まるで「人間」...石黒教授がアンドロイドを開発・研究をするワケは?

3分で読める!『ザ・リーダー』たちの泣き笑い

2020/01/17 15:30

 アニメに描かれた人型ロボットに子どもたちが夢中になった時代があった。だが今、人型のアンドロイドは現実のものになりつつある。アンドロイドの開発・研究のトップランナー・石黒浩大阪大学教授は世界の学者たちが一目置く存在だ。アンドロイドを研究するのは意外にも「人間とは何か」を追求する旅でもあるという石黒教授。その秘めたる思いに迫った。

「人間とは何か」の問いがロボット研究を掻き立てる
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―――石黒先生は、いつも黒色の服を着ていますね。
 黒って便利です。一番分かりやすいアイデンティティは何だと思いますか? 服ですよね。だから便利です。僕は人の顔を覚えるのは苦手ですが、黒を着ているおかげで周りの人は僕のことをすぐに覚えてくれる。

―――大阪大学大学院生の頃からロボットを研究しようと?
 ロボットというよりも、今でいう人工知能の研究をしていました。人工知能をもっと賢くする、もっと進化させるためには、人間の脳と身体は切り離せないじゃないですか。だからもっと、人間に近い人工知能にできないだろうか、と考えているうちにロボットに興味を持ちました。

―――ロボット研究で一番、大切にしていることは?
 「問い」ですね。大事にしているのは「何を知りたいのか」。次々と疑問が湧いてくるということ。僕の師匠に常に言われていたのは「基本問題を考えなさい」ということでした。自分にとって何が基本的な問題なのか、研究者にとって何が知りたいのか、何が問題なのか...。そう考えていたら僕は「人間とは何か」「自分とは何か」ということに辿り着いた。人間は、私にとって一番知りたくて知ることができない存在です。

学生の頃の夢は画家
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―――どんな高校生でしたか?
 絵ぐらいしかできることはなくて、中学、高校の時は美術部に入って、絵ばかり描いていました。大学3年生までは部活とアルバイトしかしていません。本当は絵の道に進みたかったけど、そんなに簡単じゃない、芸術家の道って。それはやはり、どこかで諦めていた。だから、当時、流行りかけていたコンピュータを勉強しようかなと。

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―――アンドロイドの世界にのめり込んだのは、いつ頃から?
 2000年ぐらいに、人間そっくりのアンドロイドを作ってみようと思いました。その時なぜ、人間そっくりのアンドロイドを作ろうと思っているのかを自問自答してみると「人に対する疑問が、根強くある」ことを自覚したということです。最初に作ったアンドロイドは「ロボビー」というロボットです。

悩み、考え抜いて半年、身体が震え続けた

―――研究者生活を続けてきた中で、最大の危機や挫折は?
 それは博士号を取るときです。自分で研究テーマを見つけて、問題を解かないといけない。けれど、なかなかアイディアが出てこない。勉強すればするほど、参考に読んだ論文に引きずられるので、新しいアイディアが出ない。完全にオリジナルなものを見つけるにはどうしたら良いのかというのが、すごく苦しかったです。

―――どれくらいで辿り着いた?
 半年くらい毎日、身体が震えるくらい考え、悩み抜きました。でも、死ぬ気で考えれば何とかなる...。脳の構造が変わったのかもしれないし、それとも能力が顕在化しただけなのかもしれないけど、一度経験すると、どんな問題も答えを出せるようになった。

トップ1%の学生の特徴は?
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―――2019年3月に「未来志向学会」を立ち上げましたね。
 まだ解かれていない世の中の問題を、若い人たちとその場で解こうというのが狙いです。教科書に書いてあることは1人でも学べます。まだ解かれていない問題を考えるのが「学び」だと思っています。色々な発想がもっと必要だし、高校生たちから学ぶというか、ヒントをもらうことはとても多いです。大人は偏った考え方をいくつも持っている。「この問題を解くためには、こう考えるべきだ」と考えがちで、「その考え方は間違っているか?」なんて考えない。それが研究とか新しい問題を解くという上で、すごく邪魔になる。研究を進歩させない原因になっている気がしています。

―――優秀な学生の特徴みたいなものは? いままで大勢、見てきて感じることは?
 トップ1%の学生は、誰が見たって優秀だと分かります。自発的にそうなっている人が多いと思います。だから「優秀な学生を育てましょう!」と言うけど、どちらかというと放っておいてもそうなったと思います。ただ選択肢が狭い世界では生きてきていない。才能を潰さないというのが重要で、いろんなことができる環境を用意しておくのが最も大事だと思います。

技術は人間の能力を拡張して進化させている
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―――目指すアンドロイドの完成形は?
 完成形はないですよ。人間ってそんなに簡単に分からない。人間のことを全て分かったら、アンドロイドは完成するかもしれないけれど、そんな日は来ないでしょうね。というのは、人間は常に進化している。大昔の人間と今の人間は随分と違う。人間はどんどん進化しているし、その進化を追いかけるようにロボット技術が進歩する。僕らは技術を進化させながら、人間を理解しようとする。そうすると、どんどんゴールは遠のいていくというか、技術が進歩すると同時に人間も進化して、遠のいていくという状態だと思います。

―――アンドロイド研究は人間を目指しているが、人間も進化し続けると。
 人間って技術で進化するものと思いませんか? 人間が技術を使わなかったら動物と同じです。けれど、何でこんなに豊かな生活をしているのかというと技術があるからですよね。車があるから、スマホがあるから、コンピュータがあるから、生活はどんどん豊かになった。明らかに、技術は人間の能力を拡張して進化させているわけです。だからロボットの研究をすればするほど、人間も進化していくことになる。人間が進化して人間の定義が変わっていくとすると、さらにゴールが遠のいていくような、そんな感じがします。

―――技術の進歩と人間の進化...。なかなか深い話ですね。
 でも、ゴールに到達しないというのは重要なことだと思います。つまり、いつまでも研究できるということですからね。

「自分は何者か」を問い続ける
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―――石黒先生の夢を聞かせてください。
 夢って、そうですね...。何と言うのか「自分って何者か」とか「人間って何か」という、そういう誰もが持っている疑問に少しでも近づこうとすることだと思います。もっと人間と関わるロボットが世の中に普及することになれば、そのロボットを通して、みんなが「人間って何か」と考える、そういう時代になるのかもしれないですよね。そういう時代を見てみたいというか作ってみたいというか...。

―――最後に石黒教授が考えるリーダーとは?
 常に新しいことを提案し続ける、発見し続ける人かなと思いますね。


■石黒浩 大阪大学教授
1963年、いまの滋賀県高島市生まれ。1982年、山梨大学工学部入学、京都大学助教授などを経て、2002年、大阪大学教授。現在、大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター長を兼任。
人間国宝だった桂米朝さんやマツコデラックスさんのアンドロイド「マツコロイド」などを次々と発表。イギリスのコンサルタント会社が選ぶ「世界の100人の生きている天才」では、日本人最高の26位に選出。

■このインタビュー記事は、MBSで毎月第2日曜日のあさ5:15から放送している『ザ・リーダー』をもとに再構成しました。


『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:15放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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