2023年03月03日(金)公開
クジラの魔力「なんで一生懸命に...でも好きなんだねぇ」熱血仕掛人オススメ!クジラの"ひだ"のこーんなにふくれるところ...はどんな味?記者が食べてみると
編集部セレクト
日本で古くから食べられてきたクジラ肉。「学校給食でよく食べた」という世代の方もいるのではないでしょうか。商業捕鯨が再開されて約4年、捕鯨から卸し売りまでを行う、クジラ肉に魅せられた熱血仕掛人を取材しました。
クジラ肉の無人販売所が大阪に!その仕掛け人は?
今年2月16日、大阪駅近くのビルの一角に関西初の無人販売所がオープンしました。その名も「くじらストア」。
(記者リポート)
「クジラのお刺身であったり、ベーコンや竜田揚げといった定番商品が売られています」
冷凍された生肉や、缶詰、レトルトのカレーなど、スーパーでは滅多にお目にかかれないクジラの肉を自動販売機で24時間いつでも買うことができます。
(訪れた人)
「ベーコン切り落とし(を買った)。今日うわさを聞いて勇んでやってきました」
「クジラで育った人間だから珍しいなあと思って。いいんじゃないの」
クジラ型の帽子にクジラが描かれた法被。仕掛け人である「共同船舶」の所英樹社長です。クジラの魅力を広げたいと出店したということですが、そのイチオシは?
(共同船舶 所英樹社長)
「やっぱりあごの部分。肉と脂がまじっているんですけれども、その『鹿の子』という部分が、しゃぶしゃぶでさらさらっとやると非常においしいですよ」
捕鯨から卸し売りまで担う、知る人ぞ知る有名人
そんな所さんの会社は東京にあります。
(共同船舶 所英樹社長)
「会社に常駐しているのは20名くらいじゃないですかね。漁は今年は5月、連休明けで出港しますから」
会社では捕鯨からクジラ肉の加工・卸し売りまでを一手に担い、全国約250もの流通業者と取引をしています。
そのため保冷庫にはクジラの肉の塊がゴロゴロ。畝須(うねす)という部位の肉を見せてもらいました。
(共同船舶 所英樹社長)
「ベーコンになるところですね。こう切って、ベーコン」
ほかにも…。
(所英樹社長)「皮ですね」
(記者)「ごついですね」
実は所さんは業界では知る人ぞ知る有名人で、その出で立ちにもこだわりが光ります。
(共同船舶 所英樹社長)
「マッコウクジラの歯で作ったタイピンでしょ。ネクタイはクジラがプールで競走している」
クジラの話になると止まらない…「クジラって魔力がある」
そんなクジラ一色の所さんですが、社長になったのはわずか3年前。会社は赤字経営が続いていて、当時コンサルティング会社にいた所さんに立て直してほしいと声がかかったことがきっかけでした。
社長に就任以来、所さん自身もクジラ肉にどっぷりハマり、今では週3回は食べているといいます。所さんと大阪市北区の「新・どおぞの」を訪れると、出てきたのは色鮮やかなお刺身。
(共同船舶 所英樹社長)
「きれいでしょ、ほらこれこれ。これ尾の身ですね。尾っぽの動くところはクジラってね、周り全部脂。中は全部筋肉なんですよ。よく動くところは、筋肉もあるしサシも入る」
見た目ほど脂っぽさはなく栄養価が高いことも魅力のひとつだといいます。
(共同船舶 所英樹社長)
「(Q飽きない?)飽きないですよ、これ。脂がやっぱり、やわらかい脂、オメガ3ですから。なんでオメガ3がいいかって知ってる?」
クジラの話になると尽きることはありません。
(共同船舶 所英樹社長)
「クジラって魔力がある。やり始めると、とことん入っていっちゃう。なんでこんなに一生懸命やってんのかなって思うことがあるよ。でも好きなんだね」
日本ではかつて“庶民の味方”として親しまれてきた
所さんがのめりこむクジラの世界。長い歴史の中で逆風を受けた時代もありました。いくつもの船が大きなクジラをとらえる瞬間を描いた絵巻。江戸時代に描かれたとされる作品「紀州太地浦鯨大漁之図鯨全體之図(太地町立くじらの博物館所蔵)」です。
日本では古くから捕鯨文化が受け継がれ、かつては牛肉や豚肉より安価で、庶民の味方として親しまれてきました。
しかし世界的な反捕鯨運動の高まりを受けて日本は商業捕鯨を一時停止。その後、IWC(国際捕鯨委員会)からの脱退を機に、4年前から捕獲枠を設けて再開しました。
業者向け試食会で用意した“変わりダネ”とは?
これをチャンスととらえた所さんらは去年10月に行動に出ます。大阪では実に35年ぶりとなったニタリクジラの生肉の水揚げを大々的にPRして、クジラを食べてもらう機会を増やそうと動き出したのです。
そして今年2月。所さんの姿が再び大阪にありました。飲食店や販売業者にクジラの魅力を知ってもらおうと試食・商談会を開催したのです。
生肉のお寿司に、マグロユッケならぬクジラユッケ。ほかにも、業界初だという「クジラ肉100%ソーセージ」などを用意しました。
次のような“変わりダネ”も。
(共同船舶 所英樹社長)
「これは畝須という部位。畝須っていうのはクジラの“ひだ”になって海水と一緒に魚を飲み込んだ時にこーんなにふくれるところですね。今まではベーコンにするしか使いようがなかったんですけど、これを中華料理屋さんに頼んで角煮にしてもらいました」
そのお味は?記者が試食させていただきました。
(記者)「脂っこくなくて、でもトロトロ。なんでしょう、牛すじみたいな感じ」
(所英樹社長)「コラーゲンみたいなものですね」
参加者もこれまであまり知らなかったクジラ肉の可能性に興味津々です。
(来場者)
「飲食店をやっているんですけど、(クジラを)なかなか触る機会がないので。そんな一般には広まっていないと思うので、先駆けてやっていけたらいいかなと」
「クジラを扱うことになって、僕も全く無知なので、ちょっといろいろ勉強しようかと。鍋セットみたいなものを置いているところもあったので、ああやってちょっと薄くスライスしてパックすれば結構食べやすいのかなみたいな」
反応はまずまず。所さんも手応えを感じたようです。
(共同船舶 所英樹社長)
「食いつきがいいっていうんですかね。(東京と)全然熱量が違う。新しい飲食店の方にどうやってクジラの業界に参入していただくか、そこが大きなポイントだったので、その目的は十分に果たしたと思います。大変期待しています」
海外からの旅行者にもクジラ肉を広めたい!
その翌日。この勢いをさらなる需要につなげるため、所さんはもうひとつイベントを仕掛けていました。場所は大阪市西区の老舗クジラ料理店「むらさき」。参加していたのは旅行代理店の企画担当者です。
(アメリカ人)
「インバウンドの旅行会社で、アメリカ・オーストラリア・イギリスなどの英語圏のツアーを行っております」
(韓国人)
「中国のインバウンドをメインに、韓国も東南アジアもやっております」
次なるターゲットは海外から来る旅行者。インバウンドツアーにクジラ料理を盛り込んでもらい、新たな顧客層の取り込みを図ろうと考えたのです。
(韓国人)
「肉みたいな感じでとてもおいしい」
(タイ人)
「体が大きいからにおいがきついと思っていたけれど、そんなことはなく食べやすいと感じました」
「業界全体がぐーっと盛り上がることをできれば」
あの手この手でクジラ肉の可能性を探る所さん。2年後の大阪・関西万博をひとつの目標に市場の開拓を進めたいといいます。
(共同船舶 所英樹社長)
「クジラをアピールすることが極めて重要。業界全体がぐーっと盛り上がることをできればと思っています。おそらくすぐできると思います」
所さんの挑戦は始まったばかりですが、クジラ肉がより身近な存在になる日もそう遠くないのかもしれません。
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