2021年10月06日(水)公開
『漁師目指し』東京から琵琶湖にやって来た"女子大学生" コロナ禍で「できることは全部やろう」
コダワリ
滋賀県・琵琶湖の漁協では、高齢化が進み「後継者不足」に悩まされています。そんな中、この夏、漁師になるために東京から一人の女子大学生が琵琶湖にやってきました。取材で見えてきたのはコロナ禍を機に自分の未来を切り拓こうとする彼女のたくましい姿でした。
漁師の世界に魅了された女子大生 学生続けながら滋賀に暮らす
滋賀県・琵琶湖。船を操縦するのは大学3年の田村志帆さん(21)です。今年8月から滋賀県高島市の海津漁協で「漁師」になるために修業をしています。
(琵琶湖で漁師を目指す 田村志帆さん)
「生き物が好む深さがあるので、考えながら仕掛けてはいるんですけど」
仕掛けの糸を手繰る田村さん。始めてまだ2か月、今は道具の扱い方や魚の棲む場所などを覚える毎日です。
(田村志帆さん)
「漁師という職業がかっこいいなと思って、自分もなりたいと思ったんですけど。日々、自然と共生したりとか対峙したりする(漁師の)姿が、それを見てからですね」
田村さんは神奈川県相模原市出身。東京海洋大学で漁業について学んでいて、高島市で行われた短期の漁師研修に参加したところ、自然と生きる漁師の世界に魅了されました。新型コロナウイルスの影響で講義がリモートに変わったこともあり、大学生活を続けながらそのまま高島市で暮らすことを選びました。
(田村志帆さん)
「相模原市は海からちょっと離れていて、私は川とか湖に親しみがあって淡水魚がもともと大好きなんですね。それで小さい頃から魚を捕ったりとか、魚を食べたりするのに興味があってずっと育ってきたんですけど。琵琶湖と人との関わり方、暮らしや文化的な面にもすごく魅了されて、ここに住みたいなと思いました」
後継者不足で悩む漁協で漁師から“イロハ”を学ぶ
漁協は今、“後継者不足”に悩まされています。
田村さんに早く一人前になってもらいたい、漁師の中村清作さん(36)は手とり足とり、漁のイロハから教えていきます。
(漁師 中村清作さん)
「(田村さんは)すごく前向きですよ。『私やります』と言ってやるんで。『見ときます』と言われると全然上手になりませんから」
取材に訪れた日は午前5時に出港。田村さんは漁の支度をします。
(田村志帆さん)
「今から刺し網漁に行きます。(Q眠たいですか?)眠たいです」
夜明け前の琵琶湖。前日に網を仕掛けた場所へ中村さんと向かいます。狙うのは琵琶湖の固有種「ホンモロコ」です。
「刺し網漁」は魚の通り道に網を仕掛けておいて、網の目を通り抜けようした魚が引っかかり、抜けられなくなったところを捕まえる方法です。
(田村志帆さん)
「これが“ホンモロコ”という魚で、素焼きにして酢みそで食べます」
ホンモロコは京都の料亭で使われる高級魚で、肉質は柔らかく上品な味が特徴です。この日はほかにハスやウグイが捕れたものの、期待をしたほどではありませんでした。
(漁師 中村清作さん)
「全然ダメでしたね。その日その日によって天候も違うし、その日の様子を見ながら今日はこっちかなとか、ちょっとずつ(網を)調整する。そんな感じですかね」
(田村志帆さん)
「(漁の)数やって試行錯誤をしながら、そこが難しくも面白いところなのかなと思います」
漁師の仕事は船の上だけではありません。次の漁に備えて、針の付け替えや網の修理など仕掛けの準備も欠かせません。
(田村志帆さん)
「天気が悪くて漁に出られない日とかに、まとめて何セットも作っておいて“いつでも仕掛けに行けるように”という形でやられてますね」
ほかの漁師が水揚げしたビワマスをさばく作業も手伝います。田村さんは魚に関する仕事なら何でも取り組みます。
(漁師 中村清作さん)
「女性やったからとか言うのは全然考えていませんでした。その人がやる気あるんだったらフォローするのが我々の仕事なんで。すごく来てもらえたことはうれしかったです」
漁業を通じ見つめられた『自分の生きる道』
午後5時。1日の仕事を終えてバイクで家路につきます。帰るとすぐに大学の先生から送られてきた音声付きテキストで講義を受けて、レポートをまとめます。
(田村志帆さん)
「大学が東京にあるので、なかなか対面授業も再開できずにずっとこのような形が続いています。自分が集中できる時間帯に受けられるのでいいですね」
田村さんは同じ大学の4つ上の彼氏、大学院生の宮﨑捷世さん(25)と一軒家を借りて一緒に住んでいます。宮﨑さんは1年前から琵琶湖の淡水魚の生態を研究するために移住。研究の傍ら米作りをしていて、将来は2人で農業と漁業をして生計を立てる予定です。
(東京海洋大学・大学院1年 宮﨑捷世さん)
「(将来は)漁業で忙しい時は手伝いに行って、かわりに農業で忙しい時は手伝ってもらって。(田村さんと)考え方も似ているのでやりやすいですね」
(田村志帆さん)
「学生のうちにここまで進められているのは、こういう事態(コロナ禍)になったからというのはありますね。今この状況を利用して、できることは全部やろうということでやっています」
漁師歴50年のベテランも「後継者」候補に期待を寄せています。
(漁師歴50年 竹谷弥一さん(68))
「初めはこんなことしないと思っていました。後継者やね、ええ人材ですわ。有望ですわ」
(田村志帆さん)
「いつもかわいがってもらっています。漁のことだけじゃなくて『ちゃんと食べてるか』と言って下さって、気遣ってもらっています」
田村さんはコロナ禍の今、「自分の生きる道」を見つめることができました。
(田村志帆さん)
「太陽の光を浴びながら琵琶湖に出ていると、自分が生き物として生きているなという感覚があって。日々生きることが楽しいというか。みんなで琵琶湖の水産業のことを考えて、持続的に漁を続けていける。そんな環境を作ることに貢献できたらなと思います」
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