2023年03月27日(月)公開
『皿洗いで食事代タダ』復活!「餃子の王将」名物店長だった"出町のおっちゃん"が新店オープン!「腹が減って寒いのはあしたにつながらへん」
編集部セレクト
『30分間の皿洗いで食事無料』を掲げていた「餃子の王将 出町店」。2020年10月、店長が70歳のときに惜しまれながら閉店しましたが、その店長が今年3月3日に新しく餃子店を開店しました。『皿洗いで食事無料』も復活。なぜ復活したのか?信念を崩さない店主に密着しました。
厨房に立つ“出町のおっちゃん”こと井上定博さん73歳
3月3日、学生の街・京都で愛された“名物餃子店”が2年4か月ぶりに帰ってきました。京都市上京区の出町桝形商店街にオープンした「いのうえの餃子」。
こんがりきつね色に焼きあがった餃子。そして山盛りのごはん。
店先にはこんな張り紙が。
【貼り紙に書かれた内容】
『めし代のない人お腹いっぱいただで食べさせてあげます。但し食後30分間お皿洗いをしていただきます。18歳以上の人で食事に困っている人に限ります』
厨房に立つのは“出町のおっちゃん”こと井上定博さん、73歳。サービス満点、皿洗いで食事代はタダです。
(客)
「昔は近所に住んでいたのでしょっちゅう来ていたんですけど、懐かしいなと思ってオープンの日に来ちゃったという感じですね」
「ほんまに久しぶりや。あの人の顔見ながらね、餃子食べるのがごちそうなんですよ」
「金のない人、腹減らして待っとる人をタダで食わすためにこの店を始めた」
オープン4日前の2月27日に店を訪ねると、井上さんは開店準備に追われていました。新しい店はカウンター10席のみ。商店街の空き店舗を改装した小さなお店です。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「この店は儲けるためではないねん。金のない人、腹減らして待っとる人をタダで食わすためにこの店を始めた。(Qなぜお金のない人に食べさせたいと思った?)それは僕がよく言う順繰りやね。昔、僕にそういうことをしてくれはった人がいた」
井上さんは20代のころ、妻と駆け落ち。金銭面に苦労する若い夫婦に職場の仲間がすきやきをごちそうしてくれたことが今でも忘れられないといいます。
井上さんは受けた恩を若い人たちへつなごうと、店長を務めていた「餃子の王将 出町店」で『皿洗いで食事無料』を始めました。
70歳でフランチャイズオーナーだった出町店を閉めるまで約40年間続き、多くの苦学生らを満腹にしてきました。
しかしリタイア後、不安定な社会で苦しむ若者が増えていることを知り、再び厨房に立つことを決めたのです。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「腹が減って寒いのは絶対あしたにつながらへん。寒くてもここに来ておっさんにタダで山盛り食わせてもらったら、あしたもやろうかという気分になるねん。俺ほんま構いやねん。家族は大反対。去年の6月から妻と会っていないんですよ、商売すると言ったら。腹すかしている学生がおる、金もない人もおる、これを助けるほうが、こっち(店)のほうが重たい。そやからこっちをとったんや」
大病を患うなど体調を心配する家族は反対。それでも信念を貫きます。
オープン前日 焼きたての餃子を持って外へ…向かった先は?
オープン前日の3月2日、餃子の試し焼きをします。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「これが『いのうえの餃子』や。ほら、めっちゃうまそうや。俺、餃子の焼き方うまい。料理下手」
準備を手伝う王将時代の常連客と一緒に試食します。
(準備を手伝う人)
「前のお店のときによく洗い物をさせてもらっていた。20代のときにおっちゃんにめっちゃ助けてもらっていたので、30代になってやっとちょっと余裕もでてきたので、じゃあ今度は恩返ししたいなと思って」
突然、焼きたての餃子を持って店を飛びだした井上さん。開店のあいさつも兼ねて、商店街の店に餃子を振る舞います。
(井上さん)「みんなで食べといてな」
新しい店は、70歳で閉めた王将の店舗から近く、顔なじみも多いのです。
(商店街の店)「いただいていいんですか?ありがとうございます」
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「みんな仲良くしたらな。おいしいやろ」
店の外には“復活”を待ちわびた人たちの行列
いよいよ開店当日。2年4か月ぶりに客を迎えます。店には初日の忙しさを見越して、王将時代の仕事仲間や常連客が手伝いに来ていました。
(手伝いに来た人)「ようひとりで頑張ったな、ここまでいろいろ」
(井上さん)「ここまで来たらそんなん言うてられへん」
(手伝いに来た人)「から揚げもやるんですか?」
(井上さん)「うん、頼むで」
午前11時、オープン。店の外には復活を待ちわびた人たちが並んでいました。店に入るお客さんたちは次々に「おめでとうございます」と声をかけます。
(客)「餃子2人前の餃子定食、ごはん大盛で」
(井上さん)「ギョー定大」
メニューは、餃子1人前が270円、ごはん・鶏のから揚げ・スープが付く餃子定食は700円(※餃子1人前の場合 2人前は900円)など6種類。ごはんは大盛りでも同じ値段です。
(客)
「優しいよね。ごはんの盛りみたいなもんやね。うちはケチちゃうぞとさっきから言うてはるし」
「おいしいです。おじさんの優しさを感じます。またあしたも頑張ろうと思える」
客足は途絶えることはなく、商店街を歩く人も店の様子をうかがいます。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「なんか浦島太郎。2年4か月ぶりに世の中に出てきたからちょっと焦っている」
「皿洗い」に手を挙げた学生 まるでスタッフの一員に
開店から1時間半が過ぎたころ、助っ人でずっと皿洗いをしていた74歳の「ノブちゃん」こと佐藤のぶ代さんが声を上げました。
(ノブちゃん)「お皿洗いの子、誰かタダで食べたい人いたら言ってや。ばあちゃん疲れた。ばあちゃんバテてんで」
(井上さん)「おばちゃんもうバテているから」
(客)「すみません、皿洗い」
(ノブちゃん)「お、すごい。初?」
(客)「初です。前の店でもしたことがない」
手を挙げたのは、王将時代から店に通っていた京都府立医大6年の加覽浩太郎さん(25)。加覽さんは鹿児島県出身。6年間の学生生活を送り、4月からは研修医として働く予定です。
(井上さん)「兄ちゃん、ごはんもっと食べるか。皿洗ってくれるんやろ、もっと入れたろか」
(加覽さん)「これで…」
(井上さん)「もういらんの」
(加覽さん)「大丈夫です。ありがとうございます」
井上さん、皿洗いをしてくれる学生を放っておけません。
食べ終わり、皿洗いへ向かう加覽さん。
(ノブちゃん)「加覽くんちょっとな、手を洗ってお冷やをひとつ入れてちょうだい。人使い荒いからな、ばあちゃんは」
(別の助っ人)「洗いものだけって書いているで」
(ノブちゃん)「本当やな」
なんだかスタッフの一員になったよう…。加覽さんも満足そうです。
(加覽浩太郎さん)
「いやもう、はやくやらないと、どんどん皿がいっぱいになっちゃうので。ちょっとでも皿洗いで恩返しになったかどうかわからないですけど、ちょっとでもマスターの気持ちに参加できたのならいいなと思って、これからも通い続けます」
その後も、井上さんは休む間もなく餃子を作り続けます。
「みんな助け合って世の中明るくな」
小さな店は復活を喜ぶ客で溢れ、日が暮れても行列が続きます。そして午後8時、初日の営業が終わりました。
(いのうえの餃子 井上定博さん)
「うれしかった。みんな『おっちゃん、おっちゃん』言ってくれたし。相手を思うことしているとお客さんも僕のことを思ってくれてはるし、みんな助け合いなんや。助け合って世の中明るくな」
「皿洗いで食事無料」。73歳、出町のおっちゃんは厨房から世の中を見つめます。
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