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夫はあのとき復職を目指していた「彼の尊厳と、先にあったはずの未来も奪われた」憤る遺族が改善訴える国の給付金制度「夫は『無職』と一括りにされた」【北新地放火殺人事件あす2年】

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 2021年12月17日。昼の大阪・北新地で雑居ビル4階の心療内科クリニックが放火され、院長や患者ら26人が犠牲となった。クリニックの元患者で火をつけたとされる、谷本盛雄容疑者(当時61)も死亡した。残された遺族たちは、事件の真相も知ることができず、賠償を求める相手もいない“二重の苦しみ”に悩んでいる。

 事件から2年を前に、当時クリニックに通っていた夫を亡くした女性と、女性が参加している「犯罪被害補償を求める会」が12日に会見を開き、支援制度の拡充や見直しを訴えた。会見の冒頭、女性は深呼吸して息を整え、現在の心境を語り始めた。

――事件から2年を前に、今の気持ちは?

(夫を亡くした女性)今年も『12月17日』がやってきます。もう2年、まだ2年、というところです。子どもは、文章でのおしゃべりが上手にできていませんでしたが、この2年で私が知らない、自分とお父さんとの思い出話をしてくれるようになりました。そこで知る夫の姿は、しっかり子どもを愛してくれている父親そのものです。

(夫を亡くした女性)子どもの成長を一緒に見られなかった寂しさや悲しみに襲われます。かと思えば、ついさっきまで一緒にいたように感じることもたくさんあります。毎日がその連続です。

「夫は『無職』とひとくくりにされ、強い憤りを感じた」

 こうした日々の中、女性にとって事件の被害者や遺族らに国から支給される「犯罪被害給付金制度」は支援してくれる“救いの制度”と思っていた。しかし、当時の収入などに基づいて算定される給付金の申請を行なった際に、期待は覆され、”強い憤り”になった。

(夫を亡くした女性)「夫は復職するために、クリニックの『リワークプログラム』に通っている中で犠牲になったのですが、申請窓口で、『無職』とひとくくりにされ、強い憤りを感じたことを、昨日のことのように思い出します」

さらに、収入という無機質で表面的な基準が、夫の“歩み”を否定しているように感じると憤る。

(夫を亡くした女性)「夫が、資格を活かした職に就きつつも、思うように働けず葛藤する姿。リワークプログラムに取り組んでいた姿。収入なんてものを(給付金の)算定基準にした場合、彼の尊厳も、その先にあったはずの未来も、事件によって奪われ、さらに補償の段でも奪われる感覚です」

国に求めることは「遺族らの声を活かして」

(夫を亡くした女性)事件直後に、どん底に突き落とされる被害者や遺族にとって(現在の給付金の)算定基準っていうのは本当にむごい。

(夫を亡くした女性)子どもの将来を考えた時、(給付額が)十分かと問われるとそのようなことはありません。自賠責保険で救済されない交通事故の犠牲者に対する政府保障事業の保障額と比べても、まったく及びません。

 こう話した女性は国に対して、給付金制度の改善を求めている。

(夫を亡くした女性)ヒアリングをもっとしてほしい。実際、申請しないとわからなかったこととか、した人じゃないとわからないこと、困りごととか、怒りとか。(遺族らの)声を活かした制度の改革、運用の改善を期待したいです。

********

 警察庁の犯罪被害給付制度の案内には、制度の趣旨について、「社会の連帯共助の精神に基づき、国が給付金を支給しその精神的・経済的打撃の緩和を図り、再び平穏な生活を営むことができるよう支援するもの」(添付資料)とうたわれている。

 現状は、こうした理念が実現していると言えるのか。議論を深める時期に来ているのではないのか。理不尽な猛火の中で伴侶を亡くした女性の訴えが、重い問いを投げかけている。

【犯罪被害給付制度:殺人などの故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた犯罪被害者の遺族や、重傷病または障害という重大被害を受けた犯罪被害者などに、国が『犯罪被害者等給付金』を支給する制度】

2023年12月16日(土)現在の情報です

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