃れてしまいます。

―――すぐに廃れる?
 20年後には一変します。新しいことにチャレンジしないとすぐに寂れて、駄目になります。危機感を持った方がいいです。関東より関西の方がやばい。頑張らないとまずいことになると思います。

人生には「刺激」「チャレンジ」「アドレナリン」が必要
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―――将来、リタイアしたらどうされますか?
 リタイアは理解できないです。周りも私の事を暑苦しいと思っていると思いますが、まだまだ可能性があって「勝ち筋」が見えてしまった時にいてもたってもいられなくなります。人生には刺激が、チャレンジが、アドレナリンが必要です。せわしない人間がたまにいてもいいのではないでしょうか。

―――森岡さんにとってリーダーとは?
 人を本気にさせる力に優れた人のことだと思います。それは皆をワクワクさせる物語を考える力と、その物語の中で、その人ならではの役割が演じられるということを信じさせる力。それを持っている人がリーダーと呼ぶに相応しいと考えています。


■森岡 毅 
1972年、兵庫県伊丹市生まれ。1996年、神戸大学経営学部を卒業し、P&Gに入社。2010年、USJへ転身。様々な改革を果たし、2014年、450億円を投じた「ハリーポッターエリア」を導入。入場客数をV字回復させる。2017年、マーケティング集団「刀」設立。

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時15分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。

『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:15放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
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