2025年02月17日(月)公開
視力失い「もう死のう」ふさぎ込む日々に光を灯してくれた『盲導犬』との別れ 「悲しみと思うとつらい」8年間ともに歩んだ"息子"が別の家庭へ
編集部セレクト
病気で全盲となった浅井純子さん(51)。45歳で全ての光を失い、一時は「死のう」とふさぎ込んでいましたが、盲導犬・ヴィヴィッドとの出会いが転機に。“全盲の世界を全力で楽しんでやろう”と考えるようになったと言います。 そんなヴィヴィッドが10歳を迎え、引退することに。別れの日までに密着しました。
「生きていけない…」絶望を救った盲導犬・ヴィヴィッド
浅井純子さん(51)。重度の視覚障害があり、今は目が見えていません。そんな浅井さんの“目”となっているのが、オスの盲導犬・ヴィヴィッドです。24時間365日、片時も離れずに生活しています。
(浅井純子さん)「(Qヴィヴィッドのどこが好き?)無関心なところ。マイペースなのよね、私と一緒で。そこがいい。ずっと私にべったりしているわけでなく、都合の良いときだけ『ママー』って来る。それは私も一緒。都合の良いときだけ『ヴィヴィー』って行く」
浅井さんが外に出るときは、ヴィヴィッドの仕事の時間。障害物を避けたり、段差や曲がり角を教えたり、安全に歩くためのお手伝いをします。
浅井さんの体に異変が起きたのは30歳のころ。突然、周りがぼやけて見えたことが始まりでした。病名は「モーレン潰瘍」。自らの免疫が角膜を攻撃する疾患で、医師からは「角膜移植しか治療法がない」と告げられます。数えきれないほどの手術をしましたが、45歳で全ての光を失いました。
(浅井純子さん)「見えなくなったら生きていけないと思ったんです。なにも楽しみもない。どうやって生活していくんだろうと。もう死のうと思いました」
病気が発症したのは夫の茂さん(69)と結婚した翌年でした。茂さんはそれからずっと隣で寄り添い続けてきました。
(夫・茂さん)「かわいそうだと思いました。面倒見てあげなあかんと。だから逃げ出そうとかは全然なかったです。私が助けないと周りは助けられない。一緒に生活しているので、私しかいない」
ふさぎ込んでいた浅井さんに転機が訪れたのは2016年。ヴィヴィッドとの出会いでした。ヴィヴィッドと生活を始めたことで外に出る機会も増え、“全盲の世界”を全力で楽しんでやろうと考えるようになりました。
盲導犬=ペットと勘違いされ…飲食店では入店拒否も
浅井さんは、大阪市にあるアパレルメーカーで、従業員向けのマッサージをするヘルスキーパーとして働いています。社内ではムードメーカーです。同僚とのお昼ご飯では…
(浅井さん)「(義眼を)いじくり倒しててん、電車のなかで。それが、コロンって落ちた」
(同僚)「めちゃ転がっていきそう」
(浅井さん)「『目ー』って言って」
(同僚)「すぐに見つかったん?」
(浅井さん)「乗ってる車両がシーンってなった」
しかし、たくさんの壁にもぶつかりました。盲導犬をペットだと思われて、飲食店では入店拒否されたり、引っ越しの際にも入居を断られたり…。そのたび丁寧に説明し、1つ1つ切り開いてきました。
「愛情をありがとう」10歳の誕生日迎え“引退”近づく
去年6月、ヴィヴィッドが10歳になりました。盲導犬の引退は10歳前後だと言われていて、ヴィヴィッドも引退の時が近づいていました。引退すれば別の家庭に引き取られ、浅井さんのもとを離れることになります。
(浅井純子さん)「何でも分かるもんな。なぁヴィヴィ。絶対パパよりヴィヴィと一緒にいる時間のほうが長い」
去年11月、ヴィヴィッドのお別れ会が開かれていました。浅井さんの友人や会社の同僚など、出会った人たちが別れを惜しみました。
「いろいろな愛情をありがとう。いい子」
「次の人生を楽しんでもらわなな」
「婿にやると思っている」悲しい顔は見せない…新たな飼い主のもとへ
そして、盲導犬のヴィヴィッドが引退する日がやってきました。ヴィヴィッドの前では、最後まで悲しい顔は見せないと決めています。
(浅井純子さん)「悲しみと思うとつらいので。お婿にやると思うと、喜びじゃないですか。婿にやると思っている。(そう考えると)私自身の心が優しくなれるので、寂しくなくなる」
新しい飼い主は、引退した盲導犬の引き取りを希望していた男性です。愛媛県の大三島で妻と娘の3人でヴィヴィッドを迎え入れます。
(ヴィヴィッドの新たな飼い主 曽我幸祐さん)「かわいらしいですね。僕は昔、迷い犬のゴールデンを飼ったことがあります。その犬の表情が忘れられなくて、もう一度飼いたいと思っていたんです」
(浅井純子さん)「大切に育てていただければ。よろしくお願いします、わがまま息子ですけど。お婿さんに行くねんな?お嫁さんどこにいるかな」
ヴィヴィッドが新しい環境に馴染めるように、浅井さんは、1年間は会いに行かないと決めています。
(浅井純子さん)「ソワソワしてたな、最後。ちょっと分かってるかなと思った。触る感じも、いつものように触ってないから、バレてるかもしれん。幸せな子だと私は思います、たくさんの人に見守られて」
浅井さんの生活に明かりを灯した盲導犬・ヴィヴィッド。離れ離れになっても、その光が消えることはありません。
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