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『3社の鑑定額が一致』大阪IRの疑惑...専門家が解説「100%ありえないです」さらに大阪市の審議会委員を取材で『新証言』も

2023年01月30日(月)放送

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 大阪府と大阪市が2029年の開業を目指しているIR事業。しかし、そのIR用地をめぐる不動産鑑定で様々な疑惑が浮上している。そして大阪市は審議会で価格は適正と判断されたため問題ないと話していたが、当時の審議会の委員5人を取材すると、3社の数字が一致したことやIRを考慮していないことが審議の対象になっていないことがわかった。

IR用地の鑑定額が『4社中3社で一致』

 大阪府と大阪市が誘致を進めるIR(カジノを含む統合型リゾート)。大阪市はアメリカのMGMとオリックスの共同グループに対して、35年間にわたり夢洲の土地を貸し出す方針だ。
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 その土地の賃料などをめぐって浮上した疑惑。それは不動産鑑定が3社で一致していたことだ。

 大阪市はIR用地の価格を算定するため4社に不動産鑑定を依頼した。不動産鑑定とは、その土地で考えられる使用方法のうち最も高く売れる使い方を判定して、鑑定評価額として示すものだ。鑑定士によってバラツキがあるのが業界の常識とされている。
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 しかし、4社のうち3社が土地の賃料を1平方メートルあたり428円と鑑定。この3社は土地の価格や利回りもピタリと一致していた。
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 去年12月15日、鑑定を依頼した大阪港湾局は次のように話した。

 (大阪港湾局販売促進課 兼坂晃始課長)
 「各鑑定業者の価格がたまたまと言いますかピッタリ一致していると考えています」

安すぎる土地価格…周辺の事例と比べると?

 疑惑は他にもあった。それは安すぎる土地価格だ。3社が鑑定した12万円という土地の価格。周辺と比べると、USJに隣接するホテルの地価は1平方メートルあたり約50万円~60万円。去年3月に売却された南港東の埋め立て地でも約46万円。IR用地の12万円がいかに安いかがわかる。一体なぜこのような価格になったのか。
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 実はこの鑑定はIR事業を考慮せずに行われていたのだ。「国内に実績がないので評価は難しい」という鑑定業者1社からの意見を受けて、大阪港湾局は各社に意向を確認してIR事業を考慮せずに評価することを依頼した。

 その後の鑑定にも不思議な点があった。IR予定地にはホテルや国際会議場などが建設される見込みだ。だが鑑定業者はホテルより評価額が低いショッピングモールなどの大規模商業施設が建つ想定で鑑定を行っていたのだ。
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 土地の価格が安いという指摘に対して大阪港湾局は次のように話した。

 (大阪港湾局販売促進課 兼坂晃始課長)
 「大阪市の中では鑑定結果について価格が適正かどうかを見る第三者の機関がございます。それが大阪市不動産評価審議会というのですが、審議されて、この価格は妥当ですというのを受けて、実際のところ今回の価格設定に至ったという状況でございます」

 審議会で価格は適正と判断されたため問題ないと話した。

市の説明を受けて…当時の審議会委員5人に取材

 そこで取材班は当時の審議会の委員5人を取材した。すると…。

 (不動産評価審議会の当時の委員 不動産鑑定士A)
 「3社が一致していることやIRが考慮されていないことは審議の対象になっていない」
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 (不動産評価審議会の当時の委員 不動産鑑定士B)
 「審議会は価格が適正かどうかを判断するところ。ショッピングモールで12万円なら妥当という判断だった」

 3社の数字が一致したことやIRを考慮していないことが審議の対象になっていないことがわかった。その上で数々の疑惑については次のように話した。
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 (不動産評価審議会の当時の委員 不動産鑑定士C)
 「なんらかの力というかきっかけがないと3社の一致にはならないと思います」
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 (不動産評価審議会の当時の委員 不動産鑑定士D)
 「鑑定業者には説明責任が残る。説明しきれていないなら最後まで説明してもらわないと仕方ない」
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 そこで取材班は不動産鑑定を行った業者4社に質問状を送った。果たして回答はどのようなものだったのか。

不動産鑑定士・田原拓治さんが今回の疑惑を詳しく解説

 50年以上にわたり不動産鑑定を行い、東京地裁の鑑定人も30年近く務めた経験がある不動産鑑定士の田原拓治さんに、今回の一連の流れと業者からの回答について詳しく話を聞いた。まずは改めて以下のIR用地の不動産鑑定業者の結果について。
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【IR用地の不動産鑑定業者の結果】
(土地の価格(1平方メートルあたり)、月額賃料(1平方メートルあたり)、利回り)
A社:12万円、428円、4.3%
B社:12万円、428円、4.3%
C社:12万円、428円、4.3%
D社:11万8000円、391円、4.0%

 (Qこういうことはあり得る?)
 「3社、3つの価格が一致するということはまずありません」

 (Q田原さんが50年以上不動産鑑定をやっていて、今までの経験であまりこういったことは起きない?)
 「あまりじゃなくて、100%ありえないです」

 (Q最初にこの話を聞いたときはどう思った?)
 「報道で知りましたが、とんでもない鑑定が出てきたなと。不動産鑑定業・不動産鑑定士に対する信頼を非常に貶める行為だなと思いました」

 大阪市の担当者の話では“たまたま一致した”ということだった。そこでMBSは、鑑定業者4社に対して、1社につき35問~45問の質問を投げかけた。そして、土地の価格などが3社一致していることについては、以下のような回答だった。

【4社に質問:価格などが3社一致しているが?】
A社:回答なし
B社:意見を述べることは控える
C社:回答なし
D社:回答致しかねる

 (Q田原さん、鑑定者が答えないのはどうしてだと考える?)
 「不動産鑑定書は著作物です。ですから、書いた鑑定士が責任を持って、内容がわからなければ説明しなければ、著者としての義務を果たしてないということです。不動産鑑定では、いい加減な鑑定をすると懲戒処分となるんですけれど、それはなぜそういうことが起こるかというと著作権があるからです。答えないというのは、その自覚が全くないですね」
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 次に、IR用地鑑定業者の結果で、3社が1平方メートルあたりの土地の価格で『12万円』をつけたことについて。これが破格の安さではないかという点だ。大阪府内の他のエリアを見ると、USJの隣接ホテルは『46万3000円』、りんくうアウトレットでは『21万9000円』となっている。これと比べるとやはり12万円は安いと感じてしまう。

 (Q田原さん、このあたりの価格設定については?)
 「おそらく周辺の土地の価格を調査してなかったのでは。49万平方メートルと大きい面積ですから、その評価に使える取引事例は大阪市にはないということを決めつけてしまって、全国の規模のある事例を探したと。結果的にはそれらの事例が安いわけですから、それで安く出てきたんじゃないかなと思いますね」

 この破格の安さについて、審議会の中の不動産鑑定士を取材すると『なくはないかな』という声もあった。ただ、そうした数字を出すのであれば根拠となるような説明が不動産鑑定評価書にきちんと書かれていなければいけないが、田原さんによるときちんとした説明が書かれていないという。今回、そうした点については質問をしたが明確な回答がないところが多かった。
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 大阪港湾局は“IR事業は国内実績もなく、評価上考慮することは適切ではない”と鑑定業者1社から意見を受け、4社に意向を確認したうえで、IRを考慮せずに鑑定を依頼。各社はショッピングモールなどの大規模商業施設を想定して鑑定したが、不動産鑑定評価書に詳細な説明はなかった。そのため4社に対して、具体的な棟数・用途・階層・床面積などの提示を求めたが、4社とも回答はなかった。49万平方メートルの使われ方は不明だ。

 (Qどういう計算だったのかは明らかにすべき?)
 「そうです。通常49万平方メートルを一まとまりの土地として利用することは考えないですね。標準的な規模として、2万平方メートルくらいを一まとまりの土地として利用することが考えられる。それに対する取引事例を考えれば、大阪市内にあるわけですから。そうすれば、かけ離れたような価格は出てこないはずなんです。最初の49万平方メートルを前提に一つの土地としての扱いで価格を決めようと。ですから、それで安くしたんじゃないでしょうかね」

 4社への鑑定報酬はそれぞれおよそ620万円~770万円が大阪市から支払われた。田原さんは高額な報酬にも関わらず、ずさんな不動産鑑定評価書だと指摘する。
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 元厚生労働省キャリア官僚で行政学者である神戸学院大学・現代社会学部の中野雅至教授にも話を聞いた。

 (Q今回の件についてどう見ている?)
 (中野教授)「VTRの中であった不動産評価審議会、あそこがどういう審議をしていたのかですよね。大阪市が全く説明しないで、審議をかけていたのか、ショッピングモールというのは不適切だと多分プロだとわかると思うんですけど、全くそこに対する異議が審議会で出なかったのかと、これまた不思議な感じがしますよね。いずれにしても価格というのはすごく後々影響を及ぼすから、もう少し疑義を持たれないように正面突破した方がいいと思うんですけどね。正面突破できなければ、できない理由をきちんと言った方が、僕はすっきりすると思いますけどね」

 不動産評価審議会の委員の鑑定士5人全員への取材で説明を聞いたところ、3社の数字が一致していることやIRが考慮されていないことに対して、委員からも疑問の声はあがったという。ただ、その点については、大阪市が鑑定業者と話しをして問題ないとされているということであれば、そもそも審議対象でないので、それ以上深く議論することはないという。

 審議会では、IRが考慮されないということは、すでに決まった状態で審議にかけられており、「ショッピングモールであれば12万円という価格は妥当ですか」、というような審議の仕方になっている。不動産評価審議会では、委員の不動産鑑定士たちは、不動産鑑定評価書を見て審議しているわけではなく、諮問調書と呼ばれる要約された情報に基づいて議論が行われている。審議会はあくまで、あたえられた条件の中で、価格が適切かどうかを判断する場所で、全ての情報を見て議論しているわけではないと鑑定士たちは話した。

 IR用地不動産鑑定業者の結果をめぐり、4社に対しては、他の3社がどの鑑定業者か知っていたのか、についても質問した。すると以下のような結果が出た。
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【他の3社がどの鑑定業者か知っていたのか?】
A社:知らない
B社:知るに至った
C社:回答なし
D社:知っていた

 (Qどこが鑑定するか、お互いに知る可能性はある?)
 (田原さん)「ないです。業務上の秘密もありますし、例え知ったとしてもですね、それにとらわれずに自分の考えで鑑定します。原則として知らないですね」

 大阪市側から聞いたのか?という質問に対しては回答はなかった。

 さらにA社とB社がお互いに知っていたのではないかという資料もある。それが以下のものだ。
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【鑑定評価の取引事例】
(取引事例地、取引価格(1平方メートルあたり))
▼A社
愛知県:8万1682円
福岡市:21万7775円
愛知県;6万5000円
個別価格(1平方メートルあたり):12万円

▼B社
愛知県:8万1682円
福岡市:21万7775円
茨木市:11万3438円
芦屋市:9万3円
個別価格(1平方メートルあたり):12万円

 「鑑定評価の取引事例」として、過去の事例を基に算出をするが、A社とB社はともに愛知県・福岡市の事例を参考にしている。この中で、愛知県の事例は公になっている情報で、愛知県の鑑定士協会のデータベースから引用されている。しかし、福岡市の事例については、福岡県の鑑定士協会のデータベースにはなく、独自取引のデータとみられる。独自取引事例ではあるが、A社もB社もこの福岡市の21万7775円を採用していた。A社は全国に展開する大手企業で、そうした独自の取引事例を入手もありえると推測されるが、鑑定業者にとって独自の取引事例は取引上の秘密で、基本的に他社に話すということはない。にもかかわらず、個人事業主であるようなB社も、A社が採用している独自取引事例をなぜか知っていた。田原さんや取材した鑑定士の中には、この点を不思議だと指摘する鑑定士もいる。

 今回、不動産鑑定を行った4社に対し質問状をなげかけたが、答えていない質問や正面から答えていないものもあり、誠意ある回答ではないと田原さんは指摘する。鑑定業者を含めて、納得のいく説明責任を果たすべきだとしている。

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