Vol.49 死闘 ~柔道 五輪代表決定戦~

マニアックでメカニカルそしてMBS的なMなスポーツ

2020/12/25 09:36

12月13日、日本の柔道史に残る一戦が行われた。男子66キロ級、丸山城志郎選手と阿部一二三選手による、たった1試合の五輪代表決定戦。勝ったほうが東京オリンピックの切符を手にする、文字どおりの一発勝負だ。これまで、柔道の五輪代表は、五輪本番での実力発揮を考慮して、複数の試合を参考に決められてきた。世界選手権やグランドスラム大会といった世界の強豪がそろうトーナメントを勝ち抜く力を評価されて、代表の座を勝ち取ってきたのだ。事実、男子66キロ級以外の階級は、複数の試合を経て、すでに代表選手が決定している。ところが男子66キロ級の丸山、阿部両氏は、甲乙つけがたい世界を狙える逸材な上、柔道連盟が最後の舞台と設定していた全日本選抜体重別選手権が、コロナ禍の影響で中止。異例中の異例、1試合で決着という、かつてない舞台が用意されることになった。通常ならば、数試合を勝ち抜いたトーナメントの決勝で激突する両雄。ただ、この試合は、体力的にも余裕のあるいきなりの対戦、試合開始から、予想どおりの力のこもった展開になる。

 「勝ちたい」と「絶対に負けるわけにはいかない」
12月13日、日本の柔道史に残る一戦が行われた。男子66キロ級、丸山城志郎選手と阿部一二三選手による、たった1試合の五輪代表決定戦。勝ったほうが東京オリンピックの切符を手にする、文字どおりの一発勝負だ。

 これまで、柔道の代表決定は、五輪本番での実力発揮を考慮して、複数の試合を参考に決められてきた。世界選手権やグランドスラム大会といった世界の強豪がそろうトーナメントを勝ち抜く力を評価されて、代表の座を勝ち取ってきたのだ。事実、男子66キロ級以外の階級は、複数の試合を経て、すでに代表選手が決定している。

 ならば、どういう経緯でこの試合に到ったのか? 両者が甲乙つけがたい世界を狙える逸材なことも確かだが、追い込まれた方が、ここ一番で逆鏡を跳ね返してきた印象が強い。最初に代表に近づいたのは阿部選手。2017、18年と世界選手権を連破。2019年の大会で結果を残せば、「代表間違いなし」というところまでこぎつける。しかし、支援企業の新年会で、「ここからは、ひとつの試合も負けるわけにはいかない」と悲壮な覚悟で臨んだ丸山選手が、前年の大阪での大会に続いて世界選手権で阿部選手を撃破。逆に、年末のグランドスラム大会に「勝てば代表決定」と王手をかける。

 ところが、この舞台では、延長戦の上、阿部選手が劇的勝利。勢いに乗った阿部選手は、丸山選手が故障で欠場した年明けのグランドスラム大会でも優勝。「勝てば代表決定」の相手を「絶対に負けるわけにはいかない」選手が逆転する形で、両者が対等の立場となった。

 さらには、柔道連盟が最後の舞台と設定していた全日本選抜体重別選手権が、コロナ禍の影響で中止。異例中の異例、1試合で決着という、かつてない舞台が用意されることになった。通常ならば、数試合を勝ち抜いたトーナメントの決勝で激突する両雄。ただ、この試合は、体力的にも余裕のあるいきなりの対戦、試合開始から、予想どおりの力のこもった展開になる。

 規定の4分間はあっという間に過ぎ去り、延長戦に突入する。延長戦序盤は、阿部選手が攻勢。「勝ちたい」気持ちを前面に積極的に攻撃を仕掛けていく。一方、「負けるわけにはいかない」丸山選手は、試合が進むにつれて徐々にペースをつかんでいく。阿部選手の攻撃を冷静に受け止めて対応、延長戦も10分を過ぎたあたりから、パワーが持ち味の阿部選手に疲れが見え始め、丸山選手のチャンスの場面が増えてくる。それでも、攻め続ける阿部選手、虎視眈々とチャンスヲ伺う丸山選手、両者がギリギリのところで跳ね返していく緊張感の中、いつ終わるかわからない戦いが続いていく。

 まさに死闘、体力、握力も限界に近づいた延長20分過ぎ、最後の最後まで攻め続けた阿部一二三選手、渾身の大内刈りが決まって、長い長い戦いについに終止符が打たれた。畳を降りた瞬間、仲間と抱き合って号泣した阿部選手。悔しさをにじませながらも、柔道家らしく、礼節をもって道場をあとにした丸山城志郎選手。全日本の井上康生監督が「かなうならば、五輪の本番で、2人を戦わせてあげたかった」、と語った大一番。想像を絶する努力を積み重ねてきたアスリートたちの東京オリンピックへの熱い思いと、来るべき年に向けてスポーツの持つ力を、あらためて信じさせてくれる名勝負だった。

MBSスポーツ局解説委員 宮前 徳弘

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook