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「鬼畜の所業」「人生を破壊」 当時12歳の娘に性的暴行した父親 1審の裁判員裁判は懲役20年言い渡すも...  2審は「いささか過剰な評価」1審判決を破棄し懲役15年 先月に判決確定 「5年減」のカギとなった約10年前の判例

解説

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中学入学直前の娘に性的暴行し、CPTSDを負わせた罪に問われた父親の裁判。1審は「鬼畜の所業」などの峻烈な言葉で非難し、検察官の求刑を上回る懲役20年を言い渡した。しかし2審は「量刑が重すぎる」としてその判決を破棄し、懲役15年を宣告。先日、最高裁でその判決が確定した。“5年減”の判断となった背景に、2014年の最高裁の判例があると専門家は分析する。(松本陸)

娘は自殺未遂に至るほど精神状態が悪化 涙ながらに被害を説明する映像に… 男は「思っていたより元気そうに見えた」

1審判決によると、現在57歳の男は2022年、大阪府内で実の娘(当時12)に性行為を強要し、複雑性心的外傷後ストレス障害(CPTSD)を負わせた。

男は娘の母親(男の当時の妻)にばれないよう、自宅ではない場所を選び、泣いて抵抗する娘を約4時間も説教した末に犯行に及んだ。

中学校入学を目前に控えていた娘は、自傷行為や自殺未遂に至るほど精神状態が悪化。中学校にも通えなくなった。

男の性加害は、娘が保育園にいる時期から約6年間にわたっていたとされる(1審判決の量刑理由の要旨による)。

1審・大阪地裁での裁判員裁判で、男は起訴内容を否認。「娘の母親が、自分と離婚するため、娘にウソの供述をさせている」などと主張した。

検察官の論告によれば、司法面接で娘が涙ながらに被害を打ち明ける映像を見て、男は「思っていたより元気そうに見えた」と言い放ったという。

「情愛がみられない鬼畜の所業」「1人の人間の人生を破壊」1審判決は最大限の言葉で非難 求刑上回る懲役20年を宣告

2024年2月の判決で大阪地裁(田中伸一裁判長・角田康洋裁判官・安曇大智裁判官)は、「娘を道具扱いし、性欲のはけ口としか見ていない点において、卑劣で悪質極まりない」「常習性が際立っており、子あるいは人に対する情愛がみられない鬼畜の所業というほかない」と、男の犯行を最大限の表現で非難。

「まだ中学生である1人の人間の人生を破壊する結果をもたらしたとみても、過大な評価ではない」「無期懲役が相当とまでは言えないとしても、被害者が1人の事案の中では、生じた結果が極めて重篤で、悪質性・常習性も際立っている」として、検察官の求刑(懲役18年)を上回り、有期懲役刑の上限である懲役20年を言い渡していた。

高裁判決は量刑を検討「“人生を破壊”はいささか過剰な評価」「程度が類例を見ないとも言いがたい」刑を5年減らす

男側は、1審判決には「事実誤認」があるとして控訴。

大阪高裁(坪井祐子裁判長・安永武央裁判官・荒木未佳裁判官)は2024年12月の判決で、事実誤認の主張は退けた。

しかし高裁判決は「職権で」量刑について検討した。

高裁判決は、同様の性犯罪事案の量刑の幅について、上限がおおむね懲役14年から15年に分布しているとした上で、1審判決は「この上限を突出して超えていて、虐待の末の傷害致死の量刑をも凌駕している」と指摘。

娘の被害結果についても「性犯罪の中に重大な精神的被害が伴うものが少なくないことは、従来から承認されている」「1審判決は、人生を破壊する結果をもたらしたとみても過言ではないなどと説示しているが、いささか過剰な評価といわざるを得ない」とした。

さらに悪質性・常習性の面についても「1審判決の評価に誤りはないが、この種の事案で卑劣な態様による犯行が常習的に繰り返された後に発覚する例が散見されることからすれば、程度が類例を見ないとも言いがたい」と判断した。

そして「1審で裁判員を含む裁判体が、被告の責任が非常に重いと判断したのは尊重されるべきで、同種事案の量刑の幅の上限程度=懲役15年程度に処することまでは許容できるが、これを大幅に超えることは、従来の量刑傾向からの合理的理由のない著しい乖離であり、重すぎて不当」と結論づけ、1審判決を破棄し、男に懲役15年を言い渡した。

男側はこの判決も不服として上告したが、最高裁が上告棄却決定を出し、今年6月14日付けで男の懲役15年判決は確定した。

物議を醸した判決… カギとなった判例

裁判員裁判制度は、市民の視点や感覚を反映させるという目的で導入された。裁判員を含む裁判体が下した量刑から、職権で5年も刑を減らした高裁判決は、大きな議論を呼んだ。

刑事裁判に詳しい近畿大学法学部の辻本典央教授は、MBSの取材に対し「2審の大阪高裁は、2014年の最高裁の判例に従ったと考えられる」と指摘する。

虐待死事件の裁判員裁判 求刑を大幅に超える判決に対し…「従来の量刑傾向を前提とすべきではない事情が具体的・説得的に示されるべき」とした最高裁

2010年に大阪府寝屋川市で、1歳8か月の娘が虐待死した事件。傷害致死の罪に問われた両親に、1審の裁判員裁判の判決では、求刑(懲役10年)を大幅に超える懲役15年が言い渡された。

裁判員を含む裁判体は、“起訴事実を含む長期の虐待の悪質性や、責任を他人になすりつけるような両親の態度の問題性を、検察官は十分に評価したとはいえず、本件のような重大な虐待に対しては、いままで以上に厳罰を科すことが社会情勢などに適合すると考えられる”と指摘。2審も1審判決を支持した。

しかし最高裁第一小法廷は、1審・2審判決を破棄し、父親に懲役10年、母親に懲役8年を言い渡した。

最高裁は、悪質性などをめぐる1審の判断は間違っていないとしつつも、「裁判員裁判といえども、他の裁判との公平性が保持された適正なものでなければならないのは言うまでもなく、これまでの大まかな量刑傾向を裁判体の共通認識とした上で評議を深めていくことが求められる」とした。

そのうえで「これまでの傾向を変容させる意図をもって量刑を下すことも、裁判員裁判の役割として直ちに否定されるものではないが、そうした量刑判断が公平性の観点からも是認できるものであるためには、従来の量刑傾向を前提とすべきではない事情が具体的・説得的に示されるべき」と結論づけた。

「“この事件だけ量刑が突出するのは妥当ではない”という評価。やむを得ない判断では」一方で「緩やかに量的傾向が変わっていく可能性も。今回の1審判決が否定されるべきではない」

今回の、娘に対する実父による性的暴行事件では、仮に複数の起訴がされていれば、刑法が定める「併合罪」の原理が適用され、有期懲役刑の上限が30年となっていた可能性がある。

1審の大阪地裁判決も、実質的に保育所の頃からの性加害を認定した形ではあったが、起訴された事実は、あくまで2022年の性的暴行“1事案”のみだった。なので、刑は20年までとならざるをえない。

そのうえで辻本教授は「2審の大阪高裁としては、“1審が懲役20年の量刑が妥当と判断した様々な事情も、精査すると同種の事件が複数あった。したがって、この事件だけ量刑が突出してしまうのは妥当ではない”という評価だった。やむを得ない判断だったのではないか」と分析した。

一方で、辻本教授は次のようにも語った。

「高裁では覆ったが、裁判員裁判が20年の判決を下したこと自体は、ひとつの事例として良かったと思う。今後こうしてひとつずつの事例が積み重なっていけば、緩やかに量的傾向が変わっていく可能性もあるし、今回の1審判決が否定されるべきではない」

2025年07月13日(日)現在の情報です

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