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「30年連続赤字」で "廃線危機" のローカル鉄道... あすから線路や車両を自治体管理で存続へ 経営再建の切り札となるか

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経営難が続く滋賀県の「近江鉄道」に、4月1日から「上下分離方式」が導入されます。自治体が車両や鉄道設備を保有し、近江鉄道は運行に専念するという “公有民営” の仕組みです。地方のローカル線の存廃が各地で議論される中、上下分離で近江鉄道が経営を軌道に乗せられるかに、注目が集まります。

近江鉄道は滋賀県東部を走る私鉄で、営業キロ59.5㎞は阪神電鉄(約49km)を上回ります。

1960年代には年間輸送人員が1000万人を超え、ピークの1967年には1126万人を記録しましたが、モータリゼーション(車社会化)などの波には抗えず、年々輸送人員は減少。少し持ち直しも見られますが、2022年度は約433万人と、ピーク時の3分の1程度にまで落ち込んでいます。

収支状況も厳しく、1994年度以降、30年連続で営業赤字が続いています。

“廃線”も排除せず議論 「全線存続」「公有民営方式の上下分離」を決定

今後のあり方を検討するために、近江鉄道や滋賀県、沿線市町は2019年に法定協議会を設置。“廃線” も選択肢として排除しない形で議論が行われましたが、法定協は2020年3月に「全線存続」を決定します。

通学や通院などをめぐり代替策(バス運行やタクシー券配付など)をとった場合の公費負担と、存続させた場合の公費負担を天びんにかけた際、存続のほうが “安上がり” であることが決め手となりました。

そのうえで存続の形態として、2020年12月に「上下分離方式」の導入を決定。▽鉄道施設などを県や沿線市町で保有し、▽近江鉄道株式会社は鉄道の運行に専念するという、いわゆる「公有民営」の形で維持・再建を図ることになったのです。

車両や鉄道設備を「管理機構」で保有・管理  費用は県と沿線市町で“折半”

その後、具体的な分担について検討が進められ、4月1日から以下の形で近江鉄道は存続します。

▽滋賀県と沿線10市町で構成する一般社団法人「近江鉄道線管理機構」が、車両や鉄道設備(線路や架線、信号機、踏切、駅ホームなど)を保有・管理。近江鉄道はそれらを無償で借りうけ、運行に専念する。

▽車両や鉄道設備の維持更新にかかる費用負担の割合は、「滋賀県:沿線市町=1:1」とする。

▽「近江鉄道線管理機構」の運営費(人件費など)は、沿線市町のみで負担し、県は負担しない。

法定協の最新の試算では、上下分離移行後10年間での県と沿線10市町の負担は、総額で約116億円にのぼる見通しです。

実はICカードがまだ使えない… 今後求められる対応は?

存続することになった近江鉄道ですが、公費のサポートに依存することなく、利便性向上などで経営状況の改善を図ることが求められるのは、言うまでもありません。

具体的には、▽高すぎるとも言われる運賃の値下げ(主要区間の1つの近江八幡~八日市で460円)や、▽ICOCAなど交通系ICカードへの対応(4つの駅でJRと接続しているのに現在はICOCAが使えない…)が最優先課題になることが予想されます。

ローカル鉄道の存廃が社会問題化する中で、上下分離移行で経営状況を改善し、地域のニーズに応えていけるのか。近江鉄道の今後が注目されます。

(MBS報道情報局報道センター 松本陸)

2024年03月31日(日)現在の情報です

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