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パラアスリートを支える『義肢装具士』 選手と切磋琢磨して築き上げる「義足」づくりへの思い

2021年09月02日(木)放送

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「義肢装具士」とは国家資格の1つで、脚を失った人や生まれつき脚がない人のために義足を設計・製作するなどします。競技用のものとなると選手のパフォーマンスに直結するため、特別な工夫が必要になります。今回、パラリンピック本番に向けてアスリートと二人三脚で歩んできた義肢装具士を取材しました。

東京パラに出場の前川選手らを『義足製作でサポート』

義肢装具士の沖野敦郎さん(42)。脚に障がいがあるアスリートのために義足を製作しています。

(義肢装具士 沖野敦郎さん)
「(アスリートは)パフォーマンスが上がればいいじゃないですか。走りたい、跳びたい、投げたい、球を打ちたい、遠へ行きたいとか要望が明確なので、ある意味やりやすいですよね」

沖野さんは東京パラリンピックに出場する陸上選手ら4人をサポートしています。
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その1人が陸上の「女子100mT63」と「女子走幅跳びT63」に出場する前川楓選手(23)です。右足の太ももから下に義足を装着しています。5年前の2016年リオ大会では走り幅跳びで4位と、メダルには一歩届きませんでした。
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そこでソケットと呼ばれる脚との接続部分がよりフィットする義足を探していたところ、仲間の紹介で沖野さんに出会いました。
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(前川楓選手 今年8月)
「今はいているソケットが初めて沖野さんに作ってもらったものなので、まだ1年くらいですかね。うまくいったのですごくうれしいです」

沖野さんが作った新しい義足のおかげもあり、前川選手は今年に入って自己ベストを更新しています。
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(沖野敦郎さん)
「彼女の場合は筋肉があるので、ぐっと脚に力が入れると形が変わる。ソケットは硬いものなので形が変わらないので、“力を入れたときにこれくらいの緩さを…”とか考えながら作っています」

義足の裏の部分は競技用スパイクと同じ形状に

普通の義足と競技用の義足との違いは明らかです。競技用はカーボン製の板バネが使われていて、足の裏の部分は競技用スパイクと同じ形状になっています。脚の型どり・製造・納品・メンテナンスに至るまで、沖野さん1人で手がけています。
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(沖野敦郎さん)
「良くも悪くも全部自分のせいになるので、失敗しても自分のせいだし。自分が作ったものを責任を持ってやりたかったというのはあります」

テレビで見たシドニーパラリンピックが転機に「義肢装具士」目指す

兵庫県の神戸で育ち、中学から陸上競技を始めた沖野さん。将来はエンジニアを目指していましたが、転機が訪れたのはテレビで見た2000年のシドニーパラリンピックでした。
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(沖野敦郎さん)
「脚にロボットがついている。なんだこれ?って調べたら、義足だった。かっこいい、つくりたい、一緒に走りたいと」
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新たな目標ができた沖野さん。大学卒業後に専門学校で義足の作り方を学びました。義肢装具士として歩み始めた沖野さんは、これまで15人ほどのパラアスリートに義足を提供してきました。

義足作りは「作っている人も緊張する」

パラリンピック開幕を1か月後に控えた今年7月下旬、前川選手から突然の発注がありました。「義足の板バネが壊れそうになったので、新しい板バネを作ってすぐに送ってほしい」というものでした。沖野さんは早速、作業にとりかかります。カーボン製だけに普通の刃では硬くて切ることができないため、石を切るノコギリを使っています。

(沖野敦郎さん)
「切るの下手なのでいつも斜めに切れるんですよ。なのであとで削ってきれいにします。ただ単にぼくが不器用なだけ」
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たった数mmのズレでもパラアスリートにとっては脚の長さが変わることを意味します。パフォーマンスにも大きな影響を与えかねません。
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最後にスパイクのソールを取り付けますが…。

(沖野敦郎さん)
「ちょっと不安になりますよね。パラのウォーミングアップで『これが剥がれた』と言われた日にはどうしようと思っちゃいますし、4年に1回というのは考えただけで選手のプレッシャーはすごいなと思う。作っている人ですら緊張するのに」

「義足だから人生の幅が狭まるということにはなってほしくない」

沖野さんは月に1回程度、義足ランナー向けのランニング教室を開いています。幅広い年齢層の人たちに体の正しい使い方を教えています。

(教室に参加した人)
「今までできなかったことが、できるようになったので楽しいです」
「走ることは歩くことの延長なので、歩き方もきれいになったり長距離を歩けるようになったりしているのは、ここの練習の成果だと思っています」
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(沖野敦郎さん)
「義足だから人生の幅が狭まるということにはなってほしくないし、してほしくない。あきらめないような人生を送ってほしいなと思います」

パラアスリートと切磋琢磨し優れた義足を生み出す

そして大会本番前、前川選手に新しい義足の板バネが届きました。沖野さんは感想を聞いてみました。

【オンラインでの会話の様子】
(沖野さん)「送った板バネは使っているの?」
(前川選手)「はい、使っています。私が前に使っていたスプリンターが5年くらい使っていて、けっこう剥離とかしていて、新しいやつだと硬く感じるかなと思ったんですけど、そういうこともなく、前のと同じ感覚で走れています」
(沖野さん)「高さも長さも大丈夫だった?」
(前川選手)「はい、大丈夫でした」
(沖野さん)「楽しく見させてもらいますんで」
(前川選手)「はい、頑張ります」
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沖野さんは、パラアスリートと切磋琢磨することが優れた義足を生み出す原動力になると考えています。

(沖野敦郎さん)
「アスリートは常に高みを目指しているので、いいものができました、次はもっといいものを作って、その次はもっといいものを作って…となる。自分の技術を保っているだけだとアスリートの要望だけ高くなってきちゃうので、自分が追いつけなくなる。自分の技術も上げていかないと」

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