MBS(毎日放送)

「顔も腫れあがり、髪の毛もむしり取られていた」妹が殺され償いを求めた遺族 加害者へ賠償求めても全額払われず 相手の口座に残っていたのはたった"931円"「憎みたくなくても憎んでしまう...今の制度では」

編集部セレクト

SHARE
X
Facebook
LINE
  

 兵庫県尼崎市で行われた講演。会場の壇上には2人の人が座っていました。いずれも事件で最愛の家族を亡くした遺族です。その中にいたある男性。男性の名は稲田雄介さん。 (稲田雄介さん)「亡くなった後に見せてもらった最期の顔は何年たっても色あせないです。『絶対に加害者に、復讐、仕返しをしよう』と、かすむ目を何とかしてぬぐいながら、その写真をまじまじと見て考えていました」

 2021年6月、大阪市北区でカラオケパブ「ごまちゃん」を経営していた稲田真優子さん(当時25)は店の常連客だった宮本浩志受刑者(58)に首や胸などを刃物で何度も突き刺され殺害されました。
損害賠償 白-000154634.jpg
 突然起きた悲惨な事件。当時妹を失った悲しみに暮れる一方、裁判期間中の宮本受刑者の言動に苦しめられていました。1審で宮本受刑者は「被害者遺族の意図をくむなら、ぜひとも死刑を下していただきたい」などと身勝手な主張を展開しました。下された判決は懲役20年でした。

 心を踏みにじられた雄介さんら家族。雄介さんは宮本受刑者に対して「損害賠償命令制度」でやり場のない怒りへの償いを求めます。この制度は刑事裁判の有罪判決後に、手続きに関与した裁判官のもとで審理が行われるものです。裁判所は宮本受刑者に約2980万円の賠償を命じました。

妹の最期は『顔が腫れあがり…髪の毛むしり取られたような状態』

 18日、講演に立った雄介さん。事件で亡くなった後の妹の様子について話しました。

 (稲田雄介さん)「最初は、遺体と会うにしても顔は布で覆われていて、中は包帯で巻いている状態。自分は亡くなった認識を持たないと前に進めないなと思って、1枚でもいいから亡くなった時の写真を見せてほしいと話をした。ただ刺されて亡くなっただけではなく、顔にも複数の暴行の跡があって腫れあがり、髪の毛もむしられている状態でした。刺されただけじゃなく、顎も刃物で皮膚をえぐり取られているような、カラスが猫の死体をついばんだような、そんな最期でした」

加害者に命じられるも賠償は全額支払われず

 加害者に対して「許せない」。そんな思いを抱く中、受刑者に命じられた賠償金も全額、支払われていないと言います。

 (稲田雄介さん)「損害賠償は2980万円と大きな金額をもらえた判決だったが、実際に判決が出てから約2年弱経つのですが、実際に払われているのは600万円のみでした」

 賠償命令制度は刑事裁判の有罪判決確定後でないと実施できない制度です。そのため、遺族自身が相手の資力や資産などを調べるにもすぐには動けない現状についても話が及びました。

 (稲田雄介さん)「まずはすぐに動けない、殺人事件の場合ですと裁判まで1年以上期間を要しますし、事実認定を要するまでに1年半はかかってしまう。いくら相手を恨めしい、憎いと思っても事実認定をされたあとでなければ、責任や賠償を求めることができない。相手に時間を与えてしまうということです」

 『損害賠償で何とか少しでも償いをしてもらいたい』そう思っていた稲田さんが相手の資力などを調べると、口座にはわずかな金額しか残っていなかったということです。

 (稲田雄介さん)「相手は持ち家がありましたが、1年半という期間があくと、その間に家を手放し、配偶者への財産分与もなされていた状態でした。そして口座には931円しか残っていませんでした。その931円が償いなのかなと。分相応ではないのかなと、憎みたくない人間でも憎んでしまうんですよね、今の制度ではどうしても」

「故人に思いはせる余力のある生活を送らせてもらいたい」

 稲田さんは相手からの賠償金の未払い問題と向き合いながら、それ以上に事件で大切な人を失い、精神的にも辛い現状を次のように話しました。

 (稲田雄介さん)「人の命を電卓ではじくことは僕はナンセンスだと思います。包括的に支えることが、この立場に立って思うのは必要だなと感じます。一番嫌だったのは、恨みつらみで目が曇ってしまって、故人との思い出が生活に忙殺されたり忙しくなって、薄れてしまうことなんです。せめて生活の立て直しができる、故人に思いをはせる、悲しめる余力のある生活を送らせてもらいたいなとこの立場に立って思います」

加害者の大半は賠償金を“踏み倒し”

 日本弁護士連合会が2018年に行った調査では、加害者に賠償を求めたケースで、裁判などで認められた賠償額のうち実際に被害者に支払われた金額は、殺人事件で13.3%、強盗殺人事件で1.2%などとほとんど支払われていないのが現状です。

 さらに判決から10年が経つと時効を迎えてしまうため、加害者側からの支払い義務がなくなってしまいます。そのため被害者は、加害者の逃げ得を阻止するためにも、再び裁判を行う必要があります。

 稲田さんが所属する「犯罪被害補償を求める会」では国に対して賠償金の立て替え制度の創設を国に求めています。

2024年05月19日(日)現在の情報です

今、あなたにオススメ

最近の記事

"最後の砦"心臓病の妊婦支える医療チーム 出産は難しいと言われていたけれど...「安心して産むことができた」「希望が見えて未来が楽しみに」

2025/12/12

ひたすら試してランキング『ロールケーキ』 ドラマ「グランメゾン東京」でスイーツを監修した一流パティシエとアンタッチャブル・柴田が選ぶ「"口ほどけ"がいい」別格の味 注目の第1位とは?【MBSサタプラ】

2025/12/10

報道被害を受けた遺族が「被害にあわれたあなたへ」取材対応リーフレットで支援 それでもマスメディアにかかわり取材を受ける"メリット"とは...【附属池田小事件 被害者支援part4/全4回】

2025/12/07

「なぜ娘は死ななければならなかったのか」答えなき永遠の問いかけ "ホミサイドサバイバー" アメリカ訪問で知った早期支援【附属池田小事件 犯罪被害者支援part3/全4回】

2025/12/07

「怖かったよね、痛かったよね」現れた鮮やかな幻影に声かけた 血だまりと小さな手形に娘の最期の思いを知った日【附属池田小事件 犯罪被害者支援part2/全4回】

2025/12/07

「ご父兄ですか?何か一言を」無神経にマイク向けるマスコミへ怒り 「助かる見込みはありません」医師の非情な宣告 附属池田小事件で娘奪われた遺族が『超混乱期』振り返る【犯罪被害者支援part1/全4回】

2025/12/07

【大阪みやげの新定番】たこ焼き×サクサクパイの意外な組み合わせで大ヒット 花がモチーフの「大人かわいい」商品は地道な活動とSNSが追い風に みやげ店内での"場所取り"にもヒミツ

2025/12/06

ワイン造りに情熱捧げる滋賀のブドウ農家 目指すは地元食材を生かした料理と一緒に楽しむワイン いずれは世界へ...初めて挑んだ醸造のゆくえは?

2025/12/05

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook