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憧れた青春『81歳の女子高生』夢のまた夢だった学び直し 貧しく学校へ通えなかった時代も「思い出すと涙が出るんです」

2021年11月02日(火)放送

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今年7月に厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は、女性で87.74歳、男性で81.64歳と過去最高となりました。定年を迎えるなどして、仕事をやめた後の生き方も多様化しています。そうした中、80歳で定時制高校に入学し、81歳の今も勉強を続けている女性がいます。貧しくて学校へ通えなかった時代を取り戻すように、青春を謳歌する様子を取材しました。

クラスメイトはひ孫世代『81歳の女子高生』

ピンクの傘に、流行りのスニーカー。高校2年の村田十詩美さん、81歳の女子高校生です。毎日、午後6時に学校の門をくぐります。

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村田さんが通うのは「大阪府立寝屋川高校」の夜間の部です。不登校を経験したり、経済的に困窮していて昼間に働いていたりと、さまざまな事情がある生徒らが通っています。

数学の授業では素数を選ぶ問題や素因数分解をする問題など、プリントを使って基礎から学んでいきます。

  (先生)「覚えるんじゃなくて、なんとなくパーっとわかるようにして」
(村田さん)「素因数分解っていったら、割るやつやね」
  (先生)「そう。12割る2、ひっ算の逆」
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クラスメイトは“ひ孫世代”ばかりですが、負けじと勉強に励んでいます。

(村田十詩美さん)
「割と数学は好きやから。数学やったら家で勉強しようかなという気になる。勉強ができるということは、自分ができなかったことをやっているからね。それが一番かな」

家族を養うため働きづめだった人生

村田さんには、これまで青春と呼べるような学校生活はありませんでした。小学4年のとき、父親が病に倒れ、看病に追われる母を支えるために、内職の手伝いを始めました。それでも家計は苦しく、中学校に入ってからは近くの酒店で住み込みで働かざるをえず、学校にも通えませんでした。

(村田十詩美さん)
「(酒店では)だいたいが子守の仕事。ほんで配達とかね、自転車でビールを配達する。(友だちが)学校へ入らんと『何してんねんお前』と言われて。嫌だったけど、先生も何回か来はったけど」
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結局、中学を卒業できず、その先の高校は夢のまた夢でした。

(村田十詩美さん)
「(Q子どものときは中学を卒業しなかった?)そうそう。子どもの頃…、ごめんなさい。これを思い出すと涙が出るんです。やっぱり貧乏やったからね、うち。私が働かないと食べていけなかったんです」
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その後、18歳で結婚して、4人の子どもを出産します。しかし、夫はギャンブルと酒に明け暮れ、村田さんは家族を養うため、ラジオの販売員やスナックの経営など、様々な職を転々としてきました。働きづめの人生でした。そうして、68歳で仕事をやめた村田さんに「ある思い」が湧き上がってきました。

(村田十詩美さん)
「漢字ですね、漢字。新聞を読んでいて読めない漢字がたくさんあるでしょ。新聞の字の前と後ろを先に読んで、『だいたいこんな内容やろな』って想像して読んでいたんです。だから漢字が読みたいというのが一番最初ですね」
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意を決して、70歳のとき、夜間中学に通い始めました。9年かけて卒業し、去年80歳で定時制高校に入学。憧れだった高校生にやっとなることができたのです。

(村田十詩美さん)
「数学、化学、ふたつだけか。(Q重くないですか?)重い。でもまだ軽い方や、きょうは」

減少の一途をたどる定時制高校

定時制高校は減少の一途をたどっています。文部科学省によりますと、定時制高校は1950年代には全国で3000校以上ありましたが、通信制の高校など選択肢が増えたこともあり、おととしには639校と、約5分の1に減りました。
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その分、定時制高校の役割はさらに大きくなっていると、村田さんが通う寝屋川高校の小早川准校長は話します。

(寝屋川高校・定時制の部 小早川真一准校長)
「村田さんのように、なかなか教育を受ける機会がなかった人や、小学校・中学校と不登校を経験した生徒、いったん高校に行ったけど、何らかの形で本校でもう一度学びなおしをチャレンジしている生徒。そういった生徒たちが安心して学べる場ということで、絶対になくしてはいけない場だと考えています」

自然と集まる同級生「歳が離れている感覚がしない」

村田さんは学校に行く前に必ず立ち寄る場所があります。近所のたこ焼き店です。ここで食事をとるのも、授業を受けるうえでの大切な日課のひとつになっています。
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(村田さん)「私の脳を活発に動かしてくれる」
  (店員)「すごいハッスル、尊敬するわ。私らなんかは絶対に勉強したくないけど、すごく意欲があるし」
(村田さん)「最初は恥ずかしくて言えなかった。3か月、4か月してから言った」
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いまでは、クラスメイトも自然と村田さんのもとに集まります。

(村田さん)「これをただ折るのが嫌やねん」
 (同級生)「全部折ったらわからんくなる」
(村田さん)「いややわ。3つ折りにしようか」
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(村田さんの同級生(16))
「すっごいの一言やな。クラスに自分のおばあちゃんよりも高齢のおばあちゃんがいるというおもしろい状況。小学校・中学校と同じ年齢の人とだったから、高校に入って全然違う年齢の人と勉強していて、意見とかも違うから面白いと思う」
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(村田さんの同級生(17))
「あまり歳が離れているという感覚がしないんですよ。授業が本当に一緒に受けていても楽しいし、たまにプリントが前から回ってこなくて、村田さんの席で止まっていて。その時も楽しいし」
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担任の先生も次のように話します。

(村田さんの担任 和辻敬先生)
「みんなとしてはクラスメイトかもしれないですが、私たち教員からしたら人生の先輩でもありますので。『分からないことがありましたら村田さんに聞きましょう』みたいな感じで、そのような振り方もできますので。1人いるのといないのとでは全然違いますね」
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自分よりもはるかに若い人たちと過ごす青春。村田さんは人生をもう一度、歩み始めました。

(村田十詩美さん)
「若い子ばっかりだけど、それでもみんな声をかけてくれるし、話していても楽しいからね。(Qいまの村田さんにとってこの高校はどのような存在ですか?)そうやね、生きがいかな。やっぱり友達と話せること、話して笑えること、2番は勉強かな。みんな若いし、若さを吸収させてもらっています」

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