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特命取材班 スクープ

保健所職員が独白"患者を放置せざるを得ない現状" 午前2時半過ぎても消えない保健所の明かり「職員を増やしてほしい」

2021年05月11日(火)放送

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大阪市では医療機関で新型コロナウイルスの感染が判明した場合、保健所からの聞き取り調査を行います。しかし、保健所からの連絡が遅れ、一時900人の連絡待ちの状態もあったといい、感染者が不安な日々を送っています。なぜこのような“感染者放置”の事態が起きているのか。大阪市保健所の職員がMBSのカメラにその実情を証言しました。

発熱外来のクリニック院長「保健所が今パンク状態」

大阪市中央区にある「小畠クリニック」。5月5日、祝日にもかかわらず、発熱外来には患者からの電話がひっきりなしにかかっていた。

(電話で話す小畠昭重院長)
「いつからですか?きのうの夜から?午後4時で予約を入れておきますので」

(小畠昭重院長)
「(電話を切って)娘が熱を出したと」
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母親に連れられてやってきたのは、高校3年生の女子生徒。15分以内に結果が出る抗原検査で調べると…。

(小畠院長)「赤い線が出てきたらコロナ。出てるわ。自分、どこでうつったんや?」
(女子生徒)「私、コロナじゃないですよ」

陽性と診断された女子生徒。症状は軽いというが、心配なことがあるという。

  (母親)「離れたところにおばあちゃんが暮らしていて、おばあちゃんにきのうちょっとだけ会っているんですよ。どうなるんですかね?」
(小畠院長)「ちょっとだけ会っているぐらいでは濃厚接触ではないと思うけど」
  (母親)「また保健所から電話あるんですか?」
(小畠院長)「保健所が今パンク状態ですから。なかなか電話がかかってこないです」
  (母親)「なっちゃったもんはしゃあないやん。誰が悪いわけでもないやん」
(女子生徒)「おばあちゃん、大丈夫かな…おばあちゃん…」
  (母親)「大丈夫やって」
 
家庭内感染の不安から動揺して泣く女子生徒。その後、保健所が連絡を取り濃厚接触者がいるのかなど調査が行われることになる。

(小畠昭重院長)
「この第4波は今までの中でも大変やと思うわ。今まで何日も(保健所から)連絡がないというのはありえへんかったもん」

第4波で、現場の医師が危惧している保健所の対応。いま、SNS上ではこんな書き込みが見受けられる。

【ツイッターより一部抜粋】
『コロナ陽性と出てから1週間。未だに大阪市の保健所からの連絡がない』
『連絡がないと友人が困っている』

「新型コロナウイルスに感染しても保健所から連絡がない」という事態が大阪市で相次いでいるというのだ。

夜中でも明かりが消えない保健所 

5月6日の大阪府の対策本部会議。吉村洋文知事が大阪市の幹部に対し、強い口調で質問する場面があった。

(大阪府 吉村洋文知事)
「今、大阪市保健所は何人体制でやっているんですか?」
(大阪市健康局 首席医務監)
「人員は保健所の外部の本庁からの増員があるので、頭数としては投入しているところです」

人員を増加し対応していると説明した大阪市の幹部。保健所の現場では今、何が起きているのか。
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JR天王寺駅近くの繁華街。緊急事態宣言で閑散とした街の一角に大阪市保健所が入るビルがある。午前0時過ぎ、明かりがついているのは保健所が入るフロア。まだ職員は働いているようだ。

大規模商業施設の休業や飲食店の時短営業によって、行き場を失ったタクシーがビルの前に集まり始める。

(タクシー運転手)
「(ここは)お客さんが乗ってくれる。いまはどこ行ってもがらがらやから」

終電時間が過ぎて、ビルからは家に帰る人たちの姿が。タクシーに乗り込んでいくのは保健所の職員たちだ。この日はGWの最終日。午前1時すぎ、ビルから2人の女性が出てきた。

保健師が語る現状

そのひとり、仲間いずみさん(55)。大阪市保健所で働く、保健師だ。

(大阪市保健所・保健師 仲間いずみさん)
「遅くなるときはこのくらいの時間になりますね。今年4月からは非常に感染者の数が増えているので、遅くなるのが常態化しています」

これまで大阪市保健所は職員へのカメラ取材などには応じていないが、仲間さんは「現状を直接市民に伝えたい」と取材に応じた。

(仲間いずみさん)
「保健所の職員みんな、できる限りの努力をしているんですけれども、実際は(患者を)待たせているという現状があるので、私たちとしては非常につらいです」

仲間さんが担当するのは疫学調査。検査で感染が確認された患者に電話などで直接連絡を取り、症状や行動歴、濃厚接触者を見つける役割を担っている。

大阪府では4月13日以降、新規感染者が1日1000人を超える日が続き、約半数を大阪市の感染者が占めている。大阪市保健所で、1日に連絡を取れる患者数は約150人。連絡待ちの患者が増え続けたという。

(仲間いずみさん)
「実際、非常に連絡できなかったときは(GWの)連休前がそうだったんですけれども、800人~900人の患者を待たせていたと思います。1週間以上、ご連絡できていなかった現状があります。待たせていることで市民の健康に支障が出ると思っていますので、気持ち的には焦りますし、自宅療養の方で急変される方がいると聞きますと非常に心が痛みます。(Qどうして業務がひっ迫する事態が起きている?)急激な患者の数の増加。それに見合う職員の確保がなかなか難しいのがあるのかなと思います」

深刻な人員不足「あしたにでも職員を増やしてほしい」

仲間さんが訴える人員不足。第3波のとき大阪市内の新規感染者は最も多い日で約290人だった。当時、市の保健所では疫学調査にあたる常勤の職員は42人(今年1月中旬時点)いた。しかしその後、体制が緩められ、今年4月中旬時点で職員の数は31人に減っていた。こうした事態に大阪市の松井一郎市長は。

(大阪市 松井一郎市長 4月30日)
「今、保健所の体制についても大阪市役所の中でさらに拡充」

体制を強化したと話したものの、GW前の4月26日に保健所の疫学調査に増員されたのはたった“6人”だったという。

(仲間いずみさん)
「今いる職員といくら努力しても、それには限界があると思います。人の命を預かっている仕事になりますので、決して精神的にも楽ではないですし、それが滞ることになると医療職が保健所は多いですので、非常に自分を責めると思います」

保健所の職員の中には35連勤の職員や、過重労働による精神的な負担などから休職している職員も複数いるという。仲間さんは次の感染拡大への準備が必要だと訴えている。

(仲間いずみさん)
「希望としては、あしたにでも職員を増やしていただければ、何よりも市民への対応が滞らずに迅速にできると思います。第4波と第5波の間の時間を効果的に使って、その間に次の体制を整えないとだめだなと思います」
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感染者の命と最前線で向き合い続けている現場。取材をした日、午前2時半を過ぎても保健所の明かりが消えることはなかった。

(5月11日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特命取材班スクープ』より)

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