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コダワリ

先代から引き継ぎ直後...火事で作業場など全焼し操業停止に『つまようじ』製造会社の再出発 周りの支援に「世の中捨てたもんじゃない」

2021年12月09日(木)放送

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大阪府河内長野市は、かつて国産『つまようじ』のシェア95%以上を誇る一大生産地でした。しかし、海外製の大量生産に押され産業として衰退する中、それでも製造を続けていた会社がありました。ところが、創業61年を迎えた今年10月、会社が火事で焼けてしまいました。国産『つまようじ』を守るため、再建に向けて奮闘する社長を取材しました。

野焼きの「飛び火」で事務所や作業場が全焼

大阪府河内長野市でつまようじを製造・販売する『菊水産業』。今年10月9日、周辺の畑の野焼きが飛び火して事務所や倉庫、作業場などが全焼しました。
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社長の末延秋恵さん(43)は、店をたたむ予定だった先代から火事の1か月前、社長を引き継いだばかりでした。
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(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「原型がないからグチャグチャでわからないんですけど、あそこで靴脱いで上がる感じだったんですよ」
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黒焦げになった建物。床にはつまようじが散乱していました。

(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「看板だけ助かったんです。助かりました、これは」

つまようじが地場産業の河内長野市。市内には「つまようじ資料室」もあり、最盛期には26社を数え、国内シェア95%以上を誇りました。しかし、中国などの大量生産に押され、今、国産のつまようじを製造するのは菊水産業含めわずか3社だけです。

つまようじを製造する工場だけは無事だった

実は火事が起きる前の去年6月にも菊水産業を取材していました。売り上げが低迷する中、つまようじの材料を生かし秋恵さんが開発したのが『非接触棒』。エレベーターのボタンなどを直接触らずに押せるとして、コロナ禍で大ヒットしました。
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(菊水産業・専務(当時) 末延秋恵さん 去年6月)
「診療所とか介護事業所とか、会社がまとめて買われたりしてて。こんなに売れるとは思っていなかったので、結構ビックリしています」
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業績の回復も期待されましたが、そんな矢先に起きた火事。事務所などは全焼しましたが、つまようじを製造する隣の工場だけは無事でした。
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(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「幸いなことに工場は焼け残ったので、国産つまようじを作り続けることはできるんですよね。これは先祖に『まだ作れよ』ってきっと言われているのかなって」

SNSなどで火事を知ったお客からの支援に「世の中捨てたもんじゃない」

11月、再建に向けて全焼した事務所などの解体工事が始まりました。
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秋恵さんの母・廣美さんも、様子を見に来ました。

(秋恵さんの母・廣美さん)
「まさか娘がここを継いでくれるとは思わへんかったからね。思った矢先がこれやから、あまりにも試練が大きすぎてちょっとかわいそうやなと思いますね。一からやり直すつもりでいかなしゃあないな」
(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「うち家族全員ポジティブなんですよ。本当に」
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前を向く秋恵さん。取材した日、取引先が使わなくなった棚を受け取りに行きました。

(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「『良かったらこれ使ってください』と連絡をもらって」
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(取引先の人)「この辺の収納も、もし使っていただけるなら使ってもらおうと思って寄せているんですよ」
(末延秋恵さん)「ありがとうございます!」
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棚が運ばれた先は、空き家だった祖父の家。ここを間借りして新しい事務所にしました。
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SNSで火事を知ったお客さんから、次々と注文が入ってくるようになりました。

(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「今までお取引なんて全然なかったので、火事がきっかけでこういうふうに『仕入れて売ることでご支援できたら』って言っていただいて。世の中捨てたもんじゃないなってめちゃくちゃ思いましたね」

放水で漏電の危険があった「つまようじ製造機」を試運転

ただ、消火活動時の放水で漏電の危険があるため、火事の後はつまようじの製造機を動かしていませんでした。この機械は60年前に製造され、既に生産は終了。もう新しく作ることはできません。取材した日、機械が正常に動くか試運転が行われていました。

(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「材料をカットする機械です。その試運転というか、今まで動いてなかったので、ちゃんと動くかどうかの試運転という感じです」

火事の後も果たして、正常に動くのでしょうか。
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無事に稼働しました。
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(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「ほんまに良かったですね」
(従業員)
「切れ味がシャーシャーって切れてる」
(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「とにかくこの2つ(の機械)が動いたらつまようじは作れるから」

いよいよ生産再開 “丸み"のコダワリ詰めたつまようじが復活

そして12月、いよいよつまようじの生産を再開しました。機械で木の先端が削られて、次々とつまようじができあがっていきます。
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(末延秋恵さん)「すごくキレイです。ほんとに」
  (従業員)「10点」
(末延秋恵さん)「いや、100点です」
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(従業員)
「頭にアール(丸み)を付けてますねん。全体に。中国とかのは直角でしょ。そこはちょっとコダワリがありますねん」

菊水産業のつまようじは上部の装飾に丸みがあり、触った時の感触が滑らかです。長さたった6cmに詰め込まれたコダワリの形。ここでしか作れない国産つまようじが復活しました。

再び製造にこぎつけた「1箱」が道の駅に並ぶ 

本格稼働前のためまだ1箱だけですが、12月2日に『道の駅 奥河内くろまろの郷』に商品を並べることができました。

   (末延秋恵さん)「前のパッケージは全部燃えてしまって、もう納品できないんですけど」
(道の駅 担当者)「燃えてしまったんですもんね。この商品以外でも納品していただいて全然構いませんので、ぜひぜひ」
  (末延秋恵さん)「ほんとですか。またサンプル持ってきます」
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この日道の駅に並べられたのは『しらかば楊枝』。約450本入りで、税込み293円です。このつまようじを買いにわざわざ遠方から訪ねてくる人もいるほど、人気の商品だといいます。
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(道の駅 担当者)
「現状はこれしかない状態なんですけど、やはりお客様からも好評でして、ご年配のお客様を中心にお土産としても買われていく方が多いですね」

まだまだ小さな一歩ではありますが、再建に向けて大きな飛躍となりました。
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(菊水産業・社長 末延秋恵さん)
「今回、火事があって、ものすごく応援してくれる人がたくさんいるってことがすごくわかって。(火事前には)もう戻れないし、じゃあここからどうするかやろうなって思っているんで。頑張っていこうと思っています」

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