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【解説】都市防災の専門家は『個室ビデオ店放火事件』との類似点を指摘「小さな空間の中であまり窓もなく避難路が狭い」大阪のビル火災

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12月17日午前、大阪市北区の繁華街のビルで火事があり、27人が心肺停止の状態で病院に搬送され、このうち19人が死亡しました。ビルは8階建てで、火元と見られる4階部分には心療内科などの患者を診察するクリニックが入っています。今回の火災について、都市防災が専門である関西大学の越山健治先生に話を聞きました。

―――現場で一体何が起きていたのか。越山先生の見立てでは、出口がふさがれて避難できない、窓が開かないなどの状況が考えられるということなんですね?
「このビルの火災は雑居ビルの火災ですので、非常に面積が小さいところでの火災と考えられます。そうすると避難できる階段がたぶん1か所しかなくてですね、そこの近く、もしくは入り口付近で何かしらの火災が起きると、避難路がなくなってしまうという状況が考えられるのが1点目です。もう一点は、最初、出ている煙を見ると黒い煙が非常にもくもくと出てるのが見えたと思うんですが、黒い煙は不完全燃焼の煙で、一酸化炭素が非常に多く発生している状況になります。小さい空間で窓も開かずに黒い煙にさらされると一酸化炭素中毒というのが非常に多く起きてしまうことになります」

―――不完全燃焼はどう理解したらいいのでしょうか?
「普通の焚き火で燃えているのは、周りにたくさん酸素があるのでよく燃えていて、それが完全燃焼だとするならば、酸素の量が足りなくなって、燃えない状態で黒いすすがどんどん出てきてしまう。その時には二酸化炭素ではなくて一酸化炭素も同時にたくさん出てしまうので、狭い空間だとすぐにたまってしまうんですね。そうすると、その中で多くの人がいると、このような大事故が起きることがあります」
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―――火災の映像を見ると、ビルの4階の窓から白っぽい煙が出て、建物の屋上から黒い煙がもくもくと出ているような印象を受けましたが、どういったことが考えられますか?
「こういう複層階のビルは、通常、排煙の装置があるので、煙は屋上からも出るんですが、窓を見た感じだと黒くなっているので、やっぱり非常にすすのある黒い煙が4階からも噴き出してるなという感覚があります」

―――2001年の東京・歌舞伎町のビル火災では、直通の1本階段しかなかったことが問題になりましたよね。まさに今その状況かと思いますが、消防法改正とかいろいろしていてもまだこういうビルが多いのでしょうか?
「ビルとしてはたくさんあるビルです。雑居ビルでこのような階段が1つしかないビルは。実はもう少し大きなビルになると、2つ階段をつけなくてはいけないということになるんですが、おそらくギリギリのラインだと思います。大きさとして」

―――このビルが消防法を考えたときにどの程度その条件を満たしていたかどうかまだわからない部分が多いんですが、我々の取材では階段は1つはあったということはわかっています。いわゆるこういう密閉された場所で不完全燃焼の煙がある時は、どれぐらいの時間が経つと一酸化炭素中毒になるのでしょうか?
「空間の広さによりますが、ここはたぶん窓の外にも印刷物が貼ってあったと思うので、室内から窓の場所をおそらく確認できないような形になっていたと思われます。そうすると煙が非常にたまりやすい状況ですし、また内装材からもうそういう黒い煙が出ちゃいますので、燃えてしまうとあっという間にその部屋が煙に包まれる。そうすると一酸化炭素中毒になると相当短い時間で症状が出てしまいますので、それはもう5分10分のところで勝負しないと命に関わる状況だと思います」
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―――今回の火災を見て越山先生が過去に起きた火災に非常によく似ている部分があるとみているのが、客16人が死亡した2008年10月に発生の「大阪の個室ビデオ店放火事件」です。火災のあった店では本来倉庫に収納すべきタオルやごみ箱などが廊下に置かれていたため、唯一の逃げ道だった幅1.2mの通路の半分近くがふさがれていました。この放火事件との共通点はどういうところに感じていますか?
「非常に限られた小さな空間の中で、あまり窓もなく、つまり空気が非常に逃げにくい入れ替わりしにくい場所で起きた火災で、かつ避難路は少ない、小さいという場面が非常に似ている火災と思われます」
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―――まだ今回の北新地の火災の原因はわかっていませんが、その建物の構造を考えたときに、逃げ場がない場所で起きた火災という共通点があるということですね?
「通常、大きな火災が避難路の近くで起きるとは想定しないんですけども、何かしらの原因でそういう場所で起きてしまうと、状況が非常に悪いということが言えるかと考えられます」

過去にこのクリニックを訪れたことのある人の情報を基に院内の様子についてまとめました。エレベーターホールを出ると、クリニックのエントランスがあり、そこからクリニックに入ると、受付と待合室があるということです。受付には常に2人の人がいたということです。道路に面したビルの西側に窓が4つあります。さらにクリニックの中に入って行くと、両サイドに施術・カウンセリング室があり、一番奥に院長の診察室があったということです。院長は基本的には1人で診察をしているという状況だったということです。クリニックの出入り口としては1つで、階段はエレベーターの近くにあり、火災が起きた際にクリニックの奥に人がいた場合、身動きがとれない状況になることが予想されます。

―――例えばですが、エントランスかエレベーターホールで大きな火が上がった場合、中にいる人たちはどういうふうに逃げるのが正しいのでしょうか?
「ちょっと調べてみないとわからないんですが、院内のイメージ図を見ると、おそらく院長診察室側に避難用の何かがあるんじゃないかなと思われる。逆側の方に窓があったりとか、避難器具があったりということが考えられるんですが、これは確認しないとわからないところです」
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―――そういったものが設置されてないといけないということになのでしょうか?
「8階建ての建物なので、2階以上はそういうものをつくっておかなくてはいけない建物になってると、確かそうだったと思います」

―――一酸化炭素中毒になると、体がすぐに動かなくなるということもあるんですよね?
「もう意識を失ってしまいますので、はい」

―――100平方メートルを超えると用途次第ではスプリンクラーの設置や防火設備が必要で、この建物はおそらくそれより狭いので、構造としては火災に弱いのではないかということが見て取れるのでしょうか?
「弱いと言ってしまうと語弊があるのですが、設置基準というのが必ずありますので、その設置基準、ある面積を超えると設置しなくてはいけないという防火設備や消防の設備がありますが、おそらくそのギリギリのラインでつくられている建物だと思いますので、そういう点からすると、ギリギリの領域・線でつくられている建物だということは言えると思います」
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―――火災があったクリニックにはソファーなど燃えやすいものが多かった可能性があります。ただ、こういったビルや建物、クリニックはたくさんありますよね?
「ソファーとかの化学製品が燃えるといろんなガスが発生するんですね。不完全燃焼も起こしやすいので、そのようなものが燃えると小さな火災でもすごく煙が出てしまって、一酸化炭素が出てしまうので、小規模の中でも非常に多くの方が亡くなるような事故や火災が今までも起きたことがあります」

2021年12月17日(金)現在の情報です

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