2025年07月14日(月)公開
なぜ日本の医療費は増え続けるのか? 47兆円は「誰が負担する?」参議院選挙で"医療の公約"を比較
参議院選挙2025
京都府京田辺市に住む高田禮美さん(76)は、夫の保幸(76)さんと2人暮らし。カメラが趣味の夫とかつては北海道から中国地方などまで旅行したといいますが、その生活は昨年一変しました。
ある76歳夫婦の生活から見える医療費
「ちょっと出かけてて帰ってきたら(夫が)ひっくり返ってて、それから以降はもう足が全然だめになってしまいました」
夫に脳の病気が見つかり、下半身が不自由な状態になったのです。以来、夫婦そろって「しょっちゅう」通院する生活になりました。若い頃から健康に気をつかってきた高田さんですが、年齢とともに通院が増え、夫の介護のため腰痛が悪化して、まっすぐ立つことも困難になり、整形外科に通っています。
腰の治療を受けた高田さんが、この日支払ったのは1100円。年金で生活する夫婦にとって、自己負担が少ないとはいえ、決して安い額ではありません。「今の私にしたら医療制度はありがたい。もう本当に、いちばん身にしみている」。
過去最高の国民医療費47兆円。現役世代からも不安の声
私たちの健康を支える日本の医療制度。高齢化などを背景に国民医療費はこの20年間でおよそ16兆円も増えました。2023年度には過去最高の47兆3000億円に達して、現役世代の負担が重くなるなか、医療費削減や自己負担の見直しが議論されています。
高齢者からは「年金も減るのに、医療費はこれからどうなっていくのか」と不安の声が聞かれました。現役世代の30代男性も「自分の老後はどうなる。今なら1割負担でいけるが、3~4割と増えた時に耐えられるか不安」と語ります。
いっぽう同じ現役世代の40代男性は「助けてくれる人がいなかったら助からない。医療従事者の待遇を充実させた方がよい」と、医療体制の維持強化のために負担増もやむを得ないとの考えを示しました。
なぜ医療費は増え続けるのか?
2040年には約80兆円になるという厚労省の試算もある国民医療費。なぜ、これほどまでに膨らみ続けているのでしょうか。第一生命経済研究所の谷口智明研究理事にその理由を聞きました。
1つ目は「高齢者の増加」です。日本では今年、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となります。さらに2040年代には、第二次ベビーブーム世代が70代に突入します。医療を必要とする機会が増え、これが医療費全体を押し上げる大きな要因となっています。
2つ目は「医療高度化と薬の高額化」です。例えば、白血病の治療薬「キムリア」は、患者の免疫細胞に遺伝子操作を加えてがん細胞への攻撃力を高めるという薬ですが、1回の投与で約3264万円もかかります。
難病である脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」は、約1億6707万円と桁違いの価格です。こうした治療も高額療養費制度などがあるため、患者が全額を負担するわけではありませんが、全体への影響は避けられません。
また7割の病院が赤字で、入ってくるお金が増えないのに、人件費や医療資材や機器の高騰で出ていくお金は増えるという指摘もあります。こうした経営難は特に地方において病院の閉鎖や医師不足といった深刻な問題を引き起こす一因ともなっています。
各党の医療公約を比較!ポイントは「負担は誰?」
今回の参議院選挙で各党はどのような主張を掲げているのでしょうか。その公約を詳しく見ていきます。
・自民党:医療・介護などの公定価格を引き上げ、医療従事者の賃上げを目指す
・ 公明党:公定価格の引き上げによる医療従事者の所得向上、医療・介護のDX
・ 立憲民主党:高額療養費制度を1年程度かけて再検討。軽症患者の医療費を優先して見直し
・ 日本維新の会:市販類似薬の保険適用を見直し。年齢でなく所得に応じた公平な窓口負担
・共産党:医療費に国費5000億円を投入し、高すぎる窓口負担の軽減、無料化
・国民民主党:年齢ではなく負担能力に応じた窓口負担。後期高齢者医療制度への公費投入を増やす
・れいわ新選組:病床削減はしない。マイナンバーカードを廃止して健康保険証を復活
・参政党:対症療法から予防医療への転換。GoToトラベルによる医療費削減インセンティブ
・社民党:マイナ保険証に反対、健康保険証の継続。高額療養費制度の自己負担額引き上げに反対
・保守党:健康保険法や年金法の改正(外国人の健康保険・年金を別だてに)
公約をもとに各党をグループ分けする
MBSの大八木友之解説委員は、医療に関して各党の公約には打ち出しや独自の特徴が見られるとしつつ、「現役世代の負担をどうするか」という課題意識は共通していると指摘、その中で最も大きな違いは「その負担を誰が担うのか?」という点にあると分析しています。
第一生命経済研究所の谷口智明氏は、各党の「医療」公約を以下のようにグループ分けしています。
・現行制度の維持・医療の効率化と予防重視:自民党、公明党、参政党
・世代間の格差是正かつ効率化重視:日本維新の会、国民民主党
・国費投入の拡大:共産党、れいわ新選組、社民党
・部分的見直し:立憲民主党
・言及なし:保守党
増大する医療費について、「誰が、どのように負担するのか」という視点で公約を比較すると、立ち位置の違いが明確になります。どの考え方が自身の価値観に近いのか、有権者にとって、選択のポイントとなりそうです。
ジャーナリストの武田一顕氏は、「このままでは医療はもたない」と述べ、この問題を解決するには、より根本的な視点である「経済成長」と「少子化対策」の主張も見る必要があるとしています。
「医療問題は核として重要なんだけども、経済がどんどん成長していったり、子どもが増えて人口が増えていれば、この問題は基本的になくなるわけだから、そっちの本質的なことも、参議院選挙では尺度にしてもらいたい。」(武田一顕氏)
番組ではこのほか、「急な病に倒れても、すぐ手当てを受けられる日本の医療制度は素晴らしいものですが、慣習的に行われる医療行為の中に非効率な部分がないでしょうか」という視点や、「医療問題は世代間対立に陥ると、なかなか進まない点もあるので、いまの事と将来の事、両方考える必要があるのではないか」という視点も示されました。(7月11日 MBS「よんチャンTV」)
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