BLOG京ノ旅手帖2019.11.26

京菓子の職人技を間近で見られる!鶴屋吉信本店の菓遊茶屋

By西垣 愛佳

秋といえばやはり紅葉!永観堂、東福寺、北野天満宮…赤いじゅうたんを敷いたような神秘的な風景が見られる神社仏閣やスポットが、京都には数多くありますよね。でも、京都の秋の魅力はそれだけにとどまりません。今回は、京都ならではのちょっと雅!?な季節の感じ方をご紹介します。

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私の"推し"和菓子屋さん「鶴屋吉信」へ

向かったのは紅葉スポット...ではなく、私が普段からよく足を運ぶ和菓子店「鶴屋吉信」本店。「西陣織」でも有名な西陣エリアに本店を構えます。1803年に初代鶴屋伊兵衛が創業してから、京都の和菓子文化を支えてきました。

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ショーケースに並ぶお菓子にわくわく

正面からはいると、ショーケースに整然と美しくお菓子が並びます。あれもこれも食べてみたい...という気持ちを我慢しながら、まずは今日の目的、2階の「菓遊茶屋」へ。ここ鶴屋吉信本店の菓遊茶屋では、和菓子職人さんが目の前で生菓子を作ってもらえるという、最高に贅沢な体験ができるのです。

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春の生菓子「里桜」

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夏の生菓子「あじさいきんとん」

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秋の生菓子「嵯峨野」

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冬の生菓子「吉祥椿」

季節を映す、京菓子

" 京都ならではの秋の感じ方"...それはずばり、京菓子のこと!京都で作られる生菓子=京菓子には、季節の移ろいが鮮明に描き出されます。春には、桜の咲く春の山、初夏には紫陽花、冬には椿...。かつて日本の中心、都であった京都。和菓子は朝廷や貴族文化や、神社や寺の祭事・慣例などの影響を受けつつ、職人たちの手によって、その文化が豊かに育まれてきました。
京都には長きにわたってのれんを守り続ける老舗が多くあり、人々の間にも菓子文化が根付いています。それぞれ家庭ごとに贔屓にしている和菓子店があるのだとか。かくいう私も、よく行く和菓子店が何軒かあったりして...。生粋の京都人じゃなくても、京都在住であれば、その魅力にはまる人も多いはずです。

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お菓子を作ってくださるのは、この道37年にもなるという職人・水江 政彦(みずえ まさひこ)さん。朱色や黄色のきんとんを紅葉した山に見立てた「錦繍(きんしゅう)」と、紫色の菊で秋を表現した「鞠菊(まりぎく)」を作ってもらいます。

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職人技をこんなに近くで

「はい、作りますね~」と、水江さん。思わず身を乗り出して見てしまいます。一つ一つ説明はしながらも、その鮮やかさを保つため、出来上がるまでにかける時間は23分!あっという間で、驚いてしまいました。工場では、1日平均1500以上は生菓子を作るそう。普段はもっと早く作業されるそうで、「こんな速度でやってたら、遅くて怒られます」と、にこやかです。

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鮮やかなきんとん「錦繍(きんしゅう)」

美しい紅葉や花を表す錦繍という名前を冠するこちらのお菓子、まるで紅葉真っ只中の山のよう。あんを裏ごしして、とおしという道具でこしてそぼろ状にし、丸めた粒あんにつけていく「きんとん」という種類のお菓子です。お正月におせちに入る「栗きんとん」という料理がありますが、京都では普通「きんとん」といえば生菓子の方を指すので、「茶巾(ちゃきん)」と呼んで区別するのだそう。料理よりも和菓子の名前がメジャーだなんて...なんとも京都らしいですよね。

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可憐な見た目に惚れ惚れ「鞠菊(まりぎく)」

その名の通り鞠のようにまん丸な鞠菊も、コロンとして実に愛らしい!「こなし」という、白あんに小麦粉や餅粉を合わせ、蒸して生地を作る和菓子で、中には白あんが入ります。菊の花びらは、一つ一つへらでつけていきます。最初から最後まで、途切れることなく手首で曲線を描き、ぴたっと始まりに返ってくる...!まさに職人技です。菊は、季節を反映しやすく、京菓子によく用いられるモチーフのひとつなのだそうです。

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和菓子ってどうやって食べるの?

生菓子をいただく時って、作法とかあるのかな...?水江さんに聞いてみると、「このような場では細かいルールは特にないけれど、4分の1に割って食べるのが一番美しく、食べやすい」とのこと。細かく割ってしまうと、崩れてしまって食べにくいのです。また、甘いお菓子を先に味わって、その余韻を感じながら、お薄をいただくと良いそうです。

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出来たてをいただきます

生菓子の食べ方も分かったところで、ついに至福の時を迎えます。作っていただいた2種のうち、私は錦繍をいただきました。口に入れると、粒あんとそぼろ状のあんがほろりとほどけ、優しい甘さが広がります。「ほうっ...」と吐息が漏れてしまうほどに、上品な味わい...。
私が鶴屋吉信さんを好きな理由は、やはりこのあんこ!粒感がしっかりと残っているのは、丹波産と北海道産の2種の小豆を混ぜて、手間暇かけて炊き上げるから。砂糖も、特別に精製したものを使っているそうです。さすがすぎる老舗の味わいに、感動しっぱなしでした。一連の体験と生菓子(通常は2種から1種選択)・お抹茶を合わせて1210円(税込)です。

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喫茶も素敵

菓遊茶屋の奥には、通常の喫茶スペース・お休み処も。おしるこやあんみつなど、さまざまなメニューが揃います。大通りに面しているとは思えない、静かな空間。中庭も素敵で、なんだかとっても心が落ち着きます。

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季節の商品も見逃せない!

移り行く季節を感じられるのは、生菓子だけ?そんなことはありません。生菓子以外でも、味はもちろん、パッケージにも秋らしさを感じるのが鶴屋吉信のお菓子の魅力。1階の販売スペースも必見です。限定もの好きとしては「本店限定」なんていうのも見逃せない...!ご自身で生菓子を味わった後は、友人や家族にも秋をおすそ分けしませんか?

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■ 鶴屋吉信 本店

京都市上京区今出川通堀川西入る
京都市バス「堀川今出川」から徒歩すぐ
075-441-0105
物販:9時~18時
菓遊茶屋・お休み処:9時30分~17時30分(LO17時)

まだまだ秋を感じたい方に

秋らしい素敵な京菓子をまだまだご紹介!違う和菓子店のものを何軒分か買って、食べ比べてみるのも良いかもしれません。

上七軒の和菓子といえばここ「老松 北野店」

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京都で最古の花街として知られる上七軒のほど近くに店を構える「老松 北野店」。創業から110年以上、丁寧に京菓子を作っています。トラディショナルなお菓子を変わらず作り続ける姿勢に、老舗の風格が漂います。

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紅葉をかたどったかわいい逸品

11月限定の「高尾」432円(税込)は、こなしであんを包んだ京菓子。朱と黄のグラデーションがなんとも秋らしく、はらりと落ちた紅葉のようで可愛らしい。紅葉や枯れ葉をかたどったお干菓子の詰め合わせ「吹き寄せ」1512円(税込)は、優しい口溶けが魅力です。

■老松 北野店

京都市上京区社家長屋町675-2
嵐電(京福)北野線「北野白梅町」から徒歩11分、または市バス「北野天満宮」から徒歩6分
075-463-3050
9時~18時

祇園で京菓子を楽しみたいなら「鍵善良房」

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八坂神社や建仁寺からもほど近い、祇園エリアにある和菓子店「鍵善良房 四条本店」。現当主は15代目、なんと創業から300年以上にもなるそう。祇園は昔からある花街のひとつ。お茶屋は料理を作らず、料理は料亭から、お菓子は和菓子屋から取り寄せる、という仕出しの習慣があります。その仕出し文化とともに歴史を歩んできました。

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色づいた秋の山を表した京菓子

「鶴屋吉信」でも登場したきんとんのお菓子「錦秋」380円(税込)。紅葉で美しく色づいた山々を表現しています。同じきんとんでも、なんとなく店ごとに色や雰囲気が違う...こんな違いを見つけるのも、京菓子の楽しみのひとつかもしれません。併設の喫茶スペースでもいただけます。

■鍵善良房

京都市東山区祇園町北側264
京阪本線「祇園四条」から徒歩3分
075-561-1818
物販:9~17時
喫茶:9時30分~18時(LO 17時45分)

京都の菓子文化に触れて

京都には美しく季節を表した京菓子がたくさん。今回は秋のお菓子をご紹介しましたが、春夏秋冬どの季節でも楽しめるのが、和菓子の良いところ。せっかく京都に来たのなら、季節を見て、味わって、感じてみてください。

ライター
西垣 愛佳 にしがき あいか

京都の編集プロダクションエディットプラス所属のライター。おいしいも のを求めて散歩するのが週末の楽しみ。最近は御朱印集めにはまっていて、 梨木神社でいただいた御朱印がお気に入り。

カメラマン
マツダナオキ まつだ なおき

京都の街に魅せられて移住してきた、京都歴8年のカメラマン。料理、人物、建築等ジャンルを問わず撮影する。コーヒーが好きで、カフェによく行く。