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青春を捧げ「花園」目指す『大阪朝鮮高ラグビー部』全力で挑む部員たち 過去には部員不足で厳しい道のりも

コダワリ

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朝鮮学校を巡っては、国の授業料無償化の対象外になったり、自治体の補助金が見直されたりと、政治問題として扱われることもあります。一方で、朝鮮学校に通う生徒たちは勉強や部活に打ち込むなど、世の中の高校生と変わらない日常を送っています。ラグビーに青春を捧げた大阪朝鮮高級学校の生徒たちを取材。「花園」を目指して練習に励む彼らの姿を追いました。

全国屈指の強豪校「大阪朝鮮高ラグビー部」副キャプテン『強い憧れで入部した』

大阪府東大阪市にある『大阪朝鮮高級学校ラグビー部』は、全国屈指の強豪校で、35人の部員が今年も全国高校ラグビー大会、通称「花園」への出場をかけて練習に打ち込みます。(11月16日時点では3年生が引退し部員数28人)
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ラグビー部3年の副キャプテン・文銘一(ムン・ミョンイル)君(18)。誰よりも声を出してチームを盛り上げるムードメーカーです。ムン君は、大阪朝鮮高ラグビー部に強い憧れがありました。

(ムン・ミョンイル君)
「(花園に)初めて家族で見に行って、小学4年生ぐらいだったんですけど、それを見てからやりたいなと思いました。応援してくれる人たちがほぼ大阪朝鮮高サイドやったので、全員に応援されたらと考えただけでめっちゃやりたくて」
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小学5年生のときに西日本柔道選手権大会で優勝するなど、将来を期待されていたムン君。ところが、花園で輝く先輩たちの姿を見て以降、中学からはラグビーにのめり込んでいきました。

(ムン・ミョンイル君)
「歴代の先輩らがマイノリティーの中で全国の強豪相手に勝っている姿を見ていたので、本当にかっこよかったです」
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ムン君を始め、大阪朝鮮高に通う生徒の多くが在日4世です。練習中は日本語だけでなく、朝鮮語も飛び交います。今でこそラグビーの強豪として知られる大阪朝鮮高ですが、ここまでの道のりは険しいものでした。

初代監督が語る『大阪朝鮮高ラグビー部』の歩み

1972年にできた大阪朝鮮高ラグビー部の初代監督・金鉉翼(キム・ヒョニ)さん(72)。当時の写真を見せてくれました。

(キム・ヒョニさん)
「写真の左端に写っているのが私」
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当時の選手たちはやや荒っぽかったといいますが、規律を守るように厳しく指導したこともあり、数年後には強豪校とも互角に戦えるほどの力をつけました。ところが、朝鮮学校は学校教育法上「各種学校」の扱いで、当時は公式戦には出場できませんでした。

(キム・ヒョニさん)
「政治状況で叶わぬ問題だったから、出られなくても練習試合でも交流試合でも大阪ナンバーワン、あるいは関西ナンバーワン、全国ナンバーワンにでも勝てるようなチームを作ってやろうという意気込みだけはありましたね」
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そうした中、創部から22年後の1994年、高校体育連盟の特例により公式戦への参加が認められると、2003年度に全国高校ラグビー大会へ初出場して以降、2009年度・2010年度・2020年度の計3回、全国ベスト4に進出するなど、躍進を続けてきました。
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常に笑いが絶えない、仲の良いラグビー部ですが、部員不足の危機に直面した頃もありました。というのも、大阪朝鮮高は年々、生徒数が減っていて、多いときには生徒が1000人以上いましたが、今では5分の1の約200人に。ラグビーは15人でプレーをしますが、1年生が入学する今年の春までは部員は18人しかおらず、ムン君含めケガ人も相次いだことで、ギリギリの人数で戦わざるを得ませんでした。

(ムン・ミョンイル君)
「公式戦で1人が開始早々けがをしてしまって、リザーブ(控え)がいない状況で試合をしていたのは外から見ていて、とてもつらかったというのを覚えています」

こうした生徒数の減少は、2010年度から始まった国の授業料無償化の対象から除外されたことなどが影響しているといいます。文部科学省は当時、「朝鮮総連との密接な関係が疑われる」などの理由で除外し、いまも朝鮮学校を対象外としています。
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国際情勢や政治に振り回される生徒たち。それだけに、ラグビー部OBでもある大阪朝鮮高ラグビー部の文賢(ムン・ヒョン)監督(33)は…。

(ムン・ヒョン監督 33歳)
「朝鮮学校を取り巻く状況が厳しい中で、その中でも唯一、希望を与えられるクラブにならないといけないかなと思っています」

両親が感じるムン君の「成長」

監督の思いを胸に、チームとともに突き進むムン君。そんな彼を日々、支え続けた人がいます。奈良県桜井市で韓国料理店を営んでいるムン君の両親です。息子の成長を側で見守ってきました。

(ムン君の父・シュンキさん)
「たくましいです。新チームになってこの子らがやっぱりすごく変わったと思うんですよね」
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(ムン君の母・ヘスクさん) 
「自分が3年生になったときに、2年生と1年生の大切さ、『この子たちがいなかったら自分たちはチームを組めない、もっと一緒に頑張ろう』という気持ちがすごく強いなと思ったんですよね。そこは人間的にも人を思いやる気持ちがすごく成長したんだなというのは今回すごく思いましたね」

ムン君もこの3年間は充実感に満たされていました。

(ムン・ミョンイル君)
「朝鮮学校に通ったからこそ仲間にも出会えて。あの環境があって今の僕がある。そこに関しては感謝しています」

「花園」への出場をかけた大阪府予選 3年間の思いを込めて挑戦

11月7日、全国高校ラグビー大会への出場をかけた大阪府予選の日がやってきました。

(ムン・ミョンイル君)
「もうやりたい気持ちしかないです。早く試合したいです。」

1回戦は日新高校と対戦し『64対0』で勝利。準々決勝では関西創価高校と対戦し『43対0』で勝ち、順調に勝ち上がってきました。迎えた準決勝の相手は、5度の全国制覇を誇る名門・常翔学園です。3年間の全ての思いを込めて挑みます。
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前半、常翔学園に先制を許すも大阪朝鮮高がすかさず反撃。伝統のフォワードが押し込み逆転のトライ。その後は1本ずつトライを奪い合う一進一退の攻防に。

しかし、徐々に常翔学園にペースを握られてしまいます。ムン君も必死に食らいつきますが…。
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『常翔学園』対『大阪朝鮮高』の試合は60対21で終了し、大阪朝鮮高の「花園」への挑戦は終わりました。
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チームメイトを励まし続けたムン君ですが、最後には思いがこみあげてきました。
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この日の試合後、学校には無観客試合のため、会場に駆け付けられなかった保護者たちが大きな拍手で迎えました。
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(ムン・ミョンイル君)
「後悔は残っていないです。やることは全部やったので。同胞たちがいなければこういう経験もできなかったですから。そこは本当に感謝の気持ちと、あとは恩返し。来年、後輩には全国に出てもらって全国の同胞たちに恩返ししてもらいたいなと思います」

誇りを胸に全力で戦い続けた3年間。彼らの思いは後輩たちへと引き継がれていきます。

2021年11月17日(水)現在の情報です

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