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京都縦断計画の北陸新幹線『景観は?』『井戸水は?』かやぶきの里や老舗菓子店...自然求めた移住者の不安「乗る人は良いが地域にとっては負の財産」

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 来年3月に金沢-敦賀間が開業する北陸新幹線は、2046年には大阪まで延伸されて完成する予定です。計画では、敦賀から小浜市付近を通って京都駅、京田辺市付近を経由して新大阪駅につながる計画ですが、その8割がトンネルを走るとされています。これについてルート候補地の人たちの間では不安が広がっています。

井戸水への影響を懸念する京都の老舗和菓子店

 1803年創業の京都の老舗和菓子店「亀屋良長」。丁寧に小豆を洗う音が作業場に響きます。200年以上もの間、変わらぬ伝統の味を受け継いできました。その菓子作りに欠かせないのが良質な水です。

 (亀屋良長・8代目当主 吉村良和さん)「井戸水ですね、中軟水。味が引き立つような感じですね。小豆の香りもよく出ると思います」
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 四条通に面した店のすぐ脇には地下80mからくみ上げた井戸水が。自由に持ち帰ることもできるため入れ代わり立ち代わり人が訪れます。

 (地元の人)「しょっちゅう汲みにきている。飲み水と氷は水道の水を飲んだことないね」
 (中国からの留学生)「Very very good taste.こんな都会でおいしい水を見つけられるなんて、とても興味深い」
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 地元で愛される井戸水。ですが北陸新幹線の大阪延伸で「問題が生じるかもしれない」と当主の吉村さんはいいます。

 (亀屋良長・8代目当主 吉村良和さん)「掘ると水脈が変わって、井戸が出なくなったり、深く掘らないと出なくなったり。影響は何かしら京都市内の地下を通るならあるかと思いますね」

 計画では、京都市内の地下を南北に貫く形で新幹線が通るとされていて、その影響を懸念しているのです。
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 三方を山に囲まれた京都盆地。その地下には潤沢な地下水が流れていて、水量は琵琶湖に匹敵するほどと言われています。自然の恩恵のありがたみを感じる一方で、周辺では約60年前の私鉄の地下工事の際に井戸水が枯れてしまった経験があるため、同じことが起こらないかと不安が拭えないのです。

 (亀屋良長・8代目当主 吉村良和さん)「井戸水が枯れたこともあって、また枯れるんちゃうかなと。なぜ京都市の地下を通ることに決まったのかということ、いろんなことを知りたい」

延伸ルートは8割がトンネルになる予定

 日本で初めてとなる新幹線は国鉄時代に整備された日本の大動脈「東海道新幹線」。北陸新幹線は、利便性の向上はもとより、この東海道新幹線が南海トラフ地震で影響を受けることを想定して、代替機能の役割で1973年に国が整備を決めました。

 (新幹線建設事務所の担当者※1978年当時)「目標が決まりましたので、できるだけ早く着工にもっていけるように、実施計画、具体的な計画に沿いまして作業を進めていきたいと思っております」

 半世紀近くが経ち、北陸新幹線は福井の敦賀までの開業が目前。そして敦賀から大阪までの延伸については、小浜市付近を通って京都、そして京田辺市を経由して、新大阪を結ぶルートに決まっていて、その8割がトンネルになる見込みです。建設費の約2兆1000億円は税金で賄われ2046年の完成を目指しています。

 この京都を通る計画について、京都の人はどう思っているのでしょうか、街の人に話を聞きました。

 「私は知らなかったですね。20年後となると私も年なので、使うことはないかもしれないですね」
 「はい、聞いています。(Q建設費は2兆円だが?)厳しいですよね、このご時世ですし」
 「いっぺん乗ってみたいね。(Q京都を通ることは?)それは知りませんでした」

新幹線計画の課題や現状の報告会を行う市民グループも

 そんな中、今年9月、市民グループのメンバーらが新幹線計画の抱える課題や現状についての報告会を企画しました。

 (報告会を企画した井崎敦子さん)「計画を知ったら京都の方は自分たちの街をすごく大事に思っている方が多いし、こんなことアカンと皆さんが声を上げるだろうというのはあったんです」
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 (報告会の様子)「(新幹線計画に)問題があるということと、今どうなっているかを簡単にお話したいと思います」

 会では、京都の地下深くを縦断するように新幹線が通ることや、それに伴い現在、京都市内数か所で地質調査が実施されていることなどを報告。メンバーが制作したルート候補地の住民の声を集めた映像などが上映されました。

 (老舗和菓子店)「なぜ京都に、地下を通って新幹線が必要なのかなというのは前から思っていたので。こういう運動が小さいところからだんだん大きくなっていったらすごくうれしいなと」
 (老舗蕎麦店)「お水とともにずっと歴史のあるお商売をさせてもらっているので。通る通らないどちらにせよ、何か一番いい形になれば、未来にとって」

『残土』『地盤に含まれるヒ素』に不安…「地域にとっては負の財産が残る」

 危機感を募らせる人たちは他にもいます。京都府南丹市の美山町に住む長野宇規さん。静かで四季折々の自然が楽しめる美山の生活に魅了され、20年ほど前に家族と移住してきました。長野さんの住む地域は約60人ほどの小さな集落。そこに…。
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 (長野宇規さん)「このあたりが建設可能性地域の真ん中になるんですけれども、ここに巨大なコンクリートの橋脚ができて、頭の上を新幹線が通るイメージ」

 福井の小浜側と京都側のトンネルをまたぐように整備された橋脚を新幹線が駆け抜けるイメージだそう。4年前、鉄道・運輸機構の住民説明会で初めてこうした内容を知らされたといいます。

 (長野宇規さん)「時速260kmで新幹線が出てきてバーンと通っていくみたいなイメージですね。音がすごいと思うんですよね。これは大変だなと」

 実は地域計画の専門家でもある長野さん。今後、工事が進み山を掘れば、多くの残土が出ることになりますが、そこにも不安を感じています。美山町の地盤には、空気に触れると有害な影響を及ぼす可能性のあるヒ素などが含まれていますが、それを処理する場所などが決まっていないというのです。
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 (長野宇規さん)「新幹線が通ると、乗っている人は良かったということになるかもしれませんけれど、地域にとってはずっと負の財産が残るということですよね」

約15年の工事で観光スポットへの打撃を懸念する声も

 工事にかかる期間は約15年。長期間にわたり運搬の大型トラックなど交通量の増加が予想されますが、「かやぶきの里」周辺など町内の道路はどこも道幅が狭く、観光業への打撃は避けられそうにありません。
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 (かやぶきの里保存会 中野忠樹さん)「賛成とか反対とかの前に、うちの村は景観を守ることとそれを活用することで30年やってきたんですけど、全く台無しになるでしょうね。ここの価値が」

 国家プロジェクトとして最終章に入る北陸新幹線。沿線住民の不安や懸念に応える事前の調査と説明が求められます。

2023年10月30日(月)現在の情報です

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