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住職に服を脱がされても「いやらしい気持ちがお導師にあるわけがない」と日常的に性被害...女性僧侶の訴え「自分の弱さや欲に向き合って」【仏教界で相次ぐ性被害】

特命取材班 スクープ

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 仏教界で性被害の訴えが相次いでいる。住職から「坊主に逆らうと地獄に落ちる」と言われ約14年間、性被害を受けた女性僧侶。「師匠がすべて」という教えのもと拒絶できず、日常的に被害を受けた女性僧侶もいる。信仰心や立場を悪用した性被害の実態に迫った。

信仰心を利用され約14年間も…女性僧侶の訴え

 約1200年前、平安時代に最澄によって開かれた天台宗。総本山である比叡山延暦寺では法然・親鸞・日蓮などのちに各宗派を開いた名僧たちが学んだ。その伝統ある宗派がいま、揺れている。

 11月17日に行われた天台宗の運営面を仕切る新たな宗務総長の就任会見。まず質問が飛んだのは“ある問題”についてだった。

 (記者)「女性僧侶が大僧正らの僧籍のはく奪を求めている問題をどう考えている?」
 (天台宗 細野舜海宗務総長)「審理局のほうで詳細な調査をいたし、適正な処理がされるのではないかなと思いますので、それを見守っていきたいと思っております」
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 天台宗が行う調査。その対象は「性被害」の訴えだ。

 (性被害を訴える女性僧侶 叡敦(えいちょう)さん・今年6月)「(周囲に)SOSを何度か出してきたんですけれども、どうにもならなかったもので」

 被害を訴えている天台宗の女性僧侶・叡敦さん(50代)。天台宗を信仰する家に生まれた叡敦さんは2009年、宗派の最高位である大阿闍梨(80代)から四国にある寺の住職(60代)を信頼できる人物として紹介されたという。

 しかし、間もなく住職から性的暴行を受け始め、去年まで約14年間にもわたって信仰心を利用され日常的に性被害を受けたと訴えている。

 これは叡敦さんが録音した住職の発言だ。

 【四国の寺の住職とみられる音声】
 「(大阿闍梨に)『言うことを聞かないかんぞ』って言われたんちゃうんか。エッチで悩んでる人がおったら、代わりにお前がエッチしてやらないかん。エッチの相手を引っ張ってくるんや、仏さんは」

 叡敦さんは大阿闍梨(80代)に助けを求めたが相手にされなかったといい、2019年には住職を強姦罪などで刑事告訴。しかし、捜査が行われたものの嫌疑不十分で不起訴となった。ただ、その後も被害は継続したといい、叡敦さんは天台宗に対して住職と大阿闍梨の僧籍を取り上げるよう求めている。

 訴えを受け天台宗は寺の現地調査などを実施。11月11日、重大事案を扱う宗派内の「審理局」に対し、住職と大阿闍梨を懲戒するかどうか審理するよう請求した。

 一方、住職や大阿闍梨は取材に対し「コメントは差し控える」としている。

 (叡敦さん)「宗教の中で(他にも)このような被害があると思うので、自分のためにも、被害に遭っている人たちのためにも(訴えを)やめるわけにはいかない」

別の女性僧侶も被害に 「師匠が全て」と教え込まれ…

 叡敦さんの告白を受け他の宗派でも被害を訴える声が上がり始めた。今年10月、会見を開いた千葉県に住む40代の女性僧侶・Aさん。

 (Aさん)「(なぜ)私の服を脱がせて体を触っているのか、なぜこんなことをするのか、本当に意味がわからず、混乱して本当に頭が真っ白になっていました」

 2009年、母親も信仰する160年あまりの歴史をもつ仏教の宗派「本門佛立宗」に入信した。出産や子育て、自身の病気などで悩みを抱えたAさん。母親のすすめで千葉県にある妙恩寺の深澤幸久住職(59)に相談をするようになり信頼を深めていった。

 (Aさん)「お導師(深澤住職)のおっしゃることが正しくて、お導師から教えていただいた通りにさせていただければ、絶対に悪いほうにはならないって、私だけじゃないんですけどそういうふうになって。私もすごく信頼して」

 2021年には出家を決意し、深澤住職を師匠として修行を始めた。ところが、その頃から住職に「服従」するよう教え込まれたという。
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 Aさんが住職の教えを記録したノートには…

 【ノートより】「自分の考えをすてなさい」「師匠が全て」

「いやらしい気持ちがお導師にあるわけがなく『なんなんだろう』と」

 そしてAさんは2022年から服を脱がされ身体を触られるなどの性被害を日常的に受けるようになったという。しかし、当時は…

 (Aさん)「ちょっと『えっ』とは思ったんですけど、ただ、そもそもそんないやらしい気持ちがお導師にあるわけがなくて、『なんなんだろう』って思っていて、本門佛立宗の教えとしてこれが正しいのか、どうなんだろうってすごく考えていた」
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 葛藤していたAさんだったが、去年、別の女性住職に相談。こうした行為が正しくないと気付き、警察に被害を打ち明けた。深澤住職はAさんが信頼し拒絶できないことを利用して、服をめくり上げ胸や陰部を触るなどのわいせつな行為に及んだとして逮捕・起訴された。

 Aさんは被害を受けてから気持ちが不安定で精神科に通院しているが、事件と向き合おうと深澤被告の裁判に出廷している。

 裁判で深澤被告は起訴内容を認めた上でこう述べた。

 (深澤被告)「本当に申し訳ありませんでした。許してください」

判決は12月11日「自分の弱さや欲にきちんと向き合って」

 現在、保釈されている深澤被告。裁判所を後にするところで取材を申し込んだ。

 (記者)「すみません、お話聞かせていただきたいんですけど、謝罪のお気持ちはあるんでしょうか?」
 (深澤被告)「…(車で走り去る)」

 その後、寺を訪れ改めて打診したものの、取材に応じることはなかった。

 住職が所属する本門佛立宗は「現在係争中で調査は中断しているため、裁判が結審したあと調査を再開し宗内で審理を行う」とコメントしている。

 裁判は11月27日に結審し、判決は12月11日に言い渡される予定だ。

 (Aさん)「ただ謝るだけではなくて、何が悪くてどうしてこうなったのか、自分の中の弱さとか欲とかにきちんと向き合っていかなくては、また同じことを繰り返すなと思っています」

「犯罪と認識できないマインドにされてしまう」と専門家は指摘

 仏教界で相次いでいる性被害の訴え。宗教学の専門家は宗教において上の立場の人に疑いを持つこと自体が難しく、明るみに出るのは氷山の一角だと指摘する。

 (東北学院大学 川島堅二教授)「教祖(など上位者)に逆らうこと自体が罪であると。それから教祖は絶対に自分の欲望から行為することはないっていうことを、徹底して教え込まれるので、もう客観的に言えば相当ひどい行為をされていても、それが犯罪的なものだと認識できないようなマインドにされてしまっている。だからそういう窓口にすぐ駆け込むっていうふうにはまずならない」

 本来、人々に救いを与えるはずの宗教。信仰心を悪用した卑劣な行為は決して許されない。

2024年12月03日(火)現在の情報です

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