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長時間労働や厳しい上下関係を改革するパティシエール『妊娠を機に曜日制導入した店』『オーナーシェフ不在!フラット環境な店』

コダワリ

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 洋菓子を作るパティシエの世界は華やかな印象があります。しかし実際は、下積み期間が長く、早朝からの仕込みに追われて休みも充分にとれないなど、その労働環境は決して甘くはありません。こうした中、「新たな働き方」を探る女性菓子職人=パティシエールたちを取材しました。

『育児と自身のこだわりの両立』

 兵庫県芦屋市にあるパティスリー「ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋」。
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 この店では、フランス産のマンジャリというチョコレートを贅沢に使ったケーキや、毎朝農家から直接仕入れた完熟苺のショートケーキ、イタリア産の栗をふんだんに使ったモンブランなど、厳選した素材がウリの洋菓子が並びます。
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 オーナーでパティシエールの伊東福子さん(43)は、有名ホテルなどで修業を詰み、2009年に自身の店をオープンしました。伊東さんのこだわりは「どんな時も作りたての洋菓子を出すこと」です。

 (ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 伊東福子さん)
 「出来立てというところにはこだわっています。フランスに行った時におばあちゃんが焼いている何気ないサブレを食べた時に、出来立てってこんなにおいしいんだっていう感銘を受けて」

 おいしく食べてもらうため、作り置きしないことを信条に、当日の早朝から10種類以上の洋菓子を並行して作ります。
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 丁寧に仕上げた商品が店頭に並ぶと、午前11時の開店と同時にお客さんが次々に訪れます。

 (客)「ここが開いていたら買ってきてと頼まれて」
(店員)「1月から生菓子が木・金・土になったんです」
 (客)「そうなんですね」
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 実は現在、ケーキなどの「生菓子」を売っているのは木曜日・金曜日・土曜日の週3日だけ。
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 あとの日曜日・火曜日・水曜日の3曜日はクッキーなどの「焼き菓子」のみを販売しています。
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 伊東さんがこの販売方法に転換したのは約4年前、自身の妊娠がわかった時でした。

 (ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 伊東福子さん)
 「妊娠した時をきっかけに、産後も今と同じ働き方が私自身にできるかと考えた時に、難しいと思いまして。現状、抱えているスタッフにどうすればお給料を払っていけるかと考えた時に、金・土・日は生菓子にして、あとは焼き菓子のみということで、お客さまにご了承いただこうということで」
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 作りたての方針を貫くため、毎日早朝に出勤して生菓子と焼き菓子を作り続けていた伊東さん。自身が育児に向き合うことで、スタッフにしわ寄せが行くことを危惧したといいます。

 (ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 伊東福子さん)
 「(スタッフが)疲れることによって生産性ってぐっと下がっちゃう。そしてミスも出てくるとなると、いいものが作れなくなってくるので」
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 意外にもお客さんの反応は温かかったといいます。

 (ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 伊東福子さん)
 「最初のころは『え、ないの?』という声が多くて。でも事情を説明して理解が進んでくると、『小さい頃、今のうちだけだからね。可愛いの』『今のうちに手をかけてあげて』と合わせてくださるお客さまが本当に多いです」
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 伊東さんは、4歳になった娘を育てながら、試行錯誤を続けています。

 (ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋 伊東福子さん)
 「今日も実はもう1回(早起きした娘の)寝かしつけに成功したので、朝7時20分くらいに来て、45分まで仕事をして(一旦)帰りました。時にいっぱいいっぱいになることもありますけれども、お客さんも含めてですが、理解があれば続けていけるのかなと思います」

業界には『長時間労働』『閉鎖的空間』『厳しい上下関係』

 しかし、パティスリーにとって仕事とプライベートの両立は簡単なことではありません。

 今年1月、兵庫県三田市の人気洋菓子店「パティシエ・エス・コヤマ」が労働基準法違反の疑いで書類送検されました。
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 労働基準監督署によりますと、1か月間に最大340時間以上の時間外労働・休日労働をしていた社員もいたといいます。

 過酷な労働環境から離職するパティシエが多いのも現実です。
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 パティシエに特化した人材紹介を手掛ける企業「ドリームラボ」によりますと、パティシエの離職には、長時間労働に加えて“ある理由”があるといいます。

 (ドリームラボ 塩崎隆裕さん)
 「閉鎖的な空間で上下関係が厳しい中で働いているので。オーナーの意向が強い中で自分が作りたいお菓子が作れないとか、誰に食べてもらえてどう喜ばれているのかわからない状態というのが、続けていくとしんどくなるポイントかなと」

 厨房という狭い空間で、オーナーからのトップダウンの指示には逆らえず、自分のケーキで誰かに喜んでもらうという本来の目標を見失ってしまうパティシエが多いのだといいます。

過酷な労働環境の改善を目指した店

 こうした相談を多く受けて、業界特有の根深い課題を少しでも解決できないかと、ドリームラボは去年、大阪市北区に自ら新たなパティスリー「hannoc」をオープンしました。
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 まず、こだわったのは店の構造です。厨房をガラス張りにして、パティシエにもケーキを食べるお客さんの姿が見えるようにして、モチベーションが上がるようにしました。
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 さらにケーキの横には作ったパティシエの写真と名前が置かれています。
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 この店では、トップダウンではなく、所属する6人の若手パティシエが自分たちで考えて洋菓子作りに挑戦できるフラットな環境を整えました。

 (hannoc 森えみりさん(25))
 「(他の店では)同年代でしたら開発とか自分のケーキを出せるというのはあまりないのかなと。自分の夢がお店を出すことなので、自分で考えたケーキを評価してもらえるのが、すごく嬉しいと思う」
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 パティシエール歴1年の上田莉緒さん(22)。今年3月、このパティスリーがオープンから1周年記念のイベントをする中で、上田さんにも自分のケーキを作るチャンスが与えられました。

 (hannoc 上田莉緒さん)
 「私自身こういう自分の生ケーキを出すのが初めてなので。かなり気持ちはこもっています」
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 上田さんが考えたケーキは『玄米茶と洋ナシのムースケーキ』。
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 試作を準備して同僚たちと意見を交わします。

 (hannoc 野中優希さん(25))
 「今のままじゃ普通に洋ナシだけのシンプルな味わいしかないから、周りのムースの味が負けてしまっている」
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 指示をするオーナーシェフはいないため、自分自身で考えながら何度も試作を重ねてブラッシュアップしていきます。

「1年目でできるとは思っていなかったのですごく嬉しい」

 そして迎えたお披露目。上田さんのケーキがショーケースに並びました。
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 上田さんはケーキに『プルミエ』と名づけました。
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 (hannoc 上田莉緒さん)
 「フランス語で『初めて』という意味なんですけど。いつか…と思っていたんですけれど、それがこんなにも早く、1年目でできるとは思っていなかったので、すごく嬉しいです」
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 開店すると一斉にお客さんが入る盛況ぶり。6人のパティシエたちが考えた華やかなケーキがお客さんを出迎えます。
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 上田さんが考えた玄米茶と洋梨のケーキ・プルミエもどんどん売れていきます。

 (客)
 「甘めなのかなと思ったんですけれど、中の素材が結構酸味もあったので、食べやすくておいしかったです」
 「最初、真ん中の洋ナシのコンフィチュールの味がパッと来て、だんだん食べていたら玄米茶の味がブワっと来て。すごくおいしかったです」

 全てはお客さんを笑顔にするため。パティシエ業界でも新たな働き方の模索が続いています。

2022年03月23日(水)現在の情報です

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