2022年04月13日(水)公開
近鉄"あをによし"徹底取材『初の家具メーカーシートの設置角度は45°』『車体カラーはAかBか...』目指すは近鉄の名を全国区に!
編集部セレクト
4月12日にお披露目された新しい観光特急『あをによし』。新車ではなく別の特急車両を改造して作られました。これまで近鉄には名古屋行きの特急『ひのとり』、伊勢志摩方面の観光特急『しまかぜ』、吉野行きの観光特急『青の交響曲』などがありました。今回、新しく作られた『あをによし』は大阪・奈良・京都を結ぶ観光特急になっています。なぜ、いま奈良に観光特急なのか。その狙いを取材しました。
車体は「冠位十二階」で一番位の高い色!微調整で悩み
観光特急『あをによし』デビュー半年前の去年10月。
「近畿日本鉄道」の車両担当・奥山元紀さんは悩んでいました。
(近畿日本鉄道・車両担当 奥山元紀さん)
「こっちが2番の色で、こっちが1番の色」
奥村さんが悩んでいたのは車両の色です。最終候補の2色に絞り込むも決めきれず、試しに前後を半分ずつ塗ったというのです。
(近畿日本鉄道・車両担当 奥山元紀さん)
「こっちが濃くてこっちが薄い」
濃い色が後方、薄い色が前方。一見しただけでは区別がつきませんが、これもこだわりです。
(近畿日本鉄道・車両担当 奥山元紀さん)
「『冠位十二階の制度』の中で一番位の高い色として紫だったので。それを今回の『あをによし』という観光特急に選んだ」
遠方客に「奈良へは近鉄!」をアピール
「あをによし 奈良の都は咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」。新たな観光特急は枕詞のとおり奈良が主な目的地で、特に関東方面のお客さんにアピールしたいというのです。
なぜなら、観光客から次のような声があるからです。
(観光客)
「(Q近鉄の利用は?)初めて。(Q近鉄は知っていた?)知らなかった。検索して出てきたので利用した」
「新幹線で京都からJR奈良線で。(Q奈良→京都は?)JRで。往復で買っているから、JR奈良線で」
関東方面から奈良へ。その移動手段は、新幹線で京都駅に到着した後、JRか近鉄かで競合しています。大阪・奈良・京都を乗り換えなしで結ぶ『あをによし』は、「奈良へは近鉄!」をアピールしたいのです。
「スナックカー」を大改造…エンブレムは幸せを運ぶ“花喰鳥”
『あをによし』は、かつて「スナックカー」として親しまれていた車両を3億3000万円を投じて大改造しました。それでも新たに車両を作る費用の3分の1程度で収まるそうです。
車両のあちこちに奈良のイメージがちりばめられています。エンブレムは天平時代に縁起の良い文様として使われた花喰鳥をイメージしました。
(近畿日本鉄道・車両担当 奥山元紀さん)
「このキラキラ感、一目で感動しましたね。幸せを運んでくる鳥ということで、この電車が幸せを運んできていただけたら非常にいいかなと思っています」
座席シートは初めて「家具メーカー」に特注!
そして開発者のこだわりは車内の設備にも表れていました。完成したのは座席の試作品。製作はこれまでの電車専用のメーカーではなく、近鉄として初めて家具メーカーに特注しました。
理想の座り心地を求めてクッションは1年間試行錯誤の連続でした。
(家具メーカー)「最初の硬いやつ。触っていただくとわかるんですけれど、これがうちのオフィス家具のスタンダードの硬さだったんです」
(奥山さん)「(柔らかくするため)ここでカッターで切れ込みを入れたり、2層目に穴を開けたり」
(家具メーカー)「1か月~2か月単位で完成するのが多いんですけれど、1年かかった…」
奥山さんは1年を経て仕上がった座り心地を試します。
(奥山さん)「じわ~と沈むこの感じがいいですね。この肩のあたりも」
(家具メーカー)「最初と比べたら」
(奥山さん)「窮屈感がなくなった」
特急がデビューする1か月前の3月28日。作業は大詰めです
いよいよこだわりの座席が車両の中に。景色が見えるように車窓に対して斜めに組み込まれました。
(近畿日本鉄道・車両担当 奥山元紀さん)
「角度をいろいろ広くしたり狭くしたりしたんですけど最終的に45度になったんです。大阪平野がきれいに見えるのがちょうどこちらの窓になるんですよ」
悩んだ車体カラー…最終的に決まった色は?
そして4月12日、報道公開で観光特急『あをによし』がついに線路を走りました。京都~奈良間を35分ほど、大阪難波~奈良間を45分ほどで結びます。
あれだけこだわっていた車体の色ですが、最終候補のどちらでもなく、“光沢のある紫”に決まりました。
2人用のツインシートには家具メーカーと一緒に1年がかりで仕上げた座席が並んでいます。
(記者リポート)
「絨毯やカーテンなど天平時代をイメージした模様があしらわれています」
グループ用のサロンシートは1両に12席だけの贅沢仕様。窓を大きくとって、さらにゆったり景色を楽しむことができそうです。
車内販売では奈良にちなんだ軽食や地元のクラフトビールなどが用意されています。
「近畿日本鉄道」を知ってもらうきっかけに
ゴールデンウィークの4月29日にデビューする『あをによし』に鉄道会社が期待することは?
(近畿日本鉄道・企画統括部 小林昭夫課長)
「東京の方や遠方の方などは『近畿日本鉄道』という会社があることもご存じない方もいらっしゃいます。面白い楽しい電車を運行することによりまして、『近鉄で京都から奈良に行けるんだ』ということも知っていただけるきっかけになると期待しております」
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