MBS 毎日放送

2019年08月22日 15時48分 公開

リーダーとはビースト(野獣) LCC業界を制する次なる一手~ピーチ アビエーション 井上慎一社長 インタビュー~

 航空業界に価格破壊をもたらしたLCC・格安航空会社。その中で関西空港に拠点を置くピーチ アビエーションは、来年バニラエアと経営統合します。経営破綻する航空会社が少なくない中、過去最高の売り上げを更新するなど業績好調なピーチ。しかし、競合ひしめくLCC業界では安穏とはしていられません。ピーチが打つ“次なる一手”。それは、需要の増加が見込まれる北東アジア路線の覇権を狙っての戦略といいます。「アジアのかけ橋」を目指すことを目標に掲げ、し烈な空の闘いに挑む井上社長に話を聞きました。

チェックインカウンターは段ボール製
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―――就航から7年が経ちましたが、どんな7年でした?
 激動の日々、業績は順調ですが、水面下はバタバタ。日々、崖っぶち、チャレンジの連続でした。

―――机などは寄せ集めで、コストカットはとことんやると聞きました。
 当時は全部頂き物だったので、お金は全くかかっていません。だから、事務所に置いてある机や椅子などもバラバラ。関西空港に置いてあるチェックインカウンターは有人カウンターではありません。このチェックインカウンターのポイントは、全ての手続きが5秒で終わるという点です。私どもは「空飛ぶ電車」を目指していますので、電車でICOCAを使って改札を通るみたいにできないかなと考えました。お金をかけるところには、かける。かけなくて良いところにはかけないということで考えたのが、チェックインカウンターのボディー部分ですね。段ボールでできています。強度的には全く問題ありません。

―――ピーチ アビエーションの強みは?
 2つありまして、ひとつは大阪に拠点をおいているということ。関西に住んでいる人たちは、特に大阪の人たちは、安くていいものを評価するこういう志向がものすごく強いです。これが、われわれLCCのモデルとぴったり合います。安くて悪いものは受け入れられない。だめじゃないですか。値段が高いのもダメです。ちょうどLCCのコンセプトにあうのが、ここ関西です。非常に関西のみなさんに応援していただいて今日がある。もうひとつは社員です。ご紹介したチェックインカウンターのような工夫ですね。日々、困難な課題にチャレンジして、さらにそれを喜々として取り組んでくれる。そして、実際に実現していく。社員は宝ですよね。

ワンダーフォーゲル部出身 "人生観が変わる"旅を提供したい
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―――どんな学生でした?
 実は小学校までは体が弱かった。体を鍛えようと小中学校は卓球部。早稲田大学ではワンダーフォーゲル部に所属しました。ある日の登山で、朝日が昇ってきたちょっとした瞬間に白い雪山がバラ色に染まったのです。「モルゲンロート」といいますが、目の当たりにしたのは人生でこの時の一回きり。涙がでました。神はいらっしゃると思いました。人生を変えるような瞬間を、自然が与えてくれる。そう思いましたね。その瞬間にいる人しかわからない世界...。だから、みんな苦労して山を登るのですよね。あの寒いつらい雪山を。

―――その経験は、今にいかされている?
 人生を変えるような瞬間をピーチに搭乗いただいたお客様たちに経験していただけないかと。人生観が変わるような旅って素敵じゃないですか? 私自身、自然の風景を見ただけで涙が出るなんてないと思っていましたからね。飛行機を使って、行って帰るのは良いのですが、それに加えて旅のプラスアルファの提案をしたいと思っています。そういう瞬間を味わえる場所はどこにでもある。LCCで各地に気軽に行っていただいて、味わっていただくと、人生が多少なりとも豊かになると思います。そういうふうに考えるようになった原点が、早稲田大学時代のワンゲル部にありますよね。

三菱重工から転職 きっかけは"天安門事件"
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―――もともと三菱重工業からの転職ですよね?
 三菱重工で働いていた時、中国で天安門事件が起きました。その時に学生運動をしていた人たちと話をして、今も忘れられないことがあります。当時、中国はまだまだ貧しかった。ただ、そのうち日本と新しい形の日中関係をつくりたいと言っていました。「だけど今は、なかなか航空運賃が高くて日本には行けない」と。こういう若い人たちが交流できたらどんなに良いかと...。その言葉が頭に残っていました。日中の交流を促進できる仕事はできないものかと。色々とご縁があって、全日空にお世話になることになりました。1990年のことです。もっとアジアの人たち、若い人たちとの交流が活発にあればという思いが、全日空への転職となりました。そして、LCCをやれと。

―――経歴だけを見ると「なぜ、航空業界に?」と思います。
 ですよね、前職と航空業界は全く関係ないですよね。その中で、LCCに取り組んでくれないかと言われたときは、天命じゃないのかと思いました。

「さすが、大阪のおばちゃんだなあ」と感心した出来事
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 安い運賃は、お客様と一緒に作らせていただいています。お客様がフルサービスの要求をしたら、うちにもできますが、その分運賃は上がります。こんなエピソードがあります。あるお客様がピーチに搭乗する際に時間に遅れた。うちは、ある時間までに搭乗されないと打ち切ります。すると「なぜ、待てないのか、親会社の全日空は客を待つじゃないか」と。するとおばちゃん3人組が、そのお客様を追い返したんです。「あなたみたいな人がいるから航空運賃が上がるのだ。そんなに文句を言うのなら、3倍の運賃を払ってほかに乗ったらどうだ」とおっしゃって。お礼を申し上げたんですよ「応援いただきましてありがとうございます」と。するとその女性たちは「その代わり値上げしたらあかんで」と(笑)。「困った時は、何時でも助けるからな」って言われました。さすが、大阪のおばちゃん、だなあと感心しました。

―――格安航空会社といわれますが、その呼び方も好きではないそうですね?
 そうですね。我々が、"格安航空会社"を目指していたら失敗していたはずです。"低コストの航空会社"を目指したからうまくいっていると思っています。その辺はこだわりがあります。

毎年、御巣鷹の尾根に登る
―――安心安全は、最も大事なこと。毎年、御巣鷹の尾根を登るそうですね?
 最初は、私ひとりだけで御巣鷹の尾根に行っていました。事故現場に行くと伝わってくるものが違います。腹に落ちる...。これは、全社員で共有する価値があると思ったので、会社の研修にしました。御巣鷹の尾根を登ると何も言葉が出ませんね、あの場所を見た時には...。安全運航は、すべてにわたって愚直なまでに基本に忠実に行うこと、それを貫いている。何しろお客様に対して事故を起こすことは決してあってはならない。そのことは徹底しています。

関空拠点は「反対」された
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―――社長になってからの一番の大きな決断は?
 一番の大きな決断は、ひとつはこの大阪を拠点にすることだったと思います。当時、関係者からは否定的なコメントを多数もらいました。首都圏を拠点にしないと航空ビジネスは成功しないという声をよくもらいました。でも、調べてみると、それって本当なのかなと...。大阪は首都圏と比べてアジアに1時間も近い、それはメリットだと。しかも関空は、東京より当時はスロット(発着枠)に余裕がありましたし、しかも24時間空港です。これはいけるのではと思いました。自分の信じる道を行こうと決めました。たまたま運が良かったのか、LCCターミナルを関空につくることになって、それができたのが大きな助けになりました。関空とはご縁を感じざるをえません。関西に拠点を置くという決断は、大きな決断でした。

バニラエアと統合する理由
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―――LCC業界はまだまだ、これから伸びシロがあると?
 LCCの先進国は、マーケットシェアが4割程度あります。それに比べて、北東アジア地域はまだ10%程度。こんなに伸びシロがある業界は、ほかにはありません。だから、それに気付いている外国のLCCはどんどん北東アジア地域に乗り出してきています。ピーチは今、その北東アジア地域のリーディングLCCになろうとしています。だから早く手を打たなければなりません。LCCビジネスは、早く手を打ったところが、勝っている。
 関西中心としてネットワークを張っているピーチと、首都圏からネットワークをはっているバニラエアが一緒になると、日本全国をひとつの会社としてコントロールできます。コントロールできるようになると北東アジア地域に本格的に進出できるようになります。バニラエアとの統合の話はそういった趣旨です。経営統合のタイミングは今しかなかったと思います。

―――日々、大変ですね。仕事は山積みですね。
 いいじゃないですかね、ワークハード・ハブ・ファンで。これは社是ですので。

―――最後に井上社長にとってリーダーとは?
 ビースト(野獣)です。どんなに強い強豪相手が出ようが、どんなに厳しい競争環境になろうが、果敢にチャレンジしてビジネスに勝ちに行く。そして社員、家族を守る、それがリーダーだと思います。

■ピーチ アビエーション
大手航空会社、全日空などが出資して、2012年就航を開始。現在、国内線・国際線あわせて34路線を運航している。これまでに、3000万人あまりが利用。
■井上慎一社長
1958年、3人兄弟の長男として神奈川県で生まれた。2011年、社長に就任。目下の課題は、2020年3月までに、バニラエアと経営統合を成し遂げること。統合すれば、売上げは、国内LCC最大手を上回り、業界トップに踊り出る。

■『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:15放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
過去の放送はこちらからご覧ください。

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