BLOG京ノ旅手帖2021.05.28

伊藤若冲らとゆかりの寺、相国寺との関係は?彼らの交流の軌跡をたどる

 多くの絵師たちが腕を振るった18世紀、京都。伊藤若冲、円山応挙、池大雅など、今や誰もが知る絵師たちが画壇を彩りました。

 そんな彼らと深い関わりをもつ、相国寺。敷地内にある承天閣美術館では現在、伊藤若冲ら絵師たちと、相国寺の僧侶との交流の軌跡をたどる展覧会「若冲と近世絵画」を開催中です。

承天閣美術館の公式HPはこちら

なぜ絵師と寺院には交流があったのか

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 古くから寺院は文化芸術の発信地であり、人々の交流の場でもありました。相国寺の第113世住持(住職のこと)だった梅荘顕常(ばいそうけんじょう、大典禅師ともいわれる)は、京の絵師たちや文化人らを支援していた僧侶です。自身も「学僧」という学問に優れた僧で、水墨画などの芸術にも長けていました。

 その梅荘顕常がいち早く才能を見出したのが、伊藤若冲でした。現在の錦市場にあった青物問屋「桝屋」の当主として家業に励む傍ら、絵を描くことに夢中だった若冲。梅荘顕常はさまざまな面で彼の援助をしながら、その成長を見続けました。「若冲」という画号も和尚の命名であると言われています。

 若冲もまた梅荘顕常を師と仰ぐほど慕い、和尚から禅の教えを学ぶとともに、大寺院が所蔵する中国絵画を模写する機会にも恵まれながらその腕を磨きました。

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「厖児戯帚図(ぼうじぎほうず)」(右)は若冲初期の作。ほうきと戯れる仔犬は、犬に仏性(ぶっしょう)があるか、という禅の問いに由来する。「仏性」とはすべての生き物が生まれながらにしてもっている、仏となることのできる性質のこと。

 第1章「伊藤若冲と相国寺」では、相国寺派寺院に伝来する多くの作品から、梅荘顕常と若冲との親交をうかがうことができます。

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黄檗宗の僧で、煎茶の中興の祖とも称された売茶翁高遊外(ばいさおうこうゆうがい、右)。梅荘顕常と親しく、彼もまた若冲や池大雅らに大きな影響を与えた。

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相国寺の塔頭、瑞春院に伝わる、梅荘顕常がしたためた書物は本展初公開。「小雲棲手簡(しょううんせいしゅかん)」には、和尚が若冲からお中元にそうめんをもらった時のエピソードも記されている。若冲はそうめんが好物だったようだ。

災害からの寺院復興が絵師たちの活躍の場ともなった

 その相国寺も、京都に大きな爪痕を残した天明の大火(1788年)で大きな痛手を負います。伽藍の大部分が焼き尽くされ、再建を余儀なくされました。そこで活躍したのが、原在中ら京の絵師たちでした。

 第2章では、在中が手がけ再建された相国寺方丈(住持の居室のこと)の杉戸絵や、天明の大火後について詳細に記された書物などの関連資料が展示されています。

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会場では全36面の杉戸絵のうち、4面を展示。原在中はこのほかに室内の襖絵なども担当した。

金閣寺大書院障壁画50面をすべて展示。若冲、応挙らの大作が展示室の壁を埋め尽くす

 伊藤若冲は若い頃から梅荘顕常と親交があったため、鹿苑寺(金閣寺)や慈照寺(銀閣寺)など相国寺の塔頭寺院にも若冲の作品や彼にまつわる遺品が残っています。 第3章では若冲が描いた鹿苑寺大書院の障壁画を常設展示の15面に加え、今回、50面すべて展示しています。

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当時、若冲は44歳。絵師の世界では若く無名だった彼を梅荘顕常が推薦し、大抜擢された。

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常設展示もされている「葡萄小禽図(ぶどうしょうきんず)」は、最も格式の高い「一之間」を飾る。葡萄は旺盛な生命力で四方へつるを広げ、さらに多くの実が集まって房となることから、多産、豊穣の象徴として古くから好まれてきた。

 さらに第4章では、若冲と同時代を生きた絵師たちによる作品を展示。与謝蕪村による慈照寺の障壁画や、人の七難七福をリアルに描写した円山応挙の名作「七難七福図巻」、全長約4メートルの「大瀑布図」(Ⅰ期展示)など、大作が壁一面に並びます。

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名作、大作が壁を埋める非常に贅沢な空間となっている

 約半年にわたり開催される本展。会期はⅠ期とⅡ期に分かれ、一部展示替えも行われます。 季節の移り変わりとともに、何度も足を運んでみてはいかがでしょうか。

館内上映ビデオ「若冲 相国寺と伊藤若冲」

 相国寺承天閣美術館の館内で上映されている「若冲 相国寺と伊藤若冲」は、伊藤若冲の生涯や時代背景、そして相国寺派寺院との深い関わりについて知ることができるビデオプログラム(約11分)です。
今回、 相国寺承天閣美術館のご協力により、企画展の開催にあわせてこのページで動画を公開することになりました。展覧会を見に行く前の"予習"、あるいは見終わってからの"復習"としてご覧ください。

<「若冲と近世絵画」開催概要>

会期:Ⅰ期:2021年7月25日(日)まで・Ⅱ期:2021年8月1日(日)~10月24日(日)
会場:相国寺承天閣美術館(京都市上京区今出川通烏丸東入)
https://www.shokoku-ji.jp/museum/
休館日:会期中無休(ただし、7月26日(月)~7月31日(土)は展示替え休館)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
観覧料(当日券):一般800円、65歳以上・大学生600円、中高生300円、小学生200円