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『この音だけはなくしたくない』チャルメラの音色を響かせながら走る「ラーメン屋台」...2足のわらじを履きながら営業続ける2代目店主の挑戦

2022年11月15日(火)放送

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 チャルメラの音色を響き渡せながら夜の街を走る「ラーメン屋台」。最近ではめったに出会わなくなりましたが、この懐かしい昭和の文化をなくしたくないと、“2足のわらじ”を履きながら屋台を営業する店主がいました。

1杯500円…昔懐かしい「ラーメン屋台」を営業する2代目店主

 夜の街に響き渡る昔懐かしいチャルメラの音色。吸い寄せられるように人の列ができます。

 (客)
 「大ファンです。だいたい午後7時くらいから窓を開けておいて、音が聞こえたら走って買いに行きます」
 「(ラーメンをすすって)あぁ…止まらへんですね」
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 皆さんのお目当てはラーメン。もちもちの中太麺に豚骨ベースのあっさり醤油スープ。シャキシャキもやしにゆで卵、口の中でとろける分厚いチャーシューがたっぷり入って、なんと1杯500円(税込み)です。
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 このラーメンを作るのは、京都府八幡市を中心に営業する「東来軒」店主の吉田裕幸さん(57)です。

 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「今はもう何でもある時代ですけど、こういう昭和の時代の懐かしいチャルメラをなくしたくないと。それでやろうと思ったんです」

 実は吉田さんは去年6月に店主になったばかり。初代が病に倒れて営業を続けることが難しくなり、常連客だった吉田さんに声がかかりました。

 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「『え?』って思いましたね、最初は。びっくりしましたね。ちょっと1日考えさせてくれって」

本業は「卓球専門店」…初代店主からレシピ引き継ぐも『まったく味が違って』

 即決できなかったわけ。それは吉田さんに「もう一つの顔」があったからでした。実は吉田さん、本業は卓球専門店の店主。特に修理は遠方からも依頼があるほどの腕前なんだそうです。

 (卓球客)
 「(性格が)おっとりしてるというかね。僕らもおじいちゃんやけど。おじいさんやから大事にしてくれるのかは知らんで。ラケットを選ぶのでも親切にちゃんとね、儲けは度外視して。(ラバーを)サービスで張り替えたりしてくれてね」
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 本業と両立はできるのか。迷う吉田さんの背中を押してくれたのは家族の存在でした。

 (長女・茉紀さん)
 「そんなに悪くない話ではないかなと思いました。悪い印象もチャルメラ自体になかったので、『やってみたら?』という感じで」
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 こうして2足のわらじを履くことになった吉田さん。ただ料理は全くの初心者。最初は苦労の連続でした。

 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「(初代から引き継いだ)レシピも紙に書いたやつで、すごく簡単なやつだったんですけど、まったく味が違って。(友達に)『晩御飯をラーメンおごってあげるから来い。その代わりに味の感想を言って』というふうに言って。ラーメンの収入は無しで吐き出しばっかりでしたね」

住宅街・タクシー乗り場・スナック…様々な場所でラーメンを楽しみに待つ人たち

 午後6時。営業開始です。走り出して10分ほど、女の子が待っていました。おつかいを頼まれたといいます。すると、そこに高校球児もラーメンを買いに現れました。

 (高校球児)「すみません、ラーメン1杯ください」
   (記者)「お兄さんは女の子と同じ家?」
 (高校球児)「隣の家です」

 さらに向かいに住む女の子まで。

 (向かいに住む女の子)「すみませーん、1つください」
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 さらに、さらに…。

 (向かいに住むお父さん)「僕のところ2つ」
         (記者)「皆さん同じご家族ですか?」
 (向かいに住むお父さん)「ちゃいます、お向かいさん」

 音を聞きつけて、あっという間に4家族が集結。近所付き合いが薄れゆく時代。1杯のラーメンを通じてつながりが生まれていました。
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 午後10時。次に向かったのは京都市南区のJR桂川駅のロータリーです。その目的は何なのでしょうか。

 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「あそこがタクシーの乗り場なんですよ。その待機場所です」

 「うまいラーメンがある」。噂が噂を呼び、タクシードライバーの間でも話題だといいます。
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 (タクシー運転手)「昼間は食わんと、ここのラーメンを食べるために腹を空かせて来ているから」
      (記者)「きょうのお昼は食べていないんですか?」
 (タクシー運転手)「昼は食べてへん」

 ここにいるのはほとんどが個人タクシー。皆で食べるのは特別な時間だといいます。

 (タクシー運転手)
 「食べながら情報交換しながら。なんか集いの場みたいになっているのかな、ラーメンを食べながら」
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 午前0時すぎ。この日、最後にやってきたのはスナックです。9人前の注文が入りました。お酒のシメはやっぱりラーメン。これを食べるために来るお客さんもいるのだとか。

 (スナックの客)
 「チャーシューが多いやろ、ほんで卵もわかめ(海苔)も入っている。これでワンコインやで、どないする?」
 「めっちゃおいしくて最高!最高!」

 深夜2時。100杯以上を売り上げて営業終了です。

“新ルート開拓”するべく新たな場所に飛び込む

 後日、吉田さんを訪ねると、険しい表情でパソコンと向き合っていました。

 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「夜に回るラーメンの新ルートを検索しているんです」

 店を継いで1年あまり。この間、新型コロナウイルスによる体育館の閉鎖などで卓球関連の仕事が激減。新ルートの開拓でラーメンの売り上げを伸ばしたいといいます。
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 狙いをつけたのは大阪府枚方市にある居酒屋などが立ち並ぶエリア。

 (吉田さん)「スナック街へ行こうかなと思っています。飛びこみで」
   (記者)「飛び込みで!?」

 これぞ“吉田流”。しかし…。

 (吉田さん)「あ…閉まってますわ、スナック。誤算ですね」

 ほかのスナックも軒並み定休日でした。
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 幸先の悪い展開。打開策として向かったのは、複数の棟が並ぶ集合住宅です。うまくいけば一気に売れるチャンス。しばし待つことに。しかし、待てども待てどもお客さんは現れません。

 (吉田さん)「うーん。ちょっとお客さんが出てこないのでここは諦めますね」
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 新ルート開拓の洗礼を浴びた吉田さん。あてもなく走り出してしまいました。不穏な空気が漂っていたその時でした。

 (吉田さん)「こんばんは」
  (2人組)「こんばんは」

 ついにお客さんが現れました。吉田さんの後ろ姿に躍動感が戻っていきます。懐かしい音色に飛び起きたという人もいました。

 (娘と来た母親)
 「もう布団に入っていました。娘がテレビを見ている時に『音が聞こえているから出てみよう』と言われて」

   (母親)「この辺って回ってはるんですか?」
 (吉田さん)「今日はたまたま、そこの府営住宅に行っていたんですよ」
   (母親)「耳が良い娘が『聞こえてきた』と言っていたので慌てて来ました」
 (吉田さん)「ありがとうございます」

 結局2時間で16杯の売上。初日としては上々の結果です。
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 (東来軒・店主 吉田裕幸さん)
 「半分諦めもありましたけど、やっぱりこの音が聞こえて出てきてもらうっていうのは僕もすごくうれしいので。この音だけは消したくない、なくしたくないというのが僕の思いですね」

 昭和の灯を絶やさない。京都のチャルメラ物語はまだ始まったばかりです。

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