2022年09月14日(水)公開
「原爆に耐えて生き延びて長生きして良かった」戦後を見守った広島大仏の『里帰り』が再び人々の心を照らす「ここに来れば優しくなれる」
編集部セレクト
17年前から奈良県の寺に安置されている大仏。実は戦後の一時期、原爆で廃墟と化した広島の復興を見守った「広島大仏」だったということがわかりました。今回、60年以上の時を経て実現した『大仏さまの里帰り』を取材しました。
奈良の寺に安置された“かつて戦後の復興を見守った広島大仏”
9月10日、広島本通商店街を進んでいく大仏、その名も「広島大仏」。戦後の一時期、広島の復興を見守り人々に親しまれた大仏です。数奇な運命をたどり広島へと帰ってきました。生まれ変わった街を見て何を思うのでしょうか。
奈良県安堵町の「極楽寺」。広島大仏は現在はこの寺に安置されています。寺に大仏が来たのは2005年。“かつて広島にあった”ということしか知らなかったと言います。
(極楽寺 田中全義住職)
「こちらのお堂の仏さまが広島大仏、『阿弥陀如来』という仏さまでございます。ひょんなきっかけでと言うか、ある本、写真集を見てみると、その写真集に広島大仏さんが写っていらっしゃったと。なんとなく顔とか全体の大きさであったりとか、なんかこう似ているような気がして」
専門家も交えて調査したところ、11年前の2011年にこの仏像がかつての広島大仏であることがわかったのです。
原爆で廃墟となった広島市内。人々が復興に向けて歩みを進める中、当時、県内の別の場所にあった大仏を犠牲者を供養するために迎えようという機運が高まりました。盛大なパレードが行われ、原爆ドームのすぐ近くに大仏は移されました。1950年から5年間、そこに安置されたのです。
観光名所としても親しまれましたが、所有権をめぐる混乱が起き、所在不明のまま半世紀以上が経ちました。
広島の人々の記憶から消えていった大仏。「奈良にとどまるのではなく、再び広島の地を踏んでほしい」という思いを住職はあたためてきたと話します。
(極楽寺 田中全義住職)
「私はどちらかというと今のこの日本を平和に導いた第一歩を踏み出した人たちの思いを大切にしていかないといけないなと。“枯れた土に芽を植えた人たち”を私たちが忘れていては、きっと未来に平和はないんじゃないかなと」
丁寧に梱包されて広島へ…「大仏さまの里帰り」
そして今年ついに広島の企業の協力も得て里帰りプロジェクトが実現することになりました。原爆ドーム横の複合施設「おりづるタワー」で今年7月から2か月間公開されることが決まったのです。
今年6月下旬、いよいよ奈良から広島へ向かうことになった大仏。傷がつかないよう全体を丁寧に梱包していきます。ゆっくりと横たわらせ、頭の部分と体の部分を分解していきます。3時間ほどかけて運び出されました。
(記者リポート)
「関係者に見守られながら広島大仏が今出発していきました。半世紀以上の空白を埋めて広島へ里帰りに向かいます」
翌日の夜。おりづるタワーに到着した大仏は、らせん状のスロープを使い12階に搬入。無事に安置されました。
当時何度も大仏に会いに行った被爆者『ここに来れば何か落ち着く』
8月6日、広島原爆の日。ある被爆者が広島大仏との再会を果たしました。梶本淑子さん(91)です。原爆投下の約1年半後に父を亡くした梶本さん。当時、大仏殿の近くにあった親戚の洋服店で働いていて、何度も大仏に会いに行ったといいます。
(梶本淑子さん)
「懐かしいですねぇ、本当に。お久しぶりですね。すごく父に似ているんだわ。お寺もない、お宮もない、神社も何もない時でしたから、心の支えのような。ここに来れば何か落ち着くとか優しくなれるというのは、お父ちゃんに会いたいという気持ちが半分あったんじゃないかなと思ったりします」
再び被爆地の人々の心を照らした広島大仏。
60年以上の時を経て“原爆ドームと広島大仏が再会”
9月10日、大仏の姿は広島市内の繁華街にありました。里帰りプロジェクトのハイライト「大行列」です。1950年のパレードを再現し、人々が大仏とともに広島市内の中心部、往復約2kmを練り歩きます。
手を合わせる人の姿もありました。原爆で家族を亡くした被爆者である奥本博さん(92)。自身は生き延び、72年前のパレードを目に焼き付けたといいます。
(奥本博さん)
「改めて当時のことをまた思い出しました。原爆に耐えて生き延びて長生きして良かったです」
パレードの折り返し地点は「平和記念公園」。時が流れても姿を変えない原爆ドームと広島大仏が再会を果たしました。
(極楽寺 田中全義住職)
「『私は広島大仏です』と。『思い出してください』という自己紹介がしっかりとこの度はできたと思います。広島大仏さまとともに平和を発信し続けて精進していきたいと思います」
時代が変わり、安住する場所も変われど、広島大仏は平和を願う人々を見守り続けます。
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