初夏の京都に登場する、あの三角形のお菓子は...?
6月になると京都でよく見る、どこか涼しげなあの三角の和菓子。「これって何だろう...?」。京都在住でなければ、初めて見る方も多いかもしれませんね。今回はそんな"あの三角の和菓子"について、知識を深める旅に出てみました。
京菓子の老舗・亀屋良長さんへ
まず向かったのは、四条烏丸の交差点を西へ10分ほど歩いたところにある、亀屋良長さん。名水の湧く地として古くから知られる「醒ヶ井(さめがい)」という地で200年以上、美しくておいしい和菓子を作り続けています。こちらで"あの三角の和菓子"について詳しく教わることができました。
正体は「水無月」
「それは、水無月(みなづき)というお菓子ですよ」と、教えて下さったのは8代目ご主人・吉村良和さん。みなさんは「夏越の祓え(なごしのはらえ)」をご存知でしょうか。1年のちょうど半分にあたる6月30日に、半年間の穢れや邪気を払い、残り半年を健康で過ごせるように祈願する行事のことです。水無月はこの行事の一環として、主に京都で食べられているようです。
なぜ三角形なのか?
もちっとしたういろうに小豆が敷き詰められた三角の形が、水無月の基本スタイル。その始まりは室町時代にさかのぼります。宮中で行われていた「氷を食べて暑気払いする」行事が始まり。ただ、氷は庶民には手の届かない高価なもの...。そんな氷を模して作られたのが、水無月の三角の形なのです。ちなみに、小豆には悪いものを払う意味が込められています。
水無月作りの現場に潜入
特別に水無月作りの工程を見せていただけることに! 「使う材料はどこも同じ。でも、店ごとに味が違う。それが和菓子の面白さですね」。そう語るのは、この道30年の職人・日野山文雄さん。作る時に大切にしているのは、食感。暑い季節に食べるものなので、つるんとしたのど越しを意識して作っているそうです。仕込みに手間がかかるのは小豆。3回に分けて蜜につけ、目標の糖度に近づけるので、完成に3日もかかるとか。 北海道産大粒小豆がつやつや輝く姿に、思わず見とれました。
蒸す、切る
水無月は2回の蒸す工程を経て、完成します。まずはういろうを蒸し、小豆をのせてまた蒸す。蒸しあがりを待っている間も、漂ってくる甘い香りにうっとり...。20分ほどで蒸しあがりました。これがあの、三角の水無月の原型! 迫力満点のサイズ感です。熱々の状態では綺麗に切れないので、冷ましてから切っていきます。大きさを測りながら、美しく均等に切る分けるのは、まさに熟練の技。流れるような作業風景に、見入ってしまいます。
喫茶スペースで、いただきます!
水無月が販売されている期間は、併設の喫茶スペースでいただくことも。価格は1つ292円(税込)、お抹茶などといただける季節の生菓子セットは918円(税込)です。上品な甘さともっちりとした食感...けれど、のど越しはすっきり。確かに、これなら暑い時期にもぴったり! 京都に根付く「夏越の祓え」の文化。販売される6月末の3日間は、水無月しか売れない!? というくらい、水無月を求めるお客さんで賑わうそうです。「和菓子は異文化を繋ぎ、平和な空間を作るもの」と語る吉村さん。初夏という季節を感じながら、みんなでワイワイ和菓子をいただく、というのもよいかも知れませんね。
■亀屋良長
京都市下京区四条通油小路西入柏屋町17-19
地下鉄四条駅から徒歩10分
075-221-2005
9~18時
6月28~30日(発売期間)
https://kameya-yoshinaga.com
亀屋良長さんの京菓子手づくり体験https://www.mbs.jp/kyoto-chishin/culture/confectionery.shtml
私のおすすめ水無月
亀屋良長の職人さんが語っていたように、水無月は店ごとに見た目や味が少しずつ違うのが魅力です。京都散歩の際、ふらりと入りたくなってしまうような、私のおすすめの和菓子店を3店ご紹介。食べ比べするもよし、来年の楽しみにするもよし。どのお店でもこだわりの水無月を味わえます。
重厚感のある町家建築が素敵「大極殿本舗六角店」
四条河原町でお買い物の帰りに立ち寄ったのは「大極殿本舗六角店」さん。かかっているのれんの色柄は季節によって変わります。こちらの水無月は本葛を使用していて、コシのある食感が特徴です。白、抹茶、黒糖と3種の味があり、どれをいただこうか、迷ってしまいますね。1つ200円(税込)、予約価格は180円(税込)です。
■大極殿本舗六角店
京都市中京区六角通高倉東入ル堀之上町120
地下鉄四条駅から徒歩7分
075-221-3311
9~19時(販売)、10~17時(喫茶)
6月28~30日(発売期間)
御苑散歩の折に行きたい「俵屋吉富」
天皇陛下の即位でも話題になった京都御苑に訪れた時は、ぜひ「俵屋吉富」さんへ。創業はなんと宝暦5年(1755)! 西陣の地に260余年も店を構えています。ふんだんに入った大粒の小豆の歯触りが心地よいこちらの水無月は、白・黒糖と2種展開。歩きつかれた体をしっとり癒してくれます。1つ303円(税込)。
■俵屋吉富
京都市上京区室町通上立売上ル
地下鉄今出川駅から徒歩5分
075-432-2211
8~17時
6月1日~30日(販売期間)
http://www.kyogashi.co.jp/a-index.html
控えめな甘さに、上品なサイズ感もうれしい「京菓匠 鶴屋吉信」
フィギュアスケートの人気選手の選曲で一躍有名になった晴明神社。お参りの帰りに「京菓匠 鶴屋吉信」さんに立ち寄り、併設のお休み処で水無月とお抹茶のセット1,026円(税込)をいただきました。南丹・馬路の大納言を使ったこちらの水無月は、歯切れのよいもちっとしすぎない食感が癖になりそう。甘さも控えめで上品です。
■京菓匠 鶴屋吉信
京都市上京区今出川通堀川西入ル
市バス停堀川今出川徒歩すぐ
075-441-0105
9時30分~18時(LO17時30分)
6月1日~30日(販売期間)
https://www.tsuruyayoshinobu.jp/shop/
旅を終えて...
6月の京都に登場する三角形のお菓子の正体は「水無月」でした。昔から続く文化の一部である水無月。小豆の大きさや、ういろうの食感もお店によって少しずつ違うので、食べ比べてお気に入りを探すのも楽しそう!みなさんも、水無月を食べて夏の健康を祈ってみませんか?
※価格は取材当時のもの