東京2020延期でアスリートの本音とは?7人制ラグビー代表 松井千士

MBSラグビーダイアリー

2020/04/08 19:00

新型コロナウイルスの影響で東京2020オリンピックの延期が決定。SNS上ではポジティブな発信をするアスリートが多くいるが、オリンピック候補選手の本音とは?7人制ラグビー日本代表でキャプテンを務める松井千士(25)に現在の心境を聞くべく電話取材を行った。

延期決定に戸惑い。「正直、難しいところがありました。」
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2020年3月24日に発表された東京2020オリンピック延期のニュース。その知らせを松井が知ったのは代表合宿中だった。

「初めは気持ちの整理がつかず。2年間、日本代表で厳しい合宿をしてきたので正直、すぐにあと1年間頑張ろうとはなりませんでした。延期が決まって岩渕ヘッドコーチと話をして、選手のメンタルが大事なのでまずは心身ともにリフレッシュをして欲しいと。残念ですけど、自分でコントロールできない範囲なので1年後に切り替えるしかないと今は思っています。」

延期が発表された直後、松井はTwitterに「2020年にやろうが2021年にやろうが日本がメダルを獲る結果は変わらん」とポジティブなメッセージをファンへ発信した。もちろん本心からの投稿だったというが、自分に言い聞かせる意味もあったのだろう。今は代表合宿も中止となり、1カ月間のオフ期間中。心の整理をしながら2021年に向かっている。

「オリンピックに出たい気持ちが強いです。出場できない方が後で後悔すると思います。」
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高校時代、大阪の常翔学園で日本一に貢献。同志社大学に進学後は50m5.8秒の俊足を買われ、2年時にセブンズ日本代表に選出された。そして、リオオリンピックの最終アジア予選では9トライでトライ王。当時、女性誌やテレビなどで「イケメン大学生アスリート」として注目を浴びた松井に期待するファンも多かっただろう。しかし、結果は最終登録メンバーの12人に入れず、怪我人が出た時の補欠としてブラジルへ向かうことになった。結局、オリンピック出場の夢は叶わず、日本のベスト4入りをスタンドから見届けた。

「日本をもちろん応援していましたが、心の底からはできなかった。アスリートとして、試合は観るものではないと感じました。」

リオオリンピック後、大学に戻った松井は腑抜けの殻だったようにみえた。ラグビーに集中できず、体も劇的に細くなっていた。自分の人生をかけた挑戦であるから当たり前なのかもしれないが、すぐに切り替えることが出来なかったのだろう。しかし、この経験から学べたことは多かったようだ。

「大学時代も努力はしていました。しかし、当時はチーム最年少で個人のパフォーマンスを見せることに必死。今思うとチームのために発言することはなかったです。自分に自信もないからミスを恐れて発言できない。今は、間違っていることもあると思うが仲間に意見を伝えることを意識しています。」

心機一転。挫折から大きく成長した松井は、チーム事情もあり2019年11月にキャプテンを任された。キャプテンを務める柄ではないと言うが、約1年後のオリンピックに向けて松井流の方法でチームをまとめていくと意気込んでいる。

「リオで最年少だった僕がキャプテンをやることを、ずっとセブンズ代表を引っ張ってきた選手はどう思っているのか。どうチームをまとめるのか悩む部分がたくさんありました。でも今は、延期をプラスに捉えて経験ある選手に頼りながら、みんなを巻き込みながらチームを作っていきたいと思っています。仲間に認められるように頑張ります。」

1年後に開催予定の東京2020オリンピックでの目標とは
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「メダルを獲得することです。4年前のリオオリンピックは、強豪・ニュージーランドに勝ってベスト4に入りました。しかし、日本でセブンズが有名になったかと言われるとそうではなかった。やはり、メダルを獲得することが認知に繋がると強く思いましたので。」

たしかに、北京オリンピックでは太田雄貴が銀メダルを獲得してフェンシングが一気に話題に。リオオリンピックでは羽根田卓也が銅メダルを獲得してカヌー界が盛り上がった。オリンピックでメダルと獲得するとマイナースポーツの認知度が格段にあがる。しかし、今のセブンズは下部チームの大会でこそ優勝したが、トップの国が参戦するワールドシリーズでは、直近5大会で16カ国中14位以下ばかり。厳しい質問だが「メダル獲得に日本が必要なこと」も聞いた。

「やるからには目標は高くと思っています。かといって、口だけではない姿を見せたい。セブンズは身体能力の差が大きく影響する競技なので、スピード、スキル、フィジカルなど個の強さを全員が上げていくことが必要だと思います。そこをごまかしては勝てません。そのために自分は、週5で1対1のブレイクダウンスキルを磨いています。今は新型コロナウイルスの影響で個人練習が続いていますが、世界で打ち勝つレベルに必ずします。」

新型コロナウイルスの影響で緊急の電話取材ではあったが、力強く宣言した言葉には覚悟がにじみ出ていた。今年、セブンズ日本代表が躍動する姿を見ることが出来ないのは残念だが、1年後にその楽しみはとっておきたいと思う。

「世の中は今ネガティブな状況だが、新型コロナウイルスが終息した時に行われるオリンピックの価値はあがると思います。日本だけでなく世界も注目する大会で勇気や感動を与えられるように、今から出来ることを取り組んでいきます。」

文:進藤佑基

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