BLOG京ノ旅手帖2019.04.24

世界遺産「仁和寺」 幻の観音さまに出逢う旅

By石原かんな

古都の地元ライターが、京都旅をもっと楽しくする情報をお伝えする「京ノ旅手帖」。今回は、京都の仁和寺にて2019年春秋に行われる「平成大修理完遂 仁和寺観音堂 特別内拝」に先駆け、幻の観音様に逢いに出かけました。

古より非公開であった「観音堂」が6年の時をかけて修理され、期間限定で特別公開

世界遺産である仁和寺の「観音堂(重要文化財)」は、仁和寺創建の約40年後、928年頃につくられたと伝えられています。その後、幾度も火災で焼失し、現在の建物は江戸時代初期である1640年頃に再建されたもの。2012年からは観音堂の半解体修理(平成大修理)が行われ、6年もの歳月を経て美しいお堂が蘇りました。その様を多くの方とともに祝い、仏様とご縁を結んでいただきたい...。そんな想いにより、僧侶の修行の場として非公開であり続けた観音堂が期間限定で特別公開されるに至りました。

観音堂にいらっしゃるのは、370年以上も前から人々の目に触れられることが稀であった幻の観音様。長年秘められてきたお堂や観音様との出逢いを求め、京の旅が始まります。

ノスタルジックな路面電車「嵐電」に揺られながら到着

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世界遺産・仁和寺の玄関口は「御室仁和寺駅」

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仁和寺の山門が見渡せる風情ある駅舎

仁和寺の最寄り駅は京福電鉄、通称「嵐電(らんでん)」の「御室仁和寺(おむろにんなじ)駅」。寺社や住宅地の間をガタンゴトンと走る路面電車に揺られると、どこか懐かしいノスタルジックな気分に浸れるのも京都旅ならではです。

駅の改札を出て振り返ると、「驛室御(旧駅名)」という旧字体・右横書きの駅看板が掲げられ、ちょっとしたフォトスポットにもなっているとか。そして、真正面には仁和寺の山門である「二王門(重要文化財)」が雄大にそびえ立ち、その佇まいを駅から、また門に向かいながら眺めるのがおすすめです。歩きながら邪念を払い、門をくぐります。

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境内をゆっくり散策しながら観音堂へ

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入母屋(いりもや)造りの美しい観音堂

二王門から観音堂までは「浄心の参道」を歩き、朱色の「中門(重要文化財)」を通ります。4月頃に咲き誇る、遅咲きで有名な御室桜の桜林を眺めながら左(西側)へ曲がると、背が高く、正面はすべて板扉で独特の印象を与えるお堂に到着します。これが今回の目的地である観音堂。二王門から金堂を軸線として、東側にある五重塔(重要文化財)との絶妙なバランスで配されているのも特徴です。

普段は踏み入れられない神秘的な空間で、静かに祈りを捧げる

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私たちを出迎えてくださる33体の仏様

370年以上も前に建てられたと伝えられている観音堂は、幾度の焼失と再建により、現在の姿は江戸初期の建築とされています。当時期に建てられた他のお堂の多くは純和様ですが、この観音堂は和様を主にしながら各所に禅宗様(ぜんしゅうよう:鎌倉時代頃に禅宗とともに伝わった中国北宋系の建築様式)が加味され、新旧様式が混在しているのも見どころです。
いよいよ観音堂の中に足を踏み入れると、正面に須弥壇(しゅみだん:本尊を安置する場所であり、一段高く設けられた場所)があり、その中心には「本尊千手観音菩薩立像」、両脇には「不動明王(ふどうみょうおう)立像」と「降三世明王(ごうざんぜみょうおう)立像」、前には「風神・雷神立像」が。そして、千手観音菩薩の従属として「二十八部衆立像」が祀られています。特に、真ん中でひと際輝く観音様の圧倒的な存在感...。きらびやかでありながら穏やかなお顔には、どんな人でも心を奪われるのではないでしょうか。

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穏やかな面持ちの千手観音菩薩立像

なお、観音堂は多くの人々が訪れる仁和寺の中心部にありながらもひっそりと佇み、かつて公にされることはほぼ無かった神秘的な空間です。それは、昔も今も若い修行僧が日々厳しい修行を重ね、仁和寺にしか伝わっていない法流(教えを伝える系譜)を門跡から授かるというような非常に大切な儀式を行う場所だから。よって、これに相応しい風格を備えており、一般の方が普段目にすることは非常に稀な"最も尊いお堂"でもあるのが、この観音堂なのです。

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仏様お一人おひとりの表情や衣装も観察したい
(※特別な許可を得て撮影しています) 

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手を合わせ、心静かに祈りを捧げる

堂内に安置されている仏様は全33体。仁和寺の僧侶である林就吾さんによると、「ご本尊であり、万能な神様と言われている千手観音様が、仏さんの教えによって良い神様になられたお仲間をたくさん連れていらっしゃる様子は、厳かでありながら迫力があります。これほど間近で一般の方にご覧いただくことは今までになく、とても貴重な機会となるでしょう」。そして、「千手観音様は観音様の中でもスペシャリストとも言えます。"千"のように多くの手で、余すことなく皆さんに手を差し伸べてくださるから。"観音"とは"世の中を見る"ということを意味します。ここにいらっしゃるご本尊は、前で合掌されているものを合わせて42本の手、そして11面のお顔で、ありとあらゆる方角を見て世の中を見守り、私たちの苦しみを聞いてくださります」。

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躍動感に満ちた風神・雷神立像

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阿修羅王の3つの表情にも注目

千手観音菩薩の前方には、今にも動きだしそうな「風神・雷神立像」が。昔の農耕社会において恵みの雨を降らすのは風であり、この風を呼び起こす神様が「風神」だったとか。そして、天が喜んでいることを知らせる雷が鳴ることで、稲が豊作になり、一年間食べ物に困らないという考えで「雷神」も崇められてきたのです。躍動感にあふれ、迫力に満ちたおふたりの姿も必見です。
また、千手観音菩薩のお仲間である「二十八部衆立像」の表情やポーズ、衣装はそれぞれ異なり、武将のような恰好の仏様や仙人のような仏様も...。きっと、ずっと見続けたい気持ちにかられるはず。林さん曰く、「もともとは戦いの神様として有名で、3つのお顔と6本の手(三面六臂)を持つ『阿修羅(あしゅら)王』の色鮮やかなお姿も、ぜひお探しいただきたいですね」。

史上初、観音堂を心ひそかに守り続けた幻の観音様との出逢い

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千手観音菩薩を囲むように描かれた障壁画

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僧侶である林さんにお話を伺った

千手観音菩薩や数々の神様を背後から包み込むように極彩色の障壁画があります。それも、真後ろの壁一面だけではなく堂内をぐるりと巡って壁と柱が彩られており、これが370年以上も決して公開されずに観音堂を人知れず守り続けてきた幻の「観音障壁画」なのです。お堂が建立された1640年頃、京都を中心に活躍した木村徳応(とくおう)という絵仏師らが手がけたもので、370年以上の時を経ているにも関わらず、色鮮やかな姿を現在に伝えている貴重なもの。ここには、観音経に基づいて様々な観音様のお姿や人々を救う場面が描かれており、ほんのりとした灯りの中で数々の画を堪能することができます。

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三十三観音菩薩や三十三応現身の場面など

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人面をした牛馬などが描かれる六道の畜生道

須弥壇正面には観音菩薩のいる浄土である「補陀落山(ふだらくせん)」の様子。救うべき対象に合わせて観音菩薩がその姿を変える三十三応現身(おうげんしん)を表現しています。
そして、須弥壇背面には人間が死後に向かうとされる「六道(六つの世界)」が描かれています。生前の行いによって地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天上道のいずれかに導かれ、その報いを受ける人々の生々しい様は、大人はもちろん、子どもたちにとっても、日々の行いや態度などについて考えるきっかけになるかもしれません。
例えば、「あれも欲しい、これも欲しい」とむさぼる子ども=「餓鬼(がき)」の世界には、物を食べようとしても口に入れたとたん炎になってしまう様子などが描かれています。また、人の喜びを妬み、「あんちくしょう、こんちくしょう」となる「畜生(ちくしょう)」の世界には、本能のままに生活した人間が動物に生まれ変わるという苦難が表現されているのです。

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天女が舞い、音楽を楽しむ天上道の世界

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観音障壁画の前で六道について語る林さん

林さんは、「例えば天上の画。天女様が舞い、人々は微笑み、音楽を奏でながら優雅に暮らしています。このような天界の世界に生まれ変わることが人間の最終目標でもありますが、私たちは今も、その時々の感情で六道の世界にワープできる。生きている中でも六道の世界を輪廻しているのです。ですので、自ら怒りの気持ちを抑えるなど日々の心を一定に保つのが理想であり、それはお一人おひとりの心の持ちよう次第なのです」。
六道の画の上には、6つの世界をそれぞれ救ってくださる「六観音菩薩」が厳かな面持ちで立っていらっしゃいます。まさに、仏教の世界観に基づいた人生そのものの縮図が描かれているのです。

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「御仏の世界を間近でご覧いただきたいですね」

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極彩色の世界を隅々まで堪能したい

そして、北・東・西側の壁には「三十三観音菩薩」も描かれており、一つひとつのお顔や姿にも目を向け、心に留めてみるのもよいでしょう。

心が疲れた時、優しい気持ちになりたい時...。あたたかな眼差しで包み込んでくださる幻の観音様のもとへ、この春や秋、仁和寺を訪れてみてはいかがでしょうか。

仁和寺を訪れたら、これも一緒に楽しみましょう

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    ■貴重な「朝のお勤め」体験
    仁和寺の敷地内にある「御室会館」に泊まると特別に、非公開文化財「金堂(国宝)」で朝のお勤めを体験できます。ろうそくの灯りの中で読経に耳を傾け、静かに祈りを捧げると心新たな気持ちに。

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    ■全国的にも有名な「御室桜」
    江戸時代から庶民の桜として親しまれ、多くの和歌にも詠われている「御室桜」は遅咲きで有名。仁和寺の御室桜が咲き誇る4月中頃には多くの人が訪れます。大正13年、国の名勝に指定されました

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    ■可愛らしい「お守り」いろいろ
    「幸福(クローバー)守」には天然のクローバーが施され、多くの幸福が舞い込むように祈願されています。「御室桜開運守」は開運や健康が祈願され、お土産にも人気。授与料は各500円。

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    ■お部屋に飾れる「桜おみくじ」
    桜の中にはくるくると巻かれたおみくじが入っており、桜の入れ物は持ち帰って部屋のインテリアとして飾ることもできます。ピンクと白色の2種類。授与料300円。

今回の観音堂公開情報

平成大修理完遂 仁和寺観音堂 特別内拝
春季 2019年5月15日(水)~7月15日(月・祝)
秋季 2019年9月7日(土)~11月24日(日)
拝観時間:9:30~16:30(16:00受付終了)
※宗教行事により拝観時間が制限される場合がございます。詳細は仁和寺HPをご確認ください。
拝観料:一般1,000円(記念品付き)・高校生以下無料
※次世代に文化を継承するという目的により高校生以下は無料となります。

世界遺産 真言宗御室派 総本山 仁和寺

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TEL
: 075-461-1155
住所
: 京都市右京区御室大内33
  • 拝観時間[3月〜11月] 9:00~17:00(16:30受付終了)
  • 拝観時間[12月〜2月] 9:00~16:30(16:00受付終了)
  • JR「花園駅」より徒歩約15分もしくはタクシーで約5分
  • JR「円町駅」より市バスにて約10分
  • JR「京都駅」より市バスにて約40分
  • 京阪電鉄「三条駅」より市バスで約40分
  • 阪急電鉄「大宮駅」より市バスで約30分・「西院駅」より市バスで約25分
  • ※拝観料が必要な場所・時期があります。

http://www.ninnaji.jp/

ライター
石原かんな いしはらかんな

京都で生まれ育った生粋の京都人。京都独特のゆるい空気感と、そこそこ閉鎖的なのに国際的なところが好き。世界中で最もお気に入りの場所は「鴨川べり」、次に「疏水ぞい」。

カメラマン
井原完祐 いはらかんすけ

広告や雑誌などで幅広く活躍する敏腕カメラマン。撮影チームのムードメーカーでもある。古い歴史と現代の文化が上手く融合している京都がお気に入り。実は、少林寺拳法四段。