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同級生から暴行・恐喝...28歳になった被害者「生きてきたからこそ、結果に立ち会えた」 『18年前のいじめ』をようやく認めた市教委だが...「調査記録を故意に隠ぺいしたと判断できない」

特命取材班 スクープ

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 18年前に小学校で起きた「いじめ問題」。神戸市教育委員会は今年5月11日、ようやくいじめの事実を認めた。加害児童の多くが問題発覚直後にいじめを認め、その後の裁判で大阪高裁が加害児童全員のいじめ行為を認定しているが、これまで市教委だけが一貫していじめを認めてこなかった。また、2年半にわたり調査していた第三者委員会は「市教委が学校の調査記録を隠ぺいした」と指摘したが、市教委は“隠ぺい”については否定している。これまでの経緯も含めて問題の全容に迫った。

被害児童は28歳に 『18年前のいじめ』神戸市教育委だけが認めず

 今年5月2日、いじめの被害児童だったAさんが取材に応じた。Aさんは今、28歳になった。

 (Aさん)
 「結局、18年間、何も変わらなかったなというのが率直な気持ちですね。いじめがあって、本当に死のうかなと思ったこともあったんですけれども、母親が『学校に行かなくていいよ』っていう一言で、自分は死なずにすむんだって思いました」
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 2005年、神戸市立の小学5年生だったAさんは、同級生13人から殴る蹴るの暴行を受け、恐喝されて50万円以上を親の財布から抜き取り渡していた。1年にも及んだいじめは、父親が異変に気づき、ようやく終わったという。
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 加害児童の多くはいじめを認め、こんな謝罪文を送っている。

 【加害児童の1人が書いた謝罪文より】
 『ぼくは恐喝してお金を取っていたことは間違いありません。「死ね」、「消えろ」などと言って仲間はずれにもしました。大変反省しているので、すべて話してお詫びすることにしたのです』

 発覚から3年後、いじめを認めなかった加害児童3人の親を相手に損害賠償を求めた裁判で、加害児童全員のいじめが認められた。しかし、神戸市教育委員会だけがいじめがあった事実を認めていない。

 (Aさん)
 「16回の調査に応じても、確定判決が出ても、神戸市教育委員会は調査が不十分だと言っているんですね。本当に不十分だったというのであれば、どういう調査であれば十分と言えるのか逆に教えてほしいですね」

市教委の主張「聞き取り調査ができず、いじめがあったか判断できない」

 発覚から4年後の2010年。いじめを認めない理由について教育委員会の幹部が市議会でこう証言している。

 (神戸市教育委員会 指導部長※当時)
 「被害を受けたと主張されている児童の保護者の方から、子どもにもう直接話を聞かないでほしいという強い要望が学校の方にあったと聞いております。双方の児童から聞き取りが十分に行えなくなったと」
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 これを聞いていたAさんの父親は…。

 (手を挙げて話すAさんの父親)
 「すみません、委員長。被害者の父親なんですが、発言を認めていただけないしょうか。今の説明は虚偽説明です。その部分だけを1、2分で簡単に説明しますので、発言を認めていただきたいんですが」

 しかし、発言は認められなかった。取材に応じたAさんの父親は、次のように話す。

 (Aさんの父親)
 「被害者の父親が息子に話を聞かないでくれと、学校の調査を妨害したと言うてましたよね。全くそんな事実はないんですよ」

 「聞き取り調査ができず、いじめがあったか判断できない」と主張してきた教育委員会に対して、父親らは「いじめを隠ぺいしている」と訴えてきた。それにはわけがあった。

当初いじめを認めていた校長「なかったことに操作されてるかも」

 問題が発覚した2006年。父親は、校長と面会した際の音声を録音していた。校長はいじめがあったことを認めていたのだ。

 【2006年の音声】
 (校長)「廊下に引きずられて、何人かで」
 (父親)「足でみんなに踏まれてるとか、蹴られているような。けっこうアザはあったんですよ。お風呂一緒に入って『それどないしたんや?』って聞いたら、こけたとか」
 (校長)「本当にすごかったでしょ、いじめの回数とか。本当に私まとめながら涙が出てきました。許されへん」

 しかし、この1か月後。校長の態度が一変する。

 【2006年の音声】
 (校長)「これ僕の口から聞いたって言わんとって。ここだけの話ね、ひょっとしたらね、操作されてるかもしれん」
 (父親)「何を操作ですか?」
 (校長)「いじめがなかったってことに」
 (父親)「誰が操作してるんですか?」
 (校長)「はっきりわかりません」

 突然、「いじめはなかったことになる」と言い出したのだ。
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 父親は支援者らと共に、学校を指導していた教育委員会に「なぜ認めないのか」と何度も迫った。

 【2016年のやりとり】
 (Aさんの父親)
 「何が足らないんですか?全体像を見るって、全体像わかってるじゃないですか」
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 (神戸市教育委員会 担当者※当時)
 「その時におけるお子さんの証言だとか、そういうこと自体が当時把握できていない」

「ない」とされてきた『学校作成の調査記録』を入手 Aさん「全部事実です」

 そして、いじめから15年後の2020年。市議会での16回目の陳情がついに認められ、第三者委員会が設置されることになった。すると…。

 (Aさんの父親)
 「第三者委員会に段ボール4箱送ってきたって、教育委員会から。それまで『資料は全くない』と言われてたんですね」

 それは、どんな資料なのか?教育委員会が父親に開示した資料は、核心の部分が白くマスキングされていて内容はわからなかった。
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 しかし、取材班は関係者からマスキング前のものを独自に入手。それは、学校がまとめていた34ページにも及ぶ「いじめ調査記録」だった。記録は時系列にまとめられていて、校長や担任らがAさんや加害児童から直接聞き取った内容が詳細に記されていた。

 【学校作成の『調査記録』 2006年3月14日】
 『被害児童が養護教諭に話しかける。僕は恐喝されたり、いじめられたりしている。主な加害者はクラスに11人と隣のクラスに1人いる。担任はいじめを見過ごした。クラスに信頼できる心を許せる人間は誰もいない。自殺しようまで思った』

 Aさんからは2か月にわたって16回、直接話を聞いていたことが記されていたのだ。
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 取材班がこの資料を入手した直後の去年3月、Aさんにも確認してもらった。

 (Aさん)
 「これ学校側が作ったんですかね?パッと見ですよ、たまたま開いたページ見て思い出したことあります。こんなんあったなって。それくらい、めちゃ詳細です、これ。全部事実ですけども」

市教委の元幹部らに直撃取材

 これまで「ない」とされてきた調査記録はなぜ存在していたのか?取材班は去年7月、いじめ発覚当時の教育委員会の元幹部(当時の指導課長)を直撃した。

 【去年7月のやりとり】
 ―――これ(資料)は覚えてらっしゃいます?
 「それは見たことがないですね」
 ―――見たことがない?神戸市教育委員会の内部で保管されていたんですけども、隠ぺいしていたわけではないということですか?」
 「それはないと思います。その都度に判断させているので」
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 別の元幹部は…。

 【去年7月のやりとり】
 ―――学校側が作った34ページの資料なんですが?
 「うわ、すごいね」
 ―――知らない?
 「記憶にはないかな」
 ―――当時から脈々とこれを表に出すなというようなことが内部であったんじゃないですか?
 「それはないですね」

 この取材の後、神戸市教育委員会は内部調査を行い、学校作成の記録について次のような見解を示した。

 『2010年には事務局が入手していたが、メモや備忘録の域を出るものではなく、公文書には当たらないという理解のもと、書庫などで保存されていたものと思慮される』

 調査記録は元々あったがメモや備忘録と判断し、公文書として扱っていなかったと説明した。

第三者委「調査記録を公文書とみなさず明らかにしなかったのは隠ぺい」

 そして今年5月11日。2年半にわたり教育委員会の対応などを調査していた第三者委員会が最終報告書をまとめ公表した。

 (第三者委員会 南部さおり委員長)
 「(学校作成の記録は)当然、公文書であることがわかっているにもかかわらず、これを公文書とみなさなかったことは不当であると評価いたしました。教育委員会はその事実に向き合おうとしなかったという姿勢自体が、非常に不誠実であったと考えております」

 (第三者委員会 尾藤寛副委員長)
 「(Q組織的な隠ぺいか?)学校作成の調査記録については、組織的に判断されたと考えております」

 第三者委員会は18年前のいじめ行為を全て認めた上で、「学校作成の調査記録を不当に公文書から外し明らかにしなかったことは隠ぺいである」と指摘。さらに、「その存在を知りつつ、市議会で『公文書はない』としたのは、明かな虚偽答弁」とした。
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 父親が受け取った報告書には教育委員会の内部調査についてこう記している。

 【第三者委員会の調査報告書に記された内容】
 『調査記録が「ある」か「ない」かが問題であるのに、公文書に「当たる」か「当たらない」かに論点がすり替えられている。まさに子どもだましの調査と言わざるを得ない』

市教委が『いじめ』を認める 『隠ぺい』は認めず

 5月11日に会見を開いた神戸市教育委員会は…。

 (神戸市教育委員会の会見)
 「調査委員会の調査結果を重く受け止め、いじめの事実を認定するとともに、事案発生当初より真摯に徹底した調査を行うべきであったと考えており、深くおわび申し上げます。(Q隠ぺいしていたという指摘については?)公文書の該当性を限定的に解釈していたと。故意に隠ぺいしたという判断はできないと考えております」
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 いじめから18年。当時のことを思い出すことはほとんどなくなったというAさん。教育委員会に対して、こう話す。

 (Aさん)
 「教育委員会には『いじめの隠ぺい』を認めてほしいという気持ちはあります。生きてきたからこそ、結果に立ち会うことができたなと思います。逆に僕が当時自ら命を絶つという決断をしていたら、死人に口なしじゃないですけど、そういった意味で調査ができていなかったら今頃どうなっていたのかと思うと、ちょっと恐ろしいですよね」

2023年05月12日(金)現在の情報です

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