2024年12月06日(金)公開
わが子を殺された父親「謝罪」ない受刑者に思いぶつけ...返事にがく然「過去を忘れたい」「賠償金は払わない」心情伝達制度から見えた遺族の思い
特命取材班 スクープ
犯罪に巻き込まれた被害者や遺族が服役している受刑者に被害者の思いを届けるにはこれまで、手紙の受け取りや面会を拒否されるケースがあるなど、ハードルが高いとされている。そんな中、去年12月から始まった「心情伝達制度」は被害者と加害者の間に刑務官などが入り、被害者の心情や意見を受刑者に伝えるものだ。今回、子どもを殺害された2組の遺族がこの制度を利用した。受刑者から返ってきた言葉とは?
「ズタズタだから見せられない」10か所以上刺され息子殺害された父親
和歌山県紀の川市に住む森田悦雄さん(76)。森田さんにとって自宅近所にある空き地は特別な場所だ。森田さんはここで最愛の息子を奪われた。
(森田悦雄さん)
「お父さん頑張っていくからってずっといっているんですけど、その言葉を毎年のように言ってるんですよね…うん」
小学5年生だった森田都史くん(当時11)。都史くんは2015年2月、刃物で頭や体など10か所以上刺され殺害された。
(森田悦雄さん)
「体はズタズタやから見せられないとそんな風に言われて…都史くんの状態を見てもらうのは普通では考えられないぐらいひどい傷やって」
殺害したのは近所に住む男 遺族への謝罪は一度もなく 賠償も払われず
逮捕されたのは近所に住んでいた中村桜洲受刑者(32)。殺人罪などで懲役16年の実刑判決を受け服役している。事件からまもなく10年が経つが中村受刑者から森田さんへの謝罪は一度も無く、民事裁判で認められた約4400万円の賠償についても1円たりとも支払われていないという。
(森田悦雄さん)
「地に頭をつけてすりつけてでも謝るのが普通やって。自分がそれだけ大変なことをしたという自覚があまりないかなと」
「連絡一度もない」受刑者へ父親がぶつけた思い「鬼畜生だと思った」
中村受刑者は事件のことをどう考えているのか。森田さんは去年12月から始まった「心情伝達制度」を使って受刑者に初めて気持ちを伝えることを決めた。
心情伝達制度はまず刑務官が被害者や遺族の思いなどを対面で聞き取り、その内容を加害者に口頭で伝える。そして、それに対する反応や答えなどを刑務官が聞き取って被害者側に書面で通知するというものだ。
今年9月、森田さんは近畿地方のある刑務所を訪れ、職員と3時間にわたり面談をした。その中で加害者に伝えたい思いをまとめた。
【森田さんが中村受刑者に伝えた内容】
「都史君は背中や頭など、約10か所も刺されズタズタの状況であったと聞かされ、鬼畜生だと思った。謝罪の言葉は今もない」
(森田悦雄さん)
「どういう流れになるというのも私は初めてですので」「少しでも私たちの気持ちが晴れるようになったらいいなとおもいます」
受刑者から返ってきたのは初めての謝罪「都史くんもやっと安心できる」
森田さんの思いを中村受刑者はどう受け止めたのか。約3週間後、森田さんのもとに「返事」が送られてきた。
【中村受刑者からの返事】
「事件を起こした日はとんでもないことをしたと後悔や悲しい気持ちになる。毎年2月5日には被害者に手を合わせています。すみませんでした」
返事に書かれていたのは中村受刑者からの初めての「謝罪」。そして賠償についても支払い計画を『親と相談する』とし、改めて手紙を送ると回答した。森田さんはこれまで分からなかった受刑者の考えを知ることができ「大きな一歩になった」と話す。
(森田悦雄さん)
「あー、ほんまに10段ぐらい飛び上がった感じ、今まで9年もこんな状態が続いていているでしょ。うちに親が謝罪に来るとか賠償の話とか、どんな風にしたらこっち側が納得するかをお話してもらったら、都史くんもやっと安心できると思うので」
22歳の娘を殺害された父親 受刑者は出頭も無罪主張 裁判で心ない言葉
一方で、思うような結果を得られなかった人もいる。神奈川県横浜市に住む渡邉保さん(76)。2000年に娘の美保さん(当時22)が駅からの帰宅途中に車ではねられ、首を刃物で刺され殺害された。
美保さんの中学の同級生だった穂積一受刑者(46)が警察に出頭したものの裁判では一転、無罪を主張。判決では無期懲役が言い渡されたが、渡邉さんは穂積受刑者が判決後に言い放った言葉が今も忘れられない。
(渡邉保さん)
「『お前のこと絶対に許さない』と言ったら、出口の所で男が振り返って「お前が迎えに行かなかったから娘が死んだんだよ」と言われて、連れて行かれた。なんだこいつは本当に人じゃねえなって思いましたけどね」
穂積受刑者は判決が確定し刑務所に入ってからも渡邉さんに一度も謝罪していないという。およそ5500万円の損害賠償についても一切支払っていないという。
(渡邉保さん)
「ごめんなさいの一言もないです。うちの娘を殺した損害を請求しているのだから、それもお前は背負っているんだよというのを理解させたい。よく刑務所を出ると全部償ったと誤解する犯罪者が多いじゃないですか」
20年越しに思い伝えた父親 返事にがく然「俺には関係ない。賠償金支払わない」
渡邉さんも今年6月と9月に「心情伝達制度」を利用した。しかし、穂積受刑者から返ってきた言葉に、がく然とした。
【穂積受刑者からの返事】
「俺には関係ない。過去のことは俺はなかったことにする」
「賠償金は金額が多すぎるのでお金は支払わない」
穂積受刑者は事件を起こしたことは認めたものの、「過去のことは忘れたい」と伝えてきた。
(渡邉保さん)
「ちょっとショックでしたね。やったことを認めていないというか反省も何もしていない、ふざけやがってという気持ちありましたよもちろん」
専門家「被害者の傍で寄り添う支援者の存在が重要」
被害者や遺族が傷つくリスクも孕む「心情伝達制度」。犯罪被害者の支援に詳しい弁護士は、加害者からの言葉を受け止めるためには被害者に寄り添う「支援者」の存在も重要だと話す。
(関夕三郎弁護士)
「思いを裏切られるとか、かえって傷つくような回答が少なくないと思うんですよね。被害者や遺族がどれだけ大変な思いをしてきたのか、それなりに理解している人がいて、一緒に返答を見て思いを少しでも共有することが大切じゃないかと思います」
心情伝達制度は犯罪被害者にとって「救い」となるのか。運用はまだ、始まったばかりだ。
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